第25話 アームドのシンザ
「ジルっ!」
「う…うう………朱里、すまねぇ、こいつに捕まってスキャン喰らっちまった………」
朱里が会おうとしていた改造屋のジルだった。
待ち合わせ場所に先回りされて捕まっていたようだ。
ジルが頭の中をスキャンされたということは、何故ジルと会おうとしていたのかもバレている。
ジルを掴んでいる若者があっけらかんとした口調で話しかけてきた。
「やぁ、朱里さん、お帰り! 遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ」
「新佐、てめえ、何のつもりだ?」
朱里は若者を知っていた。
「朱里さん、こいつは?」
「おー、ダイスは知らねーな。こいつはアームドってグループの一人『陀田 新佐』だ。
アームドはアーキノイド殲滅の為には手段を選ばない。人間の巻き添えもお構いなしだ。
6人と少数だが一人一人の実力はオーバーズに匹敵するとも言われている連中だ。」
「ご紹介ありがとう。でも人間の巻き添えもお構いなしってのはちょっとなー。
戦いの場面にいるんだから仕方ないよ。気にしてたらこっちが殺られるからね。甘いんだよ」
「けっ、その考えがお構いなしってんだよ」
「ははっ、まぁ、今日はそんなくだらないことを話しに来たんじゃないよ、朱里さん。
俺らも忙しいんでね。
そこのダイスってやつ、渡してくれないかな。
お前、アルファの拠点から逃げる時、一瞬でアーキノイドの大群を停止させていただろ。
更にアイロニックが適合したらしいじゃないか。
拒絶反応はないのか?
たとえそれを克服したとしても、鋼化した体を元に戻すことは、いわゆる自己再生の処理が必要だ。
それも誰も成しえない相当なレベルでだ。上位のアーキノイドの再生と同等以上のものだぞ。
有り得ない。
それをこの古参の改造屋に調べさせようとしてたんだろ。興味あるね」
レイが返す。
「渡すわけないじゃない。何であんたがアルファの一件を知っているの? ジルさんにはそこまで話してないはずよ」
「あー、そうだね、君らの宝物探しは前から一応アームドが監視してたんだよ。で、あの時は丁度俺が見ていたからね。
そのままダイスを頂いても良かったんだけど、君等を追ってきたアーキノイドに見つかっちゃってね。とばっちりってやつ。ひとまず様子見してたんだよ」
「新佐、これはお前らのボス『DD』の意思なのか?」
「んー、その通り、と言いたいとこなんだけど、今回は俺の独断。
DDもあんたと一緒にアルファで働いてたからね。
考え方が違うけど詰まるところ打倒ガンマだから、今もお互い牽制しながら微妙な関係保ってるじゃない。だから、DDに話しても、今回の俺みたいに強引なやり方はしない思うんだよね。ってこと」
「へへっ、そうか、DDの奴もガキの世話に手を焼いてるってことだな」
「どうとでも言ってくれ」
黙って聞いていたダイスが口を開いた。
「俺はお前達の所には行かない。
ガンマを倒すなら協力すればいいじゃないか。
それに強引にしなくても知ってることは教えてあげるよ」
「はははっ、分かってないなー、さっきの話聞いてただろ? お前らみたいに甘い連中と組んでたら命がいくつあっても足りないんだよ。
それに、記憶喪失なんだってな。教えらんないじゃんか。しかも俺らが特に興味あるのは力の方、アイロニックデバイスの力だ。
だから解剖とかしちゃうかもよ。
とりあえずダイス、お前が簡単には手に入らないことが分かったよ。
それっ!」
新佐が弱っているジルを空中に放り投げた。
「ジルっ!」
咄嗟に朱里が駆け寄り、地面に叩きつけられる前にキャッチした。
「解除っ!」
その隙に新佐は解除してダイスに突っ込んだ。
速い!
しかし、そこそこ回復していたダイスも同時に解除して、上半身をアイロニックで鋼化させた。
新佐を迎え撃つ。
ドゴンッ!
新佐の拳がダイスの顔面を捉えた。
しかし、アイロニックの前ではダメージはほとんどない。
一方ダイスの拳も新佐の脇腹に突き刺さった。
手応えあり。
しかし新佐はそれをものともせず続けざまに強烈な蹴りをダイスの横っ腹に入れた。
鋼化していない部分に攻撃を受けダイスは倒れ込んだ。
すかさず新佐がダイスの頭を踏み潰そうとする。
ドンッ!
突然新佐が吹っ飛んだ。
朱里の強烈な体当たりが炸裂したのだ。
並のアーキノイドなら粉々になる威力だが新佐はすくっと立ち上がり服の汚れをはたきながら言った。
「痛ってー、流石パワーを極めただけあるよ。
死ぬかと思った。
でも今ので分かったよ。本気でやっても実力の半分も出せなくなってんじゃない?」
「………」
朱里は黙っている。
「やっぱりそうなんだ。
さっきグリムリーパーと戦って、あいつの音波食らったんだね朱里さん。
奴のデバイス『ソニック』の厄介なところは内部破壊にある。
強改造者が扱う脳波とデバイスとの連携を担う頭ん中をソニックは壊してくるからな。
至近距離であればあるほどダメージは計り知れない。
もう再生無理そうだねそれ。ガンマ討伐どころじゃないでしょ」
「解除」
スマが解除し、続けてレイも解除した。
「おっとっとー、流石に全員相手となるとキツイなぁ。土産はないけど今日は退散するよ。
ダイス、なかなかいいパンチじゃないか! でもそれじゃあ足りない。
もっと鍛えないと次に会う時は捕まえて解剖しちゃうぞっ!
