第27話 内戦のブリザド
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サンドラのコロニーの端に到着したダイスは、境界に設置されているバリアを通過するための方法をジルから教えてもらっていた。
方法といってもスカイモービルでそのまま通るだけということだ。
このバリア、正面から突っ込めば高密度エネルギーによって一瞬で塵となる。
ジルが言うには、スカイモービルにはバリア解除装置が搭載されて、アーキノイドの探知にもかからないということだ。
しかもこの装置は汎用性があって、人間が携帯しながら歩いて通過することも可能らしい。
しかしそうは言っても消し飛ぶかもしれないと考えるとなかなか思い切れないでいた。
そうこうしていると、レイとスマがダイス達に追いついた。
「レイっ! スマもっ! どうした? 俺、今度はジルさんと一緒だからさまよってないぞ」
「やっぱりあなた一人じゃ心配だから私も一緒に行くわ。
それに、私もガンマを倒すためにずっとエクスクルーダー探していたしね。
根暗のスマは私のストーカーだからついてきたんじゃない?」
「ストトトトトトッ!? ひどいーー……」
スマは深く沈んでしまった。
「ありがとう。でもこの先は命がけだからみんなを巻き込むことはできないよ」
「何言ってんのよ、今話したでしょ。
ガンマ討伐はあなただけの問題じゃないの。
私の母親の仇討ちでもあるわ。もっと言えば人類の願いよ」
ジルが補足する。
「まあまあ、そう言いあってもしかたないだろ。
さっき話に出したが、ガンマ達の動きが活発化し、アームドも動き出している。
恐らく、今まで見つかっていなかったアルファ最重要のメインラボが発見され、50年という年月からダイス、お前が蘇生したことが大きいだろう。
ガンマ達はダイスを狙い、アームドはガンマ討伐を伺う。
今までこんなにことが動くことはなかった。
良いか悪いかは結果次第だが、今は行動を起こすタイミングではある」
「分かったわね、そういうことよ」
「んー、そっか、オッケー分かった!
それにみんなが来てくれることは確かに心強いし、じゃ、気合い入れて行こうか!」
なかば強引だったがレイとスマが一緒に行くことになった。
先程から意気消沈しているスマに気づいたダイスは『元気出せよ!』と肩をポンッと叩いて、『きっついな』といった表情を見せて頷いた。
「決まりだな。それじゃ行くぞっ!
みんな俺について来い」
ジルが先頭切ってバリアに突っ込むとレイとスマがそれに続く。
バリアは当たる直前、水面に波紋が広がる様に一瞬パッと開いてすぐ閉じた。
『気合いを入れて行こうか』なんて言った割に、この期に及んでダイスは尻込みしてしまったが、意を決して突っ込むと何のことはない。
普通に通ることができた。
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コロニーとコロニーの間はほとんどが不毛な砂漠地帯だ。
飛行タイプのアーキノイドが時折旋回しているので、速度を落としたり止まったりしながら、周囲の景色に溶け込むことができる同化シールドを張ってやり過ごす。
それでも時速で言えば二百キロは出ているだろう。
音や砂埃を全く立てないでアーキノイドを気にせずに突っ走れるのはダムドだけで普通のスカイモービルはそこまでの機能はない。
走りながらジルがブリザドについて話してくれた。スカイモービルの通信機能だ。
「今でこそ大規模な内戦で混沌としてしまったブリザドも初めは断トツで平和なコロニーだったんだ。アーキノイドに支配されて、いつ殺されるか分からねえってのにブリザドで幸せだなんて言うやつすらいたくらいだ。
氷雨も親しみやすくて、よく町中で見かけたもんだ。
で、特に気に入った幼い兄弟がいて、いつもその子らの様子を気にしていたよ。
兄弟には親がいなかったもんで氷雨によく懐いていたんだ。
だがな、ある時いつもの様に氷雨がふらりと町に現れ兄弟を訪れてみると、家の周りに人だかりが出来ていた。見ると家は荒らされ兄貴は死んでいた。弟もほどなく息を引き取った。
兄弟の傍らには紙切れが落ちていて『裏切り者の強改造者』と書かれていた。
