第21話 収監型アーキノイド リカノン
今回は本編の前に改めて、強改造者が脳波を操り、デバイス操作することについてご説明します!
強改造者は、まず脳波を自分の特性に応じた波形、
βベータ)やθ(シータ)などに己でシフト。
それだけでもそれなりの潜在能力が解放される。
そしてその上で、頭に埋め込んだアウェイカーのリミッターを解除する。
機能の制限が解かれたアウェイカーは、その時点の脳波を維持し、神経細胞が発する電気信号自体も強化する。
これによりデバイスへの電気的な指令もより強く、より明確になり、そのデバイスが持つ能力を最大限まで引き出すことができる。
また、アウェイカーは中枢神経に作用して意識の鮮明化を累積的に促進する。
時間を追うごとに集中力が増し続け、精神が研ぎ澄まされていくという現象だ。
その効果で潜在能力のほとんどが覚醒され超人的な身体能力が発揮される。
更にもう一つ!
強改造者や上位のアーキノイドが行う『自己再生』について触れます!
脳波を操れる強改造者は常人とは桁違いの集中力を発揮できる為、それを内に向ければ血液の流れや細胞の動きすら把握できる。
そして、それらをコントロールして本来人間が持つ治癒能力を驚異的に促進させることも可能だ。
これを自己再生と呼ぶ。
また、様々あるデバイスはほとんどの場合、基本機能として再生モードが備わっている。
これは強改造者自身の自己再生能力を更に何倍にも増幅させることが出来る。
なお、上位のアーキノイドも自己再生できるがアーキノイドで言う自己再生は、全てのパーツが形状を記憶しており、破壊されても再構築することを言う。
強改造者も上位のアーキノイドも自己再生できるが、細胞の治癒能力に頼る人間よりも圧倒的にアーキノイドの方が再生速度は上だ。
という豆知識でした!
― ― ― 何も聞こえない。
― ― ― 何も見えない。
『ぐぅぅ、やられた………
このままではまずい、レイ!
レイは無事なのか!?』レイは解除していなかったが、少し離れていたことが幸いして、何とか呼吸が出来るようになった。
しかし、体は言うことを聞かず、声も出ない。『………っ!? 体中が痛い、頭がガンガンする…… 痛み以外の感覚がほとんどない。
パパ…… ダイス………』そのまま気を失ってしまった。
「アーキノイドよ、お前たちだけでは人間の粛清すらままならないのか」
どこからか、落ち着き払った、しかし、重くのしかかるような威圧感ある声が聞こえた。
何者かがいる。
五感を絶たれ姿が確認できない。
おそらく、この声の主が朱里の言っていた『グリムリーパー』なのだろう。
その声がした途端、アーキノイドは慌てて、倒れ込んでいる朱里とレイを一か所に捉え、そのまま直立して全く動かなくなった。
『グリムリーパー』の指示を待っているようだ。
体のデバイスを全て再生モードにシフトさせていた朱里は少しづつだが五感が戻りつつあった。
レイが横にいる。『レイ! 生きているのか?』ぼんやりとしか見えないが、レイの胸が微かに動いている。『よし、生きてる、だがこのままだと全滅だ。もう少し回復して動けるようになったら必ず助けてやるからな。
あれを使うしかないか… 早くっ、早く動けっ!』しかし、甚大なダメージを負った朱里は、思うように回復しない。
ズリズリと這い、レイの上に覆いかぶさって守るのが精一杯だった。
「弱き者、何故おまえ達があの少年と一緒にいる?」
またグリムリーパーの声。
暫く微動だにしていなかったアーキノイドがピクリと反応してブレイドを構えた。
『どこだ? どこにいる?』姿は見えないが朱里に話しかけているようだ。
「ふーふー…… それがっ……… どうしたってのよ? お前に…… 関係ないだろう?」
「まぁいい、お前に聞かずとも後で本人から聞くとしよう」
そう言うと静かに命令を下した。
「……… 粛清」
― ― ― 収監型アーキノイドの中。
「おいっ、お前っ! 起きろ! いつまで寝てるんだ、おいっ!」
ダイスはしつこく呼びかける声で目が覚めた。
アーキノイドに腹を殴られて気を失っていた。
「痛ててて……… だ、誰だ!?」
鋼鉄で囲まれた薄暗がりの中からその声は聞こえてくるが、姿が見当たらない。
「誰って? お前は俺の腹の中だよ。分かるだろ?」
「この乗り物!? 乗り物も喋るのか?」
「失礼な奴だな。
俺はアーキノイドの中でも攻守共に最強な最高傑作なんだ!
