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第31話 オーバーズの所以

 氷の塊にふっ飛ばされていたスマは起き上がって怒りに身を任せた。


「レ、レイーーーッ! おおーーー!!」


 スマが体をガシガシ叩いて体中のスタンプに熱を帯びさせながら飛びかかった。


「スマっ、落ち着けっ! 一人で行ったら駄目だ」


 スマの耳には届かない。


 スマの激しい打撃の猛攻が絶え間なく繰り出される。

 その打撃は、氷雨(ヒサメ)が受け流す度にババンッ、バンッ、ババンッと、通常の打撃とは違った、耳慣れない破裂音を伴っている。


 氷雨のフロストヴェールに接触しているはずなのにスマは凍結もしていない。


 防御の上からスマの力任せの渾身の拳が氷雨を捉え、バツンッ!と破裂音が轟いた。


 氷雨は吹っ飛んだが、しなやかに着地して、ダメージはないようだった。


「ヘヘッ、凍結なんか怖かないぜ。

 当てると同時に灼熱スタンプを弾けさせりゃいいだけ。

 威力も倍増だ。ダイス、今のうちに早くレイをっ!」


 破裂音はスタンプが弾ける音と打撃音が混ざったものだったのだ。

 スマが畳みかけるように氷雨に走る。


 氷雨が何かを投シュッとげるような仕草をした。


 何も持っていないはず………


 ドスッ!


 突然、足と腹に激痛が走った。

 見ると血が流れている。

 スマは前のめりに倒れた。


「ぐぉ………氷か!?奴が生成して投げた………

 まずいな。朱里さんに頃合い見て逃げろって言われてたけど、これじゃ逃げるどころじゃねえや」


 ダイスが駆け寄ってきた。


「スマ、大丈夫か? レイならまだ生きてる。

 見てみろ、メタルフォームのまま氷漬けになってるだろ。

 氷雨にやられる前にギリギリで全身を覆っていたんだ。

 きっと攻撃が失敗して凍結を喰らっても中の体は致命傷にならないようにしたんだ」


「俺もそう思った。

 でも空気もなく超低温でいつまで持つか………

 急がないと。

 そういう俺は、見ての通り結構ヤバイぜ。

 自己再生してるが暫く動けなそうだ。

 レイならすぐ治せるのに。

 それよりダイス、俺の腹と足に飛んできた、さっきの攻撃見たか?」


「あー、尖った氷のクサビだった。

 でもあれなら俺のアイロニックで弾けそうだ。

 とにかく今度は再生する前にテッパンを連発してやる」


 ダイスはそう言うと、スマの方をポンと叩いて、氷雨が氷で何かを生成する隙を与えない速さで間合いを詰めた。


「テッパンっ!」


 テッパンの破壊力からすれば防御の上からでも抉るパワーがあるはずだ。

 ダイスは大振りの一撃を繰り出した。


 ドゴンッ!


 氷雨は片手でその拳を簡単に抑えた。


「なっ!?止められた………」


「何を驚いてんだ? 

 最近のデバイスはデュアルってのが流行ってるらしいな。

 お前らはパワー系も仕込んであるんだろ?

 パンチ力は大したもんだが宝の持ち腐れだよなぁ。

 威力を理解した上であればいくらでも対策はできる。

 打撃を受ける時にフロストヴェールをそこに集中させて威力を削ればいいだけのこと」


 氷雨に腕を掴まれてしまった。


 アイロニックに高熱を帯びさせていたにもかかわらず、物凄い勢いで凍結が広がる。


 ガキキキッ!


 ダイスは瞬時に氷雨の腕を自ら掴み返し、軽くジャンプしながら体をスクリューのように回転させようとした。


 氷爆の腕を捩じ切った動きだ。


 その動きを見切った氷雨は腕が捩じられる前にダイスを殴り飛ばした。


 氷雨の手から逃れたのに凍結が止まらない。

 掴まれすぎた。


「うぅ…… と、凍結を、止めないと」


 ダイスはダメージを負いながらも体をこすったり叩いたりして熱をおこし、なんとか凍結を抑えた。


 氷雨の打撃が襲いかかってくる。


 速い。


 このまま打撃でやり合っても手数が多いうえ、触れる度に凍結を喰らうダイスに勝ち目はない。


 ダイスは距離を取った。


 氷雨が迫る。


 更に距離を取る。


 それを繰り返す。


「おいおい、舐めてんのか?距離を取っても無駄だ。これでも喰らいな………

 スピアタイタン(巨神の槍)


 氷雨が片手を空に向けて何かを生成し始めた。


「さっき投げた氷の玉か。いや、違うぞ………」


 それはみるみるうちに全長5メートル、中心の直径は2メートルはあろう巨大な槍に変化した。


「避けてみろ。避ければお前の仲間が木っ端微塵だ。

 だが受け止めればただではすまねぇだろうけどな」


「………ッ!?」


 気付いた時には遅かった。


 槍とダイスの直線上には凍ったレイがいた。


 氷雨は無造作に追っていたようで、実はダイスをこの位置に誘導していたのだ。


 氷雨は槍の中央に手刀をザクッと刺すと、思い切り振りかぶって放った。


 氷雨の氷は硬い。

 先程の小さなクサビであればアイロニックで弾けただろうが、この槍は無理だ。


 受けるしかない。


 ダイスは胸にアイロニックを集中させた。


「ううおおーーーっ!」


 ズガッ!


