第28話 仲間も出会った人も大切に
本編に入る前に少し『チップ』と『コア』について復習です!
〇『アウェイカー』は、強改造者のチップです。
〇『アドバンス』は、ノーマルズのです。
〇『ガンマチップ』は、一般人に埋め込まれているチップです。
〇『コア』はアーキノイドが持つ、人でいう脳や心臓にあたる部分です。
ちなみにダイスにはどれにも属さない、おそらくアウェイカー寄りのチップが父である神馬博士によって埋め込まれています!
ジルのアジトは地上ではなく地下にあった。
ブリザドの地面は分厚い氷に覆われていて、見渡す限り一面が氷と雪の世界だ。
吹雪で視界が限られていてよく見えないが、何もなさそうな場所で突然でジルは止まった。
目印も何もなく、彼がいなければ絶対に辿り着けないだろう。
スカイモービルから降りたジルは少し歩くと立ち止まった。
するとジルの半径一メートル程周囲の氷に丸く切れ目が入りエレベーターのようにジルごと下に沈んでいった。
「お前らにも氷の扉の使い方を今すぐアウェイカーに転送するから続けて入って来い」
ダイス達はジルのアドバンスから使い方が転送されると一人づつアジトへ降りていった。
アジトは思っていたよりこじんまりとしてはいたが、見たこともないような様々なデバイスやよくわからない機械やらが床や壁や天井まで所狭しと並んでいた。
「どうだ? すげーだろ、このデバイスの在庫数。ここは内戦状態だから俺達改造屋は大忙しよ。
まぁ殺風景なアジトだが別の部屋には居住スペースもしっかりある。
とりあえず休んでくれ」
「それじゃあ計画通り暫く俺達はここでアームドの出方を見るんだね?」
「あー、奴らが氷雨と接触すれば仲間から連絡が来るようになっている。」
ダイスは壁のデバイスを眺めながらさっきの熟練ノーマルズの戦いについてジルに聞いた。
「でもジルさん、さっきのノーマルズのおっさん、凍ってたよ。アーキノイドでもあの威力なら、そのボスの氷雨は半端ないってこと?」
「そうだ、半端ない。一瞬で凍結だ。
しかも悪いことにお前らにはヒート系のデバイスを操る奴がいない。
お手上げと言えばお手上げだな」
それを聞いたスマがやっぱりと言った顔で言った。
「あー、俺の思ったとおりだ。アイス系デバイスの達人と俺達は相性悪い。
みんな氷漬けにされちまうよ。
なぁ、ひとまずやめとこうぜ」
レイは『何言ってんのよ』、と言った表情でスマをチラッと一瞥した。
「ハッハッハ、まぁ相性悪いに変わりないんだが、そこはブリザドに住む改造屋の腕の見せ所だ。
さっきノーマルズが腕の凍結を防いだの見ただろ? あれは俺が開発したポータブル型のヒートデバイスだ。
そこらのアーキノイド相手なら凍結を防ぐことができる。
最初に腕一本凍結させられたのは単純に奴の操作タイミングのミスだ。キャノンで討ち取ったと思って油断したんだろ。
ただ元オーバーズの氷雨となると…… 何とも言えねぇな。
まぁ何もないよりはいいだろ。ほれっ!」
渡されたのは腕時計タイプのデバイスと、氷上でもグリップを発揮する特殊なブーツだった。
腕時計を装着すると脳波による操作方法が流れ込んできた。
今の時代、紙の説明書はほとんどなく、大体はアウェイカーなどのチップを通して直接脳にインストールされる。
スマがポツリと弱音を吐いた。
「氷雨には役に立たない気がする……」
「やってみないと分からないよスマ。
それにもし通用しなかったとしても力を合わせて何とかしてやろうぜ!」
「ハッハッハ、頼もしいな。
ちなみにさっきのノーマルズは俺の知り合いで『ハジ』ってやつだ。
アーキノイド相手なら負けないだろうが、後から来たアーキノイドが抱えてたガキは奴のせがれだった。
うまく切り抜けているといいんだが……
氷雨を倒す為とはいえ我ながら薄情なやつだ。
これじゃ合理性で動くアーキノイドと同じだな。
お前らは仲間を大切にしろよ。」
「うん、俺は|仲間も出会った人も大切にする」
皆ダイスの答えに頷いた。
「それで、あのー、トイレってどこかな?」
「お前、なかなかの間だなこれっ!」
何とも間の悪い質問にスマが突っ込むと、笑いが起きて少し重くなった空気が晴れていった。
ダイスも笑いながらはトイレへ直行した。
−−−−−−−−
「…………」
「ダイス、遅いわね」
「く◯が長引いてんだよきっと」
「ったく、もっと違う言い方できないの!
