第24話 トランスファーのカラス
−−−−−−−− スマの活躍で無事生還を果たしたパン屋への道すがら。
「朱里さん、どーっすか? 俺の救出劇! 完璧に予定通りっすよ」
スマがダムドと亀男の通信を介して朱里に自慢した。
「あー、助かった、ありがとな。
おかげで隠し持ってたワームホールを使わずに済んだぜ。
まだ未完成で、逃げられるか消滅か、一か八かだったからな。
……しかしまさかグリムリーパーがダイスを奪いに直で来るとはな……
しかも奴は解除すらしてなかった。
それであの強さよ、尋常じゃねーな」
「解除しないなんてナメた真似して油断してるから逃げられんだよ、ざまーないぜ。」
「ところでダイスよぉ、元気出せよ。
ひとまずみんな無事だったんだからよ。
お前が突っ込んでった時は正直終わったと思ったけどな! ウハハハッ!」
ダイスは既に回復していたが、忠告を無視して突っ込み、皆を危険に晒してしまった事で気を落としていた。
「うん、みんなホントごめん」
「だーーー、ったく元気出てねーじゃんかよ。
無理にでも出せコノヤロー!
もうケナシムキッチョって呼んでやらんぞ、いいんだな?」
「ハハッ、いいですよ。普通に毛あるし」
朱里の強引な元気付けにダイスに笑顔が戻った。
「ところでダイス、お前グリムリーパーに腕やられた時、何かしたんか?
こー、なんつーか、再生しろ! みたいに腕に集中したとかよ」
「いや、何もしてないけど………」
「そうか、アイロニックは他のデバイスに比べて再生機能が優れてるんだが、にしても再生が異常に早かったもんで気になってな。
まぁいー、お前と相性がいーってことだろ」
「ちょっとー、もう少し静かに話してくれる? ゆっくり寝てもらんないわね。
座席はあんた達で満席だから、暫く中で横になってるわ。いいかしらダムド?」
「もちろんだ、そこが一番の特等席だ」
レイも回復したようだ。
ダムドは依然として再生モードの箱型ボディーのままだ。この形態はボディーの両サイドに人ひとりが入れる程度の小さなサイドポッドがあり、そこにダイスとスマが乗っている。
スマは待ってましたと言わんばかりに興奮して自分の手柄を報告しだした。
「あー、レイっ、回復したんだね!
俺がさ、俺が颯爽と現れてみんなを助けたわけ! みんな結構ヤバめだったけど大成功。
ついでにグリムリーパーのオッサンも後少しってとこまで追い込んだんだぜ、一瞬だけど! 凄くない!?」
「ホントに!? ありがと!
衝撃波を受けてから記憶がなくって。
あれがグリムリーパーの音波攻撃ってやつなのね。話には聞いてたけど恐ろしいわね。
スマ、ホントにありがと! でも何で私達を助けに来たの? 人混みが嫌いなあなたなら、いつもだったら喜んで留守番して引きこもってるじゃない。」
「引きっ!? 引きこもりって……うーん…まぁいいか。
それがよ、一人の時間を満喫して昼寝をしてたらさ、『今すぐ朱里達を追え………』って聞こえた気がして、最初は夢かと思ったんだ」
−−−−−−−−
『今すぐ朱里達を追え………』
「んー、むにゃむにゃ、昼寝の邪魔すんなって。
ふぁーぁ、ダムドっ! 何か言ったか?