名前はリカノン、覚えたか!
アーキノイドで名前を自分で付けてる奴なんか他にいないぞ。
凄いだろ、ハッハッハッ!」
そう自慢げに笑うと暗がりの中、立体的な人の顔が投影された。
十七、八歳位の男子でダイスと同年代に見える。
きっとこれはリカノンだろう。
彼は人懐っこそうな笑顔でニコニコしながら続けた。
「視覚的に見えた方が親しみわくだろう?
別に犬の映像だって何だっていーんだけど、これでいーよな!
で、お前さ、名前何てーの? 名前。
教えてよ!」
「俺はダイス。
君はリカノンって言うんだね。
リカノン、悪いけど外に出してくれないか?
仲間のとこに戻らないと。」
リカノンはダイスの頼みなど全く無視で、そのまま機関銃のように喋り続けた。
「おー、ダイスね、よろしく!
でさ、ダイスお前が気絶する前だけどさ、俺が登場した時、俺の事見たよな?
外見をよく見てたよなっ、なっ?
別に言わなくてもいんだけど、カッコよかったろ!!
流体力学や運動力学の全てが詰まったイカしたフォルム。
そこから放たれるツヤツヤの煌めき。
どの面でもシュパッと自在に現れる扉。
地面からなんて磁力の反発で浮いちゃってたりして!
更にそこらのアーキノイドと差が際立つのが、自己改造してガンマネットワークに繋がらないスタンドアローンモードも搭載、これ絶対内緒な! ちなみに今がそう!
それから………」
全く止まりそうもないのでダイスは言葉を無理やり突っ込んでいった。
リカノンは相当なお喋りのようだ。
ひとまず褒めてやらないと収まらなそうに見える。
「見た見た、見たっ、見たよっ!!
初めて見たから感激したよ、カッコいー黒い卵が浮いてんだもんな」
「黒い卵!? 俺の事………」
リカノンの視点が斜め上を眺めるようにぼんやりとしてしまった。
黒い卵が『カッコいー』か『カッコ悪い』か想像しているようだ。
『やばっ!? コメントを間違えたか………』ダイスは黙って頷いた。
「んー……… まぁ、カッコいーの感じ方はそれぞれだからな。
そうだろ! カッコよかったろ!!
ダイスは見る目あるな! ハッハーッ!!」
……… リカノン的には『カッコ悪い』ようだったが、彼が超絶プラス思考で良かった。
ダイスは、またお喋りが再開される前に先手を打った。
「リカノンはアーキノイドだし、閉じ込め役の立場ってことも分かってるんだけど、外に出してくれないか?
朱里さんが外で戦ってるはずなんだ」
「………………」
楽しそうだったリカノンは、急に寂しそうな顔をして視線を下に落とした。
「俺はもっとダイスと話したいぞ。
他の連中は俺をスクラップなんて呼んで馬鹿にする。
余計な話をしたり、自分に名前を付けるのが故障なんだと。
アーキノイドだって感情があるのにな……… 奴隷のようになってる奴らの方がよっぽどおかしいと思うけどな。
ダイスは人間だけど他の奴らとは違う気がする。
普通の人間はアーキノイドにいきなり敵意があるから、話すなんてまったく無理だ。
一方的だけど人間と話すって楽しいんだな」
一方的だったことは認識してたらしい。
アーキノイドからも敬遠され、話せる相手がいなくて寂しかったのかもしれない。
「じゃあさ、今度また話そうよ。
次は一方的じゃなくてね。
リカノン悪い奴じゃなさそうだし」
ダイスの本心だった。
リカノンの表情が少し明るくなった。
「そうだな、じゃ、約束な、約束だぞ!
何だかもう逃がす気マンマンだけど、そもそも捕まったのが俺で良かったな!
普通は囚人と話もしないし、まず逃がすなんて可能性ゼロだぞ!!