それにしても遅いわよ、ちょっと見てきてよスマ」
「あー、いーよ」
そう言って隣の部屋にあるトイレを見に行ったスマは、呆れ顔ですぐに戻ってきた。
「……いなかった」
レイもジルもため息をついた。
「なぁレイ、あいつはいつもこんな感じなのか?」
「はぁ~、そうね、突っ走るタイプかもね」
「ダイスのやつ、さっきのノーマルズ親子を助けに行った…… 訳ないよな。」
スマが願いを込めるように言った。
「そうに決まってるだろスマ。
行くと言っても止められるからとはいえ困ったやつだ。
しかし、俺が仲間だとか余計な話をしちまったせいだな。
これじゃアームドの様子を見るどころじゃなくて逆に見られる立場になるな」
「こうなったら仕方ないわね。私達も行きましょっ!」
「仕方ねぇな。それじゃあ俺は戦える改造屋仲間を手配して向かわせる。
悪いが俺は戦いにおいては邪魔になるレベルだからな。気をつけろよ。
危なくなったら迷わず逃げるんだぞ!」
ジルはレイに気付かれないようにスマにウインクして合図を送った。
今回の戦いの趣旨を二人は共有していたのだ。
−−−−−−−−
さっきまでの吹雪はやみ、風の音もなくなったが、激しい戦いの音は続いていた。
ドドゥッ!
ハジのキャノンの音がする。
その方向を見ると通常の3倍はあるであろうごついアーキノイドがハジを抑え込んでいた。
抑え込まれながらもキャノンを連発するが傷一つ付けることができていない。
凍結は免れていてもこれではどうしようもない。
アーキノイドの頭部が大砲の形状に変形した。
あの至近距離で打ち込まれたら形すら残らないだろう。
ヒィーーン………
大砲のタメが始まった。
このままではまずい。
「うおぉぉーっ!」
ダイスはオート操縦にしたスカイモービルをフルスロットルで加速して、その勢いのままジャンプすると、アーキノイドの大砲から何かが発射される瞬間、その横っ面に飛び蹴りを喰らわした。
不意を突かれたアーキノイドの巨体は倒れ、その拍子にハジを放した。
ボバンッ!
ハジから狙いが外れて近くの建物に放たれたのは高密度に圧縮された冷気の塊だった。
建物は一瞬で氷付き、粉々に崩壊した。
「ハジさん、大丈夫? 子供は?」
「お前は!? なぜ俺の名前を!?
とりあえず人間だな。俺は大丈夫だ。
せがれも助け出したんだが次から次へとアーキノイドが湧いてきてな。
とどめにナンバーツーの氷爆が現れて危なかったとこだ」
『氷爆』
氷雨の代わりにコロニーを取り締まっているアーキノイドだ。
その巨体は強改造者をも圧倒するパワーを発揮し、頭の主砲で凍結破壊できないものはない。
各コロニーにはブリザドの氷爆のような『ナンバーツー』と呼ばれるアーキノイドが配置されていてオーバーズが従えている。
「ありがとな少年、だがお前はせがれを連れて逃げろ。見たところ骨格の合金化にパワー系デバイスのノーマルズだな。
俺もパワー系たが、プラスして見た目の通り体もかなり機械化、更にキャノンもある。
それでも氷爆には手も足も出ない。
俺が時間を稼ぐから行けっ!」
「いや、行けないね」
もちろんダイスは逃げない。
グリムリーパーに無謀は誰も救えないと言われた言葉がよぎる。
しかし、ハジを見捨てて自分だけ逃げることはできなかった。
「俺はダイス。ジルさんの知り合いだ。
ハジさんが息子さんを連れて逃げてくれ。
息子さんだけ助かってもお父さんがいなけりゃ寂しいだろ?
大丈夫。俺、こう見えて強改造者なんだ。
あいつは俺が倒す」
「何!? 強改造者!? しかし、俺達だけ逃げる訳には………」
「時間がない。息子さんの為にも。
早くっ!」
「………分かった。すまない、ダイス。
テノっ、出てこい、逃げるぞっ!」
そう言うと、背後にある瓦礫の奥から怯えた表情で少年が現れた。
テノと呼ばれたその小さな少年をハジは残った腕で抱えて走り出した。
ダイスはテノに余裕たっぷりの笑顔でニコっとすると体勢を立て直した氷爆に向き合った。
「この俺がゴミ同然の人間に不意打ちをかまされるとは全く不愉快。
覚悟はできているんだろうな……… ん!? 貴様、ダイスだな。
アウェイカーで容姿を誤認させているようだが、雑魚アーキノイドは欺けても俺には無効だ。
ハッハッハ、俺にも運が回ってきやがった。
ガンマ様はダイスを捕まえれば望みを叶えてくださると言っている。
お前を捕まえて目障りなオーバーズを皆殺しにしてもらう。
俺達アーキノイドの時代に人間は不要だ」
氷爆達ナンバーツーはガンマの命令でオーバーズの手足となっている。
しかし、ほとんどのナンバーツーは人間を嫌悪しておりオーバーズに従うことに激しい抵抗を持っている。
「お前が話の通じなさそうな奴で良かったよ。
心置きなくぶっ飛ばせるぜ。」
ダイスは話しながら、その一方で集中力を高め、得意とするベータに脳波を移行させていた。
「解除」
読んでいただきありがとうございます。
『続きを読んでみてもいいかな』、『面白いかも』と思っていただけた方は、是非、ブックマーク登録していただけると嬉しいです。
また、大変お手数ですが、 ↓ の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎をクリックして応援をしてくださると励みになります!