またな、ハハハッ!」
そう言って新佐がパチンッと指を鳴らすと、地面から浮いて滑走するバイクのような乗り物『スカイモービル』がやってきた。
新佐はそれに飛び乗るとあっという間に逃げ去ってしまった。
ダイスとスマが追おうとしたが朱里がそれを制止した。
「やめとけ、あの野郎本気じゃねーようだ。
デバイス能力も使わなかったしな。
さしずめ、オーバーズと戦う時にどれだけ役に立つ駒となるかダイスの力を測りに来たってとこじゃねーか」
「アームドの新佐。俺のパンチは確かに手応えあったんだけど、顔色一つ変えずに切り返してきた………」
「あー、あいつらアームドは多少ダメージ食らっても動きを止めねーんだよ。勝ちへの執念だな。
そういう訓練してんのよ。
だから相手は焦って隙を突かれる。
そして自分達は隙ができない。
結構な一撃をかまさねーと倒れないのよ。」
「それはそうと朱里さん、実力が出せないって本当なんですか?」
「まぁな、奴の言う通り、打ちどころが悪かったのよ、運がなかったな。
しかしまぁパン屋の営業にはこれっぽっちも問題ないから心配するな。ウハハハハッ!」
もともと朱里は強改造者の適合者ではなかった。
しかし、アーキノイドに殺された妻の仇討ちを誓った朱里は、解除する度に寿命が削られていく事と引き換えに、負担の大きい無理な術式で強改造者となりエクスクルーダーを探していたのだ。
いつも通りにしているが本人が一番堪えていることに間違いない。
この話をレイから聞いていたダイスは言った。
「朱里さん、俺がガンマを倒すよ。どうせ放っといてもガンマの方から俺を捕まえに来るんだろ。
逃げ回るなんて何だか腹立つし。それならこっちから仕掛けてやるよ!」
「ウハハハハッ! 面白いこと言うな。ありがとな。でもお前らが危険を負うことはない。
放っといてもアームドや改造屋連中が挑んでいくさ」
相当弱ってはいるが、ジルが言わずにはいられないという雰囲気で口を挟んだ。
「よう、今はオーバーズを崩すチャンスかもしれねーぞ。奴らに支配されてから50年、この支配が揺らぐことはなかった。
だが今、オーバーズの一角、氷のコロニー『ブリザド』の氷雨が消耗している。
そんなことは今まで一度もなかったことだ。
奴はこないだの初期型アーキノイドとの戦いで負った傷が完治できず、後2〜3週間は身動きできないらしい。
オーバーズの自己再生ですら手こずるとは強烈だったんだろうな。
さっきの新佐って野郎、アームドが把握してる情報をペラペラよく喋ってくれたよ。
この機会を狙ってアームドも動いてるようだ。
関係は微妙かもしれないが同じ人間。同じ目的。俺たち改造屋も仕掛けるタイミングを見定めねーとな。
俺はダイスも貴重な戦力だと思っている。
そもそも強改造者だって数が限られてるし、今の時代、何してたっていつアーキノイドに殺されるか分からない。
この時代に在る者の宿命だよ。『こっちから仕掛けてやるよ』? いーじゃないか、朱里には悪いが俺も手伝わせてもらうぜ、ダイス!」
朱里がダイス達を安全なところで匿うとしても一時的な対策に過ぎないことは分かっていた。
すぐにアーキノイドに見つかって、新たな場所へ逃げなければならないだろう。
ダイス達も小さな子供ではない。
彼らの意志を尊重すべきだと分かってはいる。
朱里はダイス達を見回した。
「大丈夫だって朱里さん、俺、結構いー感じに体術が体に染み付いてるみたいだし、タウラスが俺に叩き込んでくれてたんだよねきっと。
もう少し戦う時は気合い入れてやるからっ!
もっと実践で鍛えて、あの何だっけ? あー、そう、ムキッチョっ! 何とかムキッチョになるよっ!」
判断ができずにいた朱里はその言葉を聞いて、おもわず吹き出した。
「ブハハハハッ! ったくしょーがねーなー、優柔不断なカッコ悪りーとこ見せちまったな。
そもそも俺が保護者ぶる年でもなかったわな」
「じゃあ決まりだな。まずは氷雨だ。
奴はブリザドの長だ。
俺のアジトもブリザドにあるから案内するぜ。
ってことで、かなり頑張って喋ってるけど瀕死の俺の手当が最優先だな、よ…よろしく………
あれ? 光が見え…… お…お迎えがきた!?
グフッ!」
そうだった。ジルは具合悪そうに横たわりながら話していたのだ。
ダイスやレイ達も今更ハッとそれに気づいてジルに駆け寄った。
「うぉー、そうだった、ジルさん重症だったんだ。レイ、アンノウンで頼むよっ!」
ジルさんー!
お迎えは断って!!
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