だから故障って言われるのかもな、ハハーッ!」
言われてみればそうだ。
普通は逃がしてくれるはずはないだろう。
敵とは思えない感じだ。
「でも今、外には一緒に来た戦闘タイプのアーキノイドや、『グリムリーパー』って言うホントにヤバいのがいるんだよ。
俺は収監型だから、あからさまにダイスを逃がしたとこ見られたら間違いなくスクラップ行きだな。
どうしたもんだろな」
ダイスが困っていると、リカノンは腹を括ったような大きなため息をついて言った。
「じゃあいーよ!!
俺の腹を壊して出て行けよ。
俺がやられたってことにしてさ。
穴は出来れば小さくな!
あんま派手にやられると、あれな、費用対効果ってやつな。
再生させるより新しく作った方が良いってなって、俺はそのまま再生されずに死ぬわけ。
分かったかダイス、小さくだぞ! ていうか、穴開けられるんか?
自慢済みだけど、俺は鉄壁よ、鉄壁!
強改造者なら造作もないだろうけど、ダイスはノーマルズらしいな」
「え、穴開けちゃって大丈夫なの!?
小さくだったらリカノンも平気なの?」
「平気かって言われたらお前、平気なわけないだろ!! 腹に穴開くんだぞ、風穴ってやつ、風穴! 自分の腹に風穴想像してみ!
ダメだろ?
でもそれしかないからいーよ。無敵のリカノンだからコアやられなきゃ多分大丈夫。
ていうか、そもそも開けられるかどうかだって!」
「あー、多分開けられるかなー……
一応俺も強改造者なんだけど、こないだ暴走しちゃったんだよなー」
と言って、自信なさげにこめかみを指先でトントンッと叩いて見せた。
「えっ、強改造者なのか!? 強改造者って、そうそういないんだろ?
うわ、えらい友達出来たなこりゃ!」
リカノンは嬉しそうにしたが、すぐに緊張した面持ちになった。
四角い画面を投影すると外の様子を映し出す。
そこには、直立している三体のアーキノイドに囲まれ、倒れている朱里とレイがいた。
「朱里さんっ!! レイっ!!」
「ダイス、ちょっと急がないとヤバいかもしれないぞ。やるならさっさと助けに行かないと!」
「よ、よし、じゃあやってみる!
俺はできるっ、できるぞっ!」
大きな声で気合を入れ、両手でバチンッと頬を叩き、ギュッと目をつむった。『まずは集中だ、集中しろ! 集中して頭ん中を俺が得意なβ波にシフトさせるんだ。
集中、集中……… ベータ… 集中……… 急げ、早く………』しかし、集中しようとすればするほど外の様子が気になって気持ちが焦ってしまう。『あー、ダメだ、こんな状況ですぐに集中なんてできない………』
眉間にシワを寄せて突っ立ったまま変化のないダイスを見てリカノンは言った。
「うまくいかないみたいだな、まぁこんな状況だから無理もないぞ………
言うは易しだけど、一旦『今』をスパッと全部忘れて自分の内側に入れよ、一人の世界ってやつな。
物事にはメリハリって大事だろ?」
ダイスは黙って聞いていた。『そうかもしれないけど、どうしても心配が頭から離れないんだよっ!』ますます集中出来なくなってきた。
ふと、投影されている画面に目をやると、直立していたアーキノイドが長剣を構えだした。『あー、まずいっ…』焦りが頂点に達したダイスは力任せに鋼鉄の厚い壁を殴った。
「うゎぁ―っ!」
壁はびくともしない。
殴り続ける両の拳が血に染まる。『ダメだ、出来ない、出来ないっ!! 朱里さんっ! レイっ!』
と、その時だった。
……… ダ……… ィ…… ス………………
『ん!? 声?……… 気のせいか!?』
ダイスの手が止まり、ハッと我に返った。
……… ダ…… イス………… ル………ミロ……………
『聞こえるっ。気のせいじゃない、誰かが俺を呼んだ!? 誰?』
ダイスは咄嗟に振り返った。
………!?
― ― ― 丈の短い草が見渡す限り一面に生え、錆びた鉄棒がある広場。
遮るものはなく地平線に山々の稜線がうっすら浮かぶ。
限りなく広がる真っ青な空には、少しの影すら見逃すまいと鎮座する太陽が眩しい。
ダイスは、その広場の真ん中にいた………
次話は、遂に第一話のダイス登場シーンと繋がります!
お待たせしました!!
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