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第30話 オーバーズの氷雨

 − − − − − −


 氷瀑をなんとか倒し、安心したのも束の間だった。


 !?………


 急激に気温が下がった。


 もともと地面が凍っているほどの環境だが更に凍てついた。

 スーツを着ていなかったらものの数分で動けなくなるだろう。


 オーバーズの氷雨(ヒサメ)が来る。


「来た来た来たっ! オーバーズだ。氷雨だろこれ絶対に。ヤバイ、どうする?」


「ちょっと、オロオロしないでよスマっ。

 情けないわね。戦うに決まってるでしょっ! 

 ダイス、もう解除出来そう?」


「あー、何とかいけると思う」


 ダイスの自己再生はやはり並ではないようだった。ものの10分ほど前まで戦って負傷もしていた。


 例えばこれが戦い慣れているスマであった場合でも30分、欲を言えば1時間はインターバルを要するだろう。

 インターバルを置かなければ、解除出来ない、もしくは解除してもすぐに息切れしてしまう。


「とりあえずみんな、さっき氷爆と戦って分かったんだけど、攻撃にしろ何にしろ、触れただけであっという間に凍る。

 掴まれでもすれば、そこから凍結が全身に広がっていくんだ。

 おそらく氷雨は更にその上をいくと思う。

 対氷爆ではヒートデバイスを全開にして何とか凌げたけど氷雨だと厳しいだろうな。

 俺はアイロニックで鋼化していれば、ある程度ダメージを軽減できるけどレイとスマは直接触れるような攻撃はエヌジーだよ」


「いーえ、私も多分メタルフォームならいけるわ」


 メタルフォーム。

 レイの操るネオメタルデバイスは回復系だが、戦闘においても抜群の能力を見せる。

 ネオメタルを体全体に纏うことで攻守共に強化されるのだ。


「凄い、そうなんだ!でも俺みたいに組織自体が変化するわけじゃないだろうから、体に凍結が広がらないように気をつけて。

 レイは回復の要だからね」


「悪いけど俺は遠巻きに援護させてもらうよ。凍結は相性悪すぎなんだよな」


「頼む、スマ」


 ダムドが注意を促す。


「南南東約5キロ地点、冷気の発生源が近づいてくる。氷雨だ。10秒後には到達」


「なんて速さなんだ。みんなリミッター解除だっ!」


 ダイスが脳波をベータ波優位にすると目から赤い光が漏れた。

 そして、胸の中心に黒く現れたアイロニックは、波紋のように広がって消えた後、ズズズッと上半身を黒く鋼化させた。


「解除っ!」


「解除っ」


 ダイスに続いてレイとスマも解除する。


 シータ波を得意とするレイの目から青い光が漏れる。

 (てのひら)の穴から流れ出たネオメタルが体全体を銀色に包みこんでいく。

 これがメタルフォーム。


 スマはダイスと同じベータ波。目からオレンジの光が漏れだした。

 全身を覆う強力なスタンプデバイスが顔から足の爪先に向かってバラバラバラッと小さく波打ちながらウェーブした。


 臨戦態勢だ。


 ダムドがカウントダウンする。


 3………  

 2………

 1………


 物凄い速さで何かが滑走してくるのが目視できる。


 人!?


 ではない。


「何だあれ!? 氷の板!? まずいぞ、こっちに飛んでくる!」


「あんなもん俺のスタンプで迎撃してやるよっ!

 ショットっ!!」


 スマが掌から発射したスタンプは見事に命中し、氷の円盤を木っ端微塵に破壊した。


「何だ今のは? 乗り物みたいだったけど何も乗ってなかっ………」


「プリズン………」


 何者かの声がした………


 頭上からだ!

 同時に息が出来なくなるほどに空気が凍りつく。


 突然ダムドが、携帯している予備の燃料タンクを、声がした頭上に投げ上げ、それを上腕の銃砲で撃って爆発させた。

 激しい爆炎と共に熱風が巻き起こる。


「ッ!?」


 咄嗟に全員が一斉に飛び退いた瞬間、その場に巨大な氷が出現した。


 空間が一瞬で凍ったのだ。


 ダムドが爆発による熱を冷気にぶつけて、僅かな間を作ってくれていなかったら、全員逃げ遅れて凍っていただろう。


「ダムドーっ!」


 代わりにダムドが犠牲となり氷漬けにされてしまった。


 スマが駆け寄って掌のスタンプで氷を破壊しようとしたがダイスに止められた。


「駄目だスマ、中のダムドごと破壊してしまう」


「あーっくそっ!分かってるよ。待ってろよ、あいつを倒してから何とかしてやるからな」


 スマの視線の先には、巨大な氷の上に立っている全身青色の男がいた。

 その男は冷徹な目でこちらを睨んでいた。

 氷雨だ。


「あーあ、めんどくせー。

 プリズンで全員氷漬けにするつもりだったのによぉ。

 お前ら、アーキノイドに助けてもらってるようじゃ弱すぎ。

 よくそれで氷爆を倒せたな。

 まぁ、あいつは役立たずだったがな」


 アームドの新佐からの情報では、氷雨はまだ回復していないはずだった。


「こいつが氷雨………

 元は人類の為に戦った強改造者。

 ダメージが残ってるって話だったけど、全然元気そうじゃないか」


「私達に嘘の情報を流して氷雨にぶつける計画だったのかもね。汚いわねアームド」


「ん? 何をごちゃごちゃ言ってんだ。

 ダメージ? 回復? アームド? 

 アームドの連中に騙されたのかお前ら? 

 同じ人間なのに騙し合い。

 これだから人間は滅ぼされんだよ、くだらねぇ。

 とりあえずメインラボから逃げたお前ら、特にダイスは生死問わずガンマ様のところへ連れて行く………」


 突然サーッと霧が立ち込めてきた。


 あっという間に濃い霧は辺りを飲み込み、氷雨が目の前から消えた。

 これも氷雨の能力だろう。

 視界はせいぜい3メートルほどだ。


「レイ、スマ、アウェイカーでお互いの位置情報と通信機能をオンにして戦うんだ!」


 これで離れてもお互いの正確な位置が分かり脳内で会話もできる。


 三人はさっきダムドが閉じ込められた『プリズン』で一網打尽にされることを警戒して、お互いに距離を取った。


 その直後、ダイスは周りにかかる霧がふっと揺らいだように感じた。


「何をしても無駄だよ」


 氷雨が真横にいた。


 ダイスは左肩にポンッと青い手を置かれた。


 ガキガキキッ!


「う、うぉあーーーっ!」


 アイロニックで鋼化している上半身が物凄い勢いで凍結していく。

 凍結の速さも度合いも氷爆の比ではなかった。

 ダイスは凍結が全身に広がる前にアイロニックの拳を繰り出した。


 その拳は氷雨の顔面を正面から捉え、手応えがあったのだが、逆に拳が凍って弾かれてしまった。


 見ると、氷雨の頭から足までを薄い霧が包んでいて、それはまるで、中世の鎧を思わせるような形状をしていた。


「フロストヴェール。

 どんな攻撃も凍結させる冷たい霧の鎧………

 お前のアイロニックデバイス、氷爆との戦いを参照()ていたぞ。

 凍結しても再生できるとはなかなか面白いが、今日で終わりだ」


 氷雨がまた霧の中へ消えてしまった。


「ダイス、大丈夫?」


「うん、でも危なかった。

 凍結の威力が半端ない。

 ヒートデバイスが無かったら多分一秒掴まれたら全身凍ってしまう」


 そう言いながら両腕の凍結していない部分を激しくガシガシとこすりだした。


「ちょっと何の音? どこか搔きむしってる?

 ちょっと痒いの?」


「おおっ? こんな時に急な痒みかよ、まったく」


「いやいや違うって。さっき氷爆と戦って思いついたんだよ。

 アイロニックで鋼化している部分をこうやって激しくこすれば摩擦で熱が発生するんじゃないかって。ヒートデバイスだけじゃ全然だめだ」


 こすると言っても強改造者が本気でやれば相当な熱量になるはず。

 ダイスの考えは概ね予想通りだった。


 見る間に凍っていた肩や腕が溶け出し両腕が真っ赤になるほど高温になった。


「おおーー! 予想通りだっ。これならいけるっ!

 でも、熱っつー!」


 呆れていたスマも感心した。


「原始的だけど氷雨には有効そうだな」


「アンノウン」


 レイがアンノウンで大気に微弱な振動をおこした。


「周りが見えなくても振動の共鳴で半径100メートル以内なら動くものを正確に感知できるわ。

 方向は私が教える」


「凄い!来る方向さえ分かれば叩き込める。

 でもあの霧の鎧を何とかしないとまた弾かれてしまう」


 すると、スマもガシガシガシッと体をこすりだした。


「ダイスのアイロニックが熱を帯びるなら俺のスタンプも金属だからできるはずだよな」


「あー、そうかもしれない。でもスマがガシガシ掻いてるって想像するとなかなか間抜けな動きだな、それ」


「ふざけてないでっ! 来るわっ! スマの真後ろからっ!」


 スマは横に飛び退きざまに振り返って、赤く高熱を帯びたスタンプショットを放った。


 霧の中から突如ふっと現れた氷雨は、氷で作ったスピアでギギギギンッとスタンプを弾くと、また霧の中に潜った。


「おっ、あいつ自慢の鎧で受けないで槍みたいので弾いたぞ。やっぱり高熱の打撃は嫌うんじゃないか」


「よし、どっからでも来いっ! スマ、()()()()()()()()()()()()


 ダイスの意味深な言い回しに、スマは一瞬面食らったが理解したようだった。


「ん!?………お、おぅっ、()()()!」


 ダイスは右を警戒して首をそちらに向けた。


 ………………霧が揺らぐ。


「ダイスっ! 左っ!」


 ダイスは動かない。

 聞こえていないのか。


「ダイス、早く避けてっ!」


 レイが叫んだ。


 氷雨が霧の中から現れ両手で掴みかかる。

 逃げられない。


 突如、氷雨の両腕がパパンッ!と上に弾けた。


 スマがこのタイミングをスタンプショットで狙っていたのだ。さっきの意味深なやり取りはこの計画だったのだ。

 ダイスが右を見たのも氷雨を誘い込むための囮だった。


「もらったっ! テッパンっ!」


 ダイスのアイロニックを集中させた赤い拳が氷雨の腹に突き刺さる。


 ジュジュッ、ズドンッ!!


 凍てつく氷の鎧フロストヴェールはジュジュッと蒸発する音を立てて一瞬持ちこたえたかに見えたが、テッパンはそれを貫通して氷雨の腹を抉った。


 ダイス自身も驚く恐ろしいほどの破壊力だった。

 氷雨は激しくぶっ飛んで瓦礫の壁にぶつかって崩れ落ちた。


「やった!」


「油断しないでっ!まだよ………」


 ダイスが喜んだのも束の間、氷雨の腹はあっという間に自己再生してゆらりと立ち上がった。

 再生速度も並ではない。


 これがオーバーズ。


「何だよあの再生速度。反則だろ。」


 スマが怯んだ。


「なら、再生する前にもっと叩き込んでやるっ!」


 氷雨は不愉快そうな目でこちらを睨みつけた。


「舐めていたとはいえ、我ながら情ねぇ。

 霧が振動して(さわいで)やがる。

 そこの女。

 ネオメタルで俺の位置をおさえてんだな。

 ネオメタル使いの知り合いが昔いてな。

 それならもうかくれんぼは終わりだ。」


 氷の霧が晴れていく。


 氷雨が踏み込んで飛び出した。


 凍った地面に大きなヒビが入る。


 ドンッ!


 速いっ!


 一瞬でレイとの間合いを詰めた氷雨が掌手を繰り出す。

 レイは両腕をクロスして受け、ギリギリのところで直撃を防いだが瞬時に凍結が広がっていく。


 ガキキッ!


 レイは物凄い勢いで凍っていく腕のネオメタルを意図的に剥がして、内側の体に凍結が及ぶのを回避した。


「なかなか機転が利くな。だが時間稼ぎにしかならない。少し本気を出そうか。」


 剥がれたネオメタルが溶けてレイに戻る前に氷雨が畳みかける。


 レイの腕は新たにネオメタルで覆われたが先程の凍結で剥がれた分、全体量が減少したため攻守共に弱体化している。


 氷雨の打撃はダイスほどの破壊力はない反面、恐ろしいほどの速さで繰り出され、レイは直撃を避けることで精一杯だった。


 更に厄介なのが打撃を受けて防いだ部分は凍結してしまうため、どんどんネオメタルが剥がされていく。


 このままではレイが危ない。


「レイっ!」


 ダイスが助けに走り、スマがスタンプショットを放った。


「大人しくしてろっ!」


 氷雨の拳がレイのみぞおちに深く突き刺さった。


 ガキキキッ!


 凍結が広がる。

 レイが衝撃で息が出来ずによろめくと、氷雨は両腕を左右から来るダイスとスマに向け、大気の水分を利用して、人の大きさほどの氷の塊を一瞬で生成した。


 ………ズアアッ!!


 一つはスタンプショットは弾いてスマに直撃し、もう一つもダイスに激しくぶつかって砕けた。


 ………氷雨に隙ができた。


 呼吸もままならない中、レイは氷雨の左胸に右手を押し当てた。

 薄くではあるが残ったネオメタルがレイの全身を包んだ。


「はぁ、はぁ………触れられて不味いのはお互い様よ………デスクエイク(死の地震)ッ!」


 ドクンッ!


 ネオメタルの強力な振動波が氷雨の心臓を捉える。

 このデスクエイクは強制的に心不全を引き起こす技だ。


 氷雨の鼓動が………


 止まる………はずだった………


「どうした? 俺の心臓に何かするんじゃなかったのか? 

 振動で鼓動を止める技のようだが残念だったな。

 気づいただろうが俺の心臓は機械化されている。

 血液も人のそれとは違う。

 自らの心臓と血液を凍結させずにアイスデバイスの能力を最大限引き出すためだ。

 もし、お前が初めから対アーキノイドのつもりで機械の心臓を破壊しようとしていたらダメージを与えられる可能性はあっただろうな。

 惜しかったな、

 これで二匹目だ。」


 氷雨がレイの腕を掴むとあっという間にレイは凍結してしまった。


読んでいただきありがとうございます。


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