第32話 改造屋ネットとアームド
「ジルさんが言っていた仲間……… 陽さん、気を付けて、氷雨は玄の状態だ」
「分かっている。まともにやり合えば勝ち目はないだろうな。
だが俺達も黙って身を潜めていたわけじゃない。
オーバーズ、そしてガンマを倒すために日々を費やしてきたんだ。
今から人間の時代を取り戻す」
「何だ? お前らの仲間か? 人数が増えようと、もはや手遅れ。玄の前では無力同然なんだよ」
「それはどうかな?」
陽は地面を蹴り、間合いを詰めると、激しい打撃の連打を繰り出す。
その攻撃は今のダイス達より数段上の猛攻だ。
しかしそれは虚しく空を切り、氷雨にかすりもしない。
………ッ!?
氷雨がダイス達の視界から消えた。
速い!
さっきの戦いとは比べ物にならない、ダイスやスマには目視できない速さだったが、陽は何とか気配を感知しているようだ。
しかし、気配が分かるだけで氷雨の動きを捉えることは出来ず、陽の背中にズンッと重く鋭い衝撃が走った。
氷雨の肘が陽の背中に突き刺さったのだ。
氷雨は吹っ飛ぶ陽に追いつき強烈に蹴り上げ、空高く上がった陽めがけてスピアタイタンを放った。
しかもさっきの倍以上の大きさとスピードだ。
まるで大きなビルだ。
直撃すれば形も残らず粉砕するだろう。
ゴアッ!
避けられない。
当たるっ!
その瞬間、陽とスピアタイタンの間に何かが飛び込んできた。
そして、ガオンッ! という大きな音と共に、とてつもなく大きなスピアタイタンの先端から後ろまでのほとんどが抉り取られ消し飛んだ。
飛び込んできたのは人……
………ではなく見るからに機械丸出しのアーキノイドだった。
直撃を免れた陽はよろけながらも何とか身を翻して着地した。
氷雨の重く強烈な攻撃を受けたにも関わらず致命傷を免れ、しかも凍結していない。
代わりに氷雨が陽を肘打ちした腕はぶらんと力なく垂れ、蹴り上げた右足の膝下が折れていた。
「スピアタイタンを消し飛ばすとは………
ワームホールだな。
コソコソ隠れていた奴がいることは分かっていた。やっと顔を出したかと思えばアーキノイドかよ。
それにお前、玄状態の俺の攻撃を受けても砕かれず、凍りもしない。
更には攻撃した俺の方がダメージを受けるとは……… 電磁バリアを操るデバイスか?
今の俺の攻撃一つ一つはお前らには致命傷のはず」
「いやいや、さすがオーバーズだよ。
威勢よく仕掛けた割にかすりもしない上、今のでかいのくらったら正直やばかったかもな。
お察しのとおり俺のデバイスはバリア系だ。
相手の攻撃を防ぎつつ、同時に電磁衝撃を放つ。
今までこの電磁バリアを破ったやつは一人もいない。
しかもプラズマの熱で凍結もしない。
触れることで真価を発揮するあんたにとっちゃ、やりづらい事この上ないだろ?
