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第29話 ダイス VS 氷瀑

ダイスのチップは、『アウェイカー寄りのチップ』というのが本当ですが、本編ではアウェイカーと表現させてもらっています。

 ダイスはアウェイカーのリミッターを解除した。

 カチッという音と共にダイスの目から赤く淡い光が漏れる。


 同時に胸の真ん中がメタリックな黒に鋼化し、水面の波紋のごとくズズズッと上半身に広がった。

 意識の鮮明化が累積的に促進され時間を追うごとに集中力が増す。


 一瞬がとても長く感じられ力が溢れ出す。

 潜在能力が覚醒される。

 リミッター解除の感覚だ。


 朱里から譲り受けたスーツは、それ自体もダイスのアイロニックに順応して鋼化した。


 ダイスは踏み込んだ。


 潜在能力が解放されたダイスの身体能力は凄まじく、一瞬で間合いを詰めた。


 氷爆はダイスより遥かに大きく、丁度ダイスの目線が腰の辺りだ。

 氷爆はダイスの速さについていけていないようだった。


 ダイスはそのまま両足の隙間をスライディングでくぐり抜け、振り向きざまに両膝の裏側に掌手を繰り出した。

 氷爆の膝がガクッと折れ、後ろに倒れ込みそうになったところへ強烈なアイロニックの拳を腰辺りに叩き込んだ。

 スピードはダイスに分があるようだ。


 ゴガガンッガガガンッ!!


 そのままラッシュを浴びせ、装甲を粉砕していく。アイロニックのパンチは重い。

 このまま押し切れるか。


 ブオンッ!


 後ろ向きの氷瀑がなんの予備動作もなく、まるで正面を向いているかのような動きでダイスの首を狙って腕を払った。


 アーキノイドは機械だ。


 その為、人間と同じ駆動域ではないことが多く、動作する時に行うタメや予備動作もほとんどない。

 人間と同じ動きを想定していては必ず負ける。


 ダイスはかろうじてアイロニックの腕で防いだが激しく吹き飛んだ。


「いいように殴って勝てる気でいたようだが自分の拳の心配をした方がいいぞ。

 俺は氷のアーキノイド氷瀑だ」


 ダイスは自分の拳を見た。

 なんと両方の拳がボロボロに欠けていて今にも崩れそうになっていた。

 氷瀑に触れるだけで凍結してしまい、あまりに低温だったため痛みすら感じていなかったのだ。


 ジルに貰ったヒートデバイスを装着していてもこの威力。

 これでは次のパンチで自分の拳が崩壊してしまうだろう。


 しかし、ダイスに焦りはない。

 ダイスは拳のアイロニックに意識を集中させた。すると、丁度レイが操るレアメタルのごとく崩壊した拳が再生していった。


 これは、アイロニックデバイスの特徴の一つだ。

 アイロニックは筋組織はもちろん血管も内臓も鋼化させる。

 そして、その部分が損壊したとしても鋼化している間であれば自己再生することが可能だ。


 しかし、ダメージが蓄積されている場合は再生できず、アイロニックが保てなくなると同時に致命傷となってしまう。


「いちいち再生できないように丸ごと凍らせてやるよ」


 ヒィーーン………


 さっきの凍結砲のタメの音だ。


 ボババババンッ!!