 槍の先端が鋼化した胸の中央にまともに刺さった。凄まじい加重で足が地面にめり込み、地面に亀裂が入る。

 アイロニックで鋼化した体は貫通こそ免れたものの、胸に深く食い込んで背中が槍の先端の形に盛り上がった。


 ………止めた。


 この巨大な氷の槍を止めることができた………


「ガハッ………」


 ダイスはその場にグラリと倒れ込んだ。

 かろうじて、背中を貫通しかけた程の胸の深い食い込みは自己再生したがアイロニックも消え失せる寸前だ。


「ダ、ダイスーっ!」


「止めやがったか。アイロニック………

 なかなか厄介なデバイスだな。

 俺のスピアタイタンでも貫けないとは。

 まだ使いこなせていないうちにここでトドメを刺しておかなければならないな」


 氷雨は手持ちサイズのスピアを生成しながらダイスに近づいた。

 凍らせるのではなく確実に息の根を止める気だ。


「ダイスっ! 起きろっ! ダイスっ!」


「無駄だね、貫けずともタイタンを喰らって起き上がったやつはいない。

 手こずらせやがって。

 これで三匹目」


 氷雨がスピアを振るった。


 ドスッ!


 スピアがダイスの頭スレスレに地面に突き刺さった。


 外した!?


 いや、ダイスが避けたのだ。


「まさかっ、何故動ける……… オーバーズ並の自己再生かよ」


 このチャンスを逃す訳にはいかない。


「もらったっ!」


 ダイスは起き上がりざま、間髪入れずにテッパンを繰り出した。

 しかし、すんでのところでフロストヴェールに纏われた腕のガードで防がれてしまった。


 それと同時に、でかい声を張り上げてスマが氷雨に突進した。


「チャージぃーーーっ!」


 『チャージ』とは言ってみればただの体当たりのことだ。

 しかし、スタンプデバイスを操るスマのチャージは破壊力が尋常ではない。

 相手に突進する際、一歩踏み出すごとに足の裏にあるスタンプが弾け、これにより爆発的な加速を得ることができる。

 そして相手に体当たりすると同時に接触した部分のスタンプが弾け相手を破壊する。


 驚異的な瞬発力とスタンプの衝撃が合わさったスマの必殺の技だ。


 しかし自己再生が完了していない状態では危険過ぎる。

 案の定、再生しきっていない足と腹の傷から血が溢れ出し一瞬よろけたが、ズダンッと踏みとどまって走り出した。


アイスウォール(氷の鉄壁)っ!」


 スマの前に分厚い氷の壁が何枚も現れた。

 しかし、既にチャージ状態のスマはことごとくその板を破壊し更に加速する。


「くそったれどもがっ!トロールアームっ!

 三匹目はお前だ」


 氷雨が両腕を氷で纏うと極太の氷の剛腕『トロールアーム』となった。

 これでスマを返り討ちにする気だ。


 スマのチャージと氷雨のトロールアームが激しい音とともにぶつかり合う。


 砕けたのは………


 氷雨のトロールアームだった。


 しかしトロールアームは両腕だ。

 もう一方のトロールアームがスマの脳天に打ち下ろされる。

 咄嗟に頭を腕でガードしたが地面が陥没するほどの衝撃でスマは叩きつけられた。


 オーバーズの渾身の一撃は死に直結する。


 喰らう間際、スマはダイスに、『後は頼む』と言う様に目で合図を送った。


「スマーーーッ!」


 スマが捨て身で作った氷雨の隙。

 ダイスはありったけのアイロニックを集中したテッパンを氷雨に叩き込んだ。


 ドゴォッ!


 氷雨の脇腹に突き刺さる。

 しかし氷雨の反応は速く、フロストヴェールでテッパンの威力が削がれてしまった。


 二発目、三発目、四、五、六七………

 スマに体勢を崩され反撃が出来ない氷雨を逃すまいとダイスはテッパンのラッシュを止めない。


 徐々に不完全に発動したフロストヴェールを破り拳が届き始める。


 しかし、氷爆との戦いからダイスは完全回復していない上に、テッパンは通常のパンチと違いアイロニックを一つの拳に集中させなければならない。


 これを交互に繰り出す拳のタイミングに合わせるのは、今のダイスのレベルでは脳や体に負担が大きすぎる。


 ダイスが力尽きるのが先か、氷雨が倒れるのが先か………


「ぬぅおおおおーーっ!」


「倒れろおーーーっ!」


 ダイスの目と鼻から血が滴り落ちた。

 脳にダメージが出始めているのだ。

 しかしラッシュをやめない。


 ドゴォンッ!!