でも流石にあれほど強烈な打撃だとバリアの上からと言っても下手したら致命傷だよ。
ちなみにそこのアーキノイドは俺達改造屋の仲間じゃない。
アームドだ」
「触れられない? 凍結しない? ワームホール? それで勝ったつもりなら考えが甘すぎねえか?」
そう話しているそばから手足は自己再生してしまった。
「自己再生もハンパねえな」
すると様子を見ていたアーキノイドが話しだした。
「玄を使ったオーバーズの力はまだまだこんなものではないことは分かっている。
油断はしない。
俺はアームドの野間 貫地。
改造屋ネットの陽だな。
貴様のところにも朱里さんの話がいってるだろ? 仲良くやれって話だ。
面白くはないが、オーバーズ相手じゃ協力せざるを得ないと思うがどう考える?」
「アームドの『野間 貫地』。
知ってるぞ。うちのボス、DDと同じ転送系デバイスの適合者か。
朱里さんが裏でうちとアームドの橋渡しをしてるのは知っているが、やっぱり俺は殺し屋のアームドと協力なんざごめんだね」
転送系デバイス。脳波の中でも習得者が極端に少ないθ(シータ)波でなければ適合出来ない。
自分の意識を空のアーキノイドに転送し操ることが出来る。
そのアーキノイドと本体であるカンジの距離が近ければ近いほどアーキノイドの力も増す。
「そうか。仕方ない。だが今の攻防で連携しなければ間違いなく勝てないことくらいは分かったはずだ。
とりあえず俺が奴の動きを止める。
そこにお前の電磁バリアを叩き込め。
行くぞっ!」
「ちょっ、ちょっと待て待て。協力はしないって聞こえてんだろっ! しかも随分簡単に言いやがって」
「簡単!? そうではない。
考えている時間がないだけだ。
戦いながら勝機を見つけるしかないだろう。
俺達がつまらない意地の張り合いでやられればここにいる全員が死ぬ。
エクスクルーダーの記憶を持つかも知れないダイスも捕獲される。
少しでも勝率を高めるには共闘の選択肢以外ない」
「くそっ! そんなことは分かってんだよっ!」
「ちなみに俺のワームホールは一撃で何でも消しされるが、お前を助ける時に一度見られているから警戒されている。
まず当たらないと思ったほうがいいだろう。
それと、さっきあのでかい槍を避けようとしていなかったな?
何か隠してるんだろ?
まぁうまいことやれよ」
「余計な世話だっ!」
そう言って陽は単独で氷雨に突っ込んでいった。
ダイス達を助けた電磁バリアの円盤を両手で投げるが、二つともヒラリとかわされ、ブオンッという音だけが空を切る。
「よし、俺も加勢に行ってくるっ!」
陽達のお陰で動ける程度に回復したダイスが立ち上がった。
スマよりも随分と自己再生が早い。
「行くぞってお前、さっきの氷雨の動き、捕らえられなかっただろ? 足手まといになっちまうのがオチだ」
「でも………」
「気持ちは俺だって同じだ………今はもう少し回復したら一旦リミットだ。
特にお前はもう限界に近いはずだ。
脳波を休ませないとオーバーシュートしちまう」
ダイスは気持ちを抑えて回復に専念した。
− − − − − −
「脳なく突っ込んできやがって。本来のトロールアームを見せてやるよ。」
そう言うと、今まで氷雨を薄く覆っていた霧のフロストヴェールの密度が濃くなった。
それは凍りだし氷の鎧となった。
そこからのぞくトロールアームは、ダイス達に見せた時よりもサイズダウンしているがおそらくその分密度を高くし硬度が上がっているのだろう。
「おおおおおーーーっ!」
陽は攻撃の手を休めず仕掛けるがやはりダメージを与えることが出来ない。
これがオーバーズ。
レベルが違いすぎる。
氷雨が拳を繰り出した。
それはただの打撃だが、あまりの速さに陽は全く反応できなかった。
氷雨の拳が無敵だったはずの電磁バリアを破り陽の腹にズドンッ! と突き刺さる。
一撃。
たった一撃で陽は意識が飛んで動けなくなった。
「バリアで凍らないとか言ってたな? これでもか?」
氷雨の腕にもたれかかって動かない陽が腹から凍っていく。
電磁バリアに直に触れている氷雨はその作用で反発の衝撃と高熱に襲われているはずだ。
その証拠にバチバチッと耳をつんざくような激しい音が鳴り響いている。
それにもかかわらず、さっきのようにダメージがない上に逆に陽を凍らせている。
ダメージを受けたそばから自己再生しているのだ。
高熱の電磁バリアを纏っているとはいえ、この凍結速度では一分と持たないだろう。
その時、陽が、腹に刺さった氷雨のトロールアームを両手で掴んだ。
「危ねえ……… 意識が飛んじまった。
でもやっと捕まえたぜ。これでもくらいなっ!
コンプレスっ!」
氷雨を掴む陽の手の平に小さな、しかし高圧縮した電磁バリアが発生した。
この手で掴まれた物質は弾け飛び形は残らない。
バギバギギギッ!!
硬い。
トロールアームが瞬時に弾け飛ばない。
いや、弾け飛んでいるが、そのそばから生成しているのだ。
「なんだ? もっと他に芸はねーのか?」
「うおおおーっ! この化け物めっ!」
「ないようだな、なら凍っちまいな。ふんっ!」
陽が一気に凍りだした!
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