強改造者である氷雨に宛てられた言葉だった。
平和なんて言ったところで結局は支配され、いずれ殺される。
氷雨達オーバーズが自分たちの為に戦ってくれたことなど遠い昔の話で、今はガンマの忠実な下僕だ。
むしろ敵意がある者の方が多いだろう。
氷雨には手出しできないから、要は嫌がらせよ。しかし、子供を殺すとはな。
今の時代、人間ではなくなってしまった人間が多くなっちまったのさ。
その時の氷雨は今まで町の人々が見たこともないような冷徹な表情だったらしい。
そこに居合わせた野次馬はほとんどが一瞬にして凍結してしまって、運良く助かったのはほんの少しだった。それ以来氷雨は町に来なくなり、アーキノイドの圧政が激しくなった。
氷雨の心にとどめを刺したのは人間なんだよな……」
半日ほど走り続けるとブリザドを覆うバリアの壁が見えてきた。
「あれが氷のコロニー『ブリザド』だ。速度を落とすぞ。
バリアに侵入したらそのまま突っ走って俺のアジトへ行く。
さっき話したがサンドラとは大違いで、内戦状態だ。皆血の気が多いノーマルズが多くてな。
とにかく自分の身を守りながら、絶対に余計な戦いに首を突っ込むなよ。
火に油を注ぐようなもんだ」
ブリザドに入った。
砂漠地帯の外とは打って変わってコロニーの中は真冬の猛吹雪だった。
朱里から貰ったスーツは温度調節もしてくれるが、それでも寒さが沁みてくるほどだ。
町もあり、建物もそこそこあるのだが、それらは破損しているものが多く、戦闘が日常茶飯事なことを物語っている。
轟轟と唸る吹雪の中、あちこちで爆発音が聞こえる。
ジルの話によれば、ブリザドのアーキノイドは戦闘能力が高い為、内戦を鎮圧しようと思えばいつでもできるというのだ。
敢えてそうしないのは、実力のあるノーマルズを叩き潰すことで反乱が無駄だと理解させるための見せしめだという。
しかし、人間もそんなことは百も承知で戦いを挑んでいる。
どうせ大人しくしていてもいずれ人類は絶滅させられるのだから、それならば戦いで勝って、倒したアーキノイドからオーバーズやガンマの情報を少しでも得てやろうということだった。
ドコーンッ!
ダイス達の目の前に、いかにも熟練そうなヒゲ面ノーマルズが吹き飛んできた。
一見したらアーキノイドと見紛うほど体のほとんどがデバイス化されていて、両肩にはキャノンが装備されている。
それを追って二体のアーキノイドが現れた。
青色を基調とした金属で出来ているブリザドのアーキノイドだ。
ノーマルズのキャノンがドドゥッ!と火を吹いた。
飛び掛かってきた一体のアーキノイドに直撃させ粉砕したが、辛うじて避けたもう一体に熟練ノーマルズは腕を掴まれてしまった。
すると、掴まれている腕が凍りだし、みるみる凍結が広がっていく。
「ジルさん、助けないと!」
ダイスが助けに向かうため進路を変えようとすると、ジルがそれを制した。
「手を出すな! 俺達は先を急ぐ。
今騒いで氷雨に見つかる訳にはいかない」
ダイスは悔しい気持ちを振り切って進路を戻した。
凍結しだした腕を見ても驚くこともなく熟練ノーマルズは自ら腕を切り落とした。
この腕もデバイス化されていたようだ。
そして今度は逆に残った腕でアーキノイドの首を掴んだ。
また熟練ノーマルズの腕が凍りだす。
しかし、凍結は広がらずにすぐに止まり水蒸気があがった。
溶かしたのだ。
おそらく高熱を発するデバイスが装備されているのだろう。
熟練ノーマルズはそのままアーキノイドを地面に叩きつけると、キャノンの連射で粉々に粉砕した。
しかし、安堵する間もなく新手のアーキノイドがやってきた。
そいつは人間の子供を抱えている。
それを見た熟練ノーマルズは怒りに震えた表情でアーキノイドを睨みつけていた。
熟練ノーマルズの子供なのかもしれない。
「ダイス、よそ見をするな。
今の世の中こんなことは日常茶飯事だ。
今やるべきことに目を向けろっ!」
加勢に行ってしまいそうなダイスをジルが何とか引き止め走り続けた。
商いが活発な町サンドラと違って、ブリザドは内戦状態!恐ろしいです。
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