もう話しかけんなよ、おやすみ………」
「………今すぐ朱里達を追え、彼らに危険が迫っている……」
ダムドでも夢でもない。
「ッ!? 誰だっ!」
スマはガバっと起き上がって外へ飛び出した。
朱里達が町へ出かけた後、留守番を頼まれたスマがうたた寝を始めて暫く経った頃のことだ。
「ダムドっ! 何かいるぞ、サーチしろっ!」
外にいたダムドに指示を出す。ダムドは素早く人形にフォームチェンジして警戒態勢だ。
「既に特定している。あのカラスだ」
そこにいたのは、何のおかしなところもない一羽のカラスだった。
「カラス!? こいつが喋ったのか?」
「あー、ただのカラスじゃない。トランスファーだ。油断するなスマ」
カラスは、スマとダムドが自分を警戒していることが分かると再び話しだした。
「怪しむのも無理はないが時間がない。
今すぐ朱里達を追え。間もなく全員死ぬ。彼らはグリムリーパーと対峙している」
「あぁ!? その前にお前誰よ? 怪しい奴の言う事を信じられるわけないだろ」
「時間は有限。何を選択して生きていくかはお前次第。後悔がないようにな」
そう言うとカラスはバサバサと羽ばたいて飛び立った。
「おっと。まだ話の途中だぜ。解除っ!」
スマは空に飛び立ったカラスに向けてスタンプを激しく撃ち放った。
それは見事に命中して、カラスは穴だらけになりながらも逃げようとするが墜落していく。
「ダムドっ、再生する前に捕まえろっ!」
しかしダムドは微動だに動かない。
「ダムドっ、どうした? ダムドっ、動けっ! ダムドっ! ダムドっ!」
−−−−−−−−
「スマっ、スマっ!! 目を覚ますんだ、スマっ!」
「ッ!?」
目の前にダムドがいた。
カラスはいない。
足がガクガクと震えだし膝をついてしまった。
冷や汗が溢れ出す。
「撃ち落としたカラスはどこだ? お、俺は………」
「スマ、良かった。
カラスが羽ばたいた後すぐに直立して虚ろになってしまったんだ。
カラスを追うどころではなかった。
恐らくカラスの何らかの能力だろう。
別の映像を見せられていたようだな」
「あ、あー、俺が逃げたカラスを撃ち落とした………奴の能力だったのか………」
「敵か味方か…… 何者だったのだろう。
スマ、どうする? 朱里達のもとへ向かうか?」
「クソッ! そんな事言われりゃ、とりあえず行って確かめるしかないだろ。
グリムリーパーかよ。もしホントだったら相当まずいぞ。
念の為、奴のデバイスが繰り出す音波について分かる範囲俺にダウンロードしてくれ。
みんなを助けて生還するって結構ハードル高めだな。亀男も連れて行く………………
−−−−−−−−
「ってことで向かったんだけど、まさかあのカラスの言う通りになってるとは思わなかったよ。
いやー、でもグリムリーパーやばかったな。
よく生還できたよホント」
「そんなことがあったのね。そのカラスは何者かしらね」
亀男の跨った朱里も首を傾げて言う。
「トランスファーのカラスか、俺も知らねーな。
分かってることは、ガンマがダイスを確実に狙ってるって事だ。
グリムリーパーが来たってことは相当気に入られてるぞ。
そしてもう一つはジルの身に何かあった。
今日はジルに会うのが一番の目的だったんだ。
あれだけの騒ぎで奴が俺達を助けに来ないなんてことはないだろうし、今も亀男が改造屋のネットワークにアクセスしているがジルに全く繋がらない。
アーキノイドに捕まる様なマヌケじゃないんだがな」
話をしているうちにアジトのパン屋に到着した。
レイを降ろしたダムドも元のバイク形態になっている。
中に入ろうとするダイス達に朱里が緊張した口調で言った。
「お前らパン屋から離れろっ! 何かいるぞ」
ダイス達がパン屋から距離をとって警戒していると、ゆっくり扉が開いた。
中から背の高い若者が、頭から流血してうなだれている男の首根っこを掴みながら現れた。
一難去ってまた一難!
なかなか落ち着きません!!
読んでいただきありがとうございます。
『続きを読んでみてもいいかな』、『面白いかも』と思っていただけた方は、是非、ブックマーク登録していただけると嬉しいです。
また、大変お手数ですが、 ↓ の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎をクリックして応援をしてくださると励みになります!