 氷雨がぶっ飛んだ。

 渾身のテッパンが氷雨を抉り飛ばした。

 同時にダイスも前のめりに倒れ込んだ。

 お互いギリギリの攻防だったのだ。


 動く者がいなくなった………


 レイを、ダムドを、助けなければ………

 スマは生きているのか………


 じゃり………


 地面を掻く音がした………


 スマだ。


 生きていた。


 しかし、両腕は破壊され自己再生も遅く深刻なダメージだ。

 スマは這ってダイスのもとへ行き、呼びかけた。


「ダ、ダイス………生きてるか?おいっ起きろっ! 解除したまま気を失えば、そのままオーバーシュートして意識が戻らなくなるぞっ。起きろっ!」


「………う…ス…スマ………生きていたのか……良かった………」


「おぉ、とにかく解除していられる限りデバイス機能を再生に全振りしろっ!俺もお前も死ぬぞっ」


「氷雨は?氷雨は倒せたのか?」


「ピクリともしてないからやったかもしれないが分からない。

 でも少しでも動けるようになり次第撤収だ。

 レイとダムドを担いでジルさんとこに戻るぞ」


 もし氷雨がまだ起き上がってくるのであれば、もう誰も戦えない。

 万事休すだ。

 早く自己再生して動かなければ。


 その時、


(げん)………」


 声がした。


 見ると氷雨が立ち上がっている。


 氷雨の目の下からは、こぼれた涙が頬を伝うように一筋のアザが走り、それは枝分かれを繰り返し、紋様を描くように体を伝っているようだった。


「た、立ち上がった……… スマ、まずいぞ、あの紋様、『玄』だ。

 朱里さんが前に話してたオーバーシュートの先にある極限状態」


「あー、俺も見るのは初めてだ。で、最後かもな。クソッ!」


 『玄』

 強改造者は解除によって集中力が累積的に増加していく。

 各々の実力により耐え得る時間は違うものの限界を超えるとオーバーシュートしてしまう。

 ひと度オーバーシュートすれば、限界以上の力が暴走して死ぬまで暴れ出すか、廃人と化すしかない。


 しかし一部の強改造者はこのオーバーシュート後の圧倒的な力を維持しつつ意識を保つことができる。この極限状態に入ることを『玄』と言う。


 限界を超えた者、という名前の由来のとおりオーバーズ達は、この『玄』の習得者なのだ。


「俺のテッパンとスマのチャージで同時に攻撃する。いけるか?スマ」


「分かった。じっとしててもやられるなら一か八かやってやるよっ!」


 重傷の二人はなんとか立ち上がり、氷雨を挟むように飛び出した。


 スマが折れた腕で無理を推してチャージで加速していく。

 ダイスも残る力を振り絞り、上半身にズズズッとアイロニックを集中させ突進する。


 氷雨に焦る様子はない。


 ドガガガンッ!


 二人の攻撃が氷雨にまともに直撃した………


 いや、防がれた。


 さっきは氷雨を抉り、トロールアームを砕いた二人の攻撃がいとも簡単に片手で抑えられてしまった。


 同時に氷雨が足払いを繰り出した。


 たかが足払い………


 のはずだった。


 重い。

 二人の足の骨が折れる音がした。更に凍結もしていく。

 パワーもスピードも通常の解除とは桁違いなうえ、打撃を受けただけで掴まれた時のように凍結していく。


 ガキキキッ!


 倒れた二人の首を氷雨がスッと掴む。

 瞬間、二人はほとんど凍結してしまった。


「ぐがっ………」


 物凄い握力で掴まれ足も折れている二人は逃げることも出来ない。『駄目だ、やられる。』二人の脳裏に最悪がよぎった。


 その時、大気を揺らしながら大きな音がした。


 ブゥンッ!


 突然、ダイス達を掴んでいる氷雨の腕めがけて音の発生源であろう青白い円盤が飛んできた。


 氷雨は咄嗟にダイス達から手を離し距離を取った。   


 その円盤は氷雨の腕をかすめて地面に深く突き刺さると、バチッと音を立てて消滅した。

 遅れて目から赤い光が漏れる体格の良い男がスカイモービルに乗って現れた。


 その男はすぐさまダイス達の胸に何かデバイスを貼り付けると凍結の進行が止まった。

 ヒートデバイスだった。


「遅れてすまない。よく生き残ったなダイス、スマ。

 俺は八坂間 陽(やさかま よう)

 改造屋ネットのメンバーだ。

 ジルさんから話は聞いている。

 アイロニック適合者だろ?君達を連れて逃げる算段だったが……… そうもいかなそうだな。

 後は任せろ。」


 絶体絶命のタイミングに現れた(よう)と名乗る男により、ダイス達は助かった。

読んでいただきありがとうございます。


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