 今度は連射してきた。

 単発だと思って油断していたダイスは左前腕に一発受けながらも咄嗟に瓦礫の後ろに隠れた。

 パキッパキキッ………

 凍結はみるみる左腕全体に広がっていく。


「おおー、凍っていくー。まずい、ヒートデバイスの出力を上げないと」


 ヒートデバイスのお陰でなんとか腕の凍結を解凍することが出来た。


「これを食らって全身に凍結が回らないところをみるとヒートデバイス持ってやがるな」


『あいつと距離を取ると凍結砲を撃たれる。

 近づいて攻撃しても凍結してしまう……… 

 考えろ、どうすれば……… 

 アーキノイドのほとんどはコアが頭部にある。

 きっとあいつもそのはずだ。

 それを潰す。

 さっきのパンチで破壊した腰回りの傷は装甲の自己再生が追いついていない。

 今のうちにアイロニックの密度を集中させた渾身の拳をもう一回叩き込めば上半身と下半身を分断できるはずだ。

 それでコアを破壊すれば勝ち目はある。

 スピードなら俺の方が上だ、いけるっ!』


 アイロニックで鋼化すると硬度もさながら質量も大幅に増加し、それは攻撃力に直結する。

 更に、瞬間的にアイロニックを一点に集中させることにより何倍もの爆発力を生み出すことができるのだ。


 ダイスはそれを『鉄のパンチ』通称『テッパン』と密かに命名し、我ながらナイスな命名センスと思っていた。

 なお、ダイスにそのようなセンスはない。


「出てこないならそこで凍らせてやる!」


 ヒィーーン………


 凍結砲がくる。

 単発で撃たれれば凍結力は連射の比ではない。

 隠れていても瓦礫ごと凍ってしまうだろう。


 考えてじっとしていてもやられるだけだ、ダイスはヒートデバイスを出力最大にして飛び出した。


 ボバンッ!


 放たれた凍結砲を紙一重でかわす。

『奴は俺のスピードについてこれないっ』

 氷爆の間合いに入り、さっきの傷跡にテッパンを叩き込む。


 ドゴンッ!


 まさかっ。


 ダイスが地面に叩き伏せられた。


 氷爆が両手を握ってハンマーのようにダイスの頭に打ち下ろしたのだ。

 速さではダイスが上回っていたはず。


「うぐぐ……… なぜ俺のスピードを捉えられたんだ………」


「お前は強改造者だけあって速い。

 だがアーキノイドは常にアップデートする。

 速度データを考慮してお前の動きを予測することは簡単なことよ。

 しかもさっきの傷跡を狙ってくる安易な攻撃など予測もいらんわ。

 分かったところでお前の負けだ」


 ダイスは氷爆に左腕をまともに掴まれてしまった。


 パキッパキキッ………


 凍結が広がっていく。

 これでは10秒ももたない。


 鋼化していない部分まで凍結が及んでしまえば、自己再生よりも細胞の損壊が勝ってしまうだろう。


 しかしダイスは逆に氷爆の腕を両手で掴み、その巨体を背負い投げで地面に叩きつけた。

 そして、間髪入れずに腕を掴んだまま体をギュルルッと回転させ氷爆の腕を引きちぎった。


 無意識下での一瞬の体捌き。

 普通であれば逃れようとする状況だが、もしそうしていたならば氷爆の握力から脱出できず凍っていただろう。

 ダイスの戦闘センスは最適解を導き出していた。


 ヒィーーン………


 氷爆は倒れながらも凍結砲を放つ。


 ボバッ!ボババババンッ!!


 あまりにも至近距離。

 避けきれない。


 ダイスは足に一発食らってしまい転倒したが、咄嗟にアイロニックで足を鋼化し凍結による細胞の損壊ダメージを軽減した。


 さっきまともに掴まれた左腕と今食らった右足の凍結がなかなか溶けていかない。

 ヒートデバイスを出力最大で使いすぎて機能が落ちているのだ。


 片腕を引きちぎったとはいえ、動きを予測されるうえスピードも削られて、ダイス劣勢の状況に変わりない。


 ダイスが解除を保てる時間はもって10分。

 既に3分以上経過している。

 何より戦いが長引けば体力を削られ、捕まったり凍結砲を被弾してしまう。

 これ以上凍結すれば勝ち目はない。

 次で決着を付ける。


 ボババババンッ!


 右足が使い物にならない為、ギリギリで凍結砲をかわしながら少しづつ間合いを詰めていく。


 氷瀑が凍結砲を放つ時、一瞬だけタメの隙ができる。

 そこを狙う。


 ヒィーーン………


 タメの一瞬、氷瀑の動きが止まる。


 その隙をついてダイスが頭のコアを直接狙ってテッパンを繰り出す。


 ガシッ!


