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第20話 サンドラでトラブル発生!

 ― ― ― ― ― ―


 パン屋の居候としてすっかり馴染んだダイスは、朱里とレイとともにサンドラの繁華街に買い出しに来ていた。

 スマは留守番だ。


 三人は、店が両側にひしめき合い、人々で溢れかえった賑やかな広いメイン通りを物色しながらゆっくりと歩いていた。


 今の世界、ガンマチップを埋め込まれた人間の思考や目から入った映像は、データとしてアーキノイド全員に共有されている。


 従って、一度アーキノイドと戦ってお尋ね者になっているダイス達のような強改造者や、目を付けられているノーマルズは、町にいる普通の人々に見られただけですぐに特定されてしまう。


 その為、彼らが装備しているアウェイカーやアドヴァンス(ノーマルズが埋め込んでいるチップのこと)には、半径一キロ圏内にあるガンマチップに特殊な信号を送り、別の人物に誤認させる基本機能がある。

 これのおかげでアーキノイドに悟られずに移動することが可能なのだ。


 パンの仕込み材料を物色していると、一つの食料品屋から、ボロボロの服に汚れた顔の、まだ年端も行かない子供が転げ出てきた。

 その拍子に手からこぼれ落ちてしまったパンを焦ってかき集めている。


 追うようにして、その店の店主おぼしき、中年小太りで高価そうな指輪をいくつも付けた、いかにも傲慢に見える男が何か大声で喚きながら出てきた。


「この小汚いクソガキがっ! 

 人様のものを盗みやがって。