 拳が掴まれてしまった。


 パキキッ………


 凍結が広がる。


「遅い。苦し紛れにコアを狙ったところで返り討ちだな」


「どうかな? お前が掴んでいるのは氷かけた左腕だ。

 アイロニック全開の右のテッパンはどう防ぐつもりだ?」


「き、貴様、わざと………」


 そう、ダイスは初めから使い物にならない左腕を囮にして氷爆に掴ませるつもりだったのだ。


 しかし、この状況でアイロニックを一点に集中させれば他の部分の凍結が進み大きなダメージは避けられない。だが氷爆を倒すには躊躇している間はなかった。


 腕が一つしか残っていない氷爆はダイスのテッパンを防ぎようがない。


 ヒィーーン………


 凍結砲が来る。

 ダイスが渾身のテッパンを繰り出す。

 どちらが先に致命傷を負わせるか。


 ゴバンッ!!


 ダイスのテッパンが僅かに早かった。

 氷爆の凍結砲が放たれる寸前に頭がコアごと吹き飛んだ。


 氷瀑の巨体がズズンッと音を立てて倒れ込み、そのまま動くことはなかった。


 勝った………


 ダイスは仰向けになって凍結した手足の自己再生に集中した。

『危なかった……… ナンバーツーでこの強さ……… もっと強くならないと』

 手足の凍結もなくなりほぼ元に戻った。


 グリムリーパーとの戦いで朱里が違和感を感じたようにダイスの自己再生速度は異常に速く、他の強改造者には見られない特徴だ。


「リミット………」


 ダイスは呼吸を整えリミットした。目の光が消え、両腕にあったアイロニックのメタリックな黒色もスッと消えた。


 ドルルンッ!


 ダムドのエンジン音が聞こえた。


「おぅダイス、大丈夫かよ? こいつはナンバーツーか? お前一人でやったのか!?」


 動かなくなった氷爆と、そのそばで仰向けになっているダイスを見てスマが心配そうに聞いた。


「あー、何とかね。また勝手に飛び出してごめん、止められると思って………」


「ホントよっ、もう勝手なことはしないでっ! 

 一人で何とかしようとしないで私達も信用して。」


 レイは、仲間を信用していないと思われても仕方ないダイスの振る舞いに怒っているのだ。

 ダイスもそれは分かっている。


「でもみんなを俺だけの考えで危険に………」


 そう言いかけたダイスの言葉を遮り、レイがキレた

 。


「あぁ!? 『でも』とか言い訳しようとしてんの? 危険に巻き込見たくないとか甘ったれたことぬかそうとしてるんじゃないわよね? ねっ? 分かったっ?」


 レイはちょいちょいキレる。

 ダイスが縮こまって小さく『はい』と返事をするとレイはニコっと笑顔を作った。

 スマが『おっかねぇ』と言わんばかりにニヤついた。


今回の後書きは、強改造者の自己再生について改めてお話します。


強改造者は脳波を操り潜在能力を解放します。

そうすると、細かい筋肉の動きや血の巡りなど、体の隅々まで意識が届き、それらをコントロールすることができるようになります。

特に血の巡りを把握することで本来備わっている自己治癒能力を増幅させることができるのです。

そして、デバイスに備わる再生モード。

これは、強改造者の筋肉などを刺激し、自己治癒能力を更に増幅させると共に、デバイスの形状記憶を最優先にして、破損箇所も再生させることができます。

こうして、強改造者達は驚異的な自己再生を実現しているのでした!


読んでいただきありがとうございます。


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お世話になっております。X企画へのご参加、ありがとうございます。 最新話まで拝読させていただきました。 世界設定がおもしろいですね。 ダイスくん、めちゃくちゃキーパーソン! 仲間たちも好きですし、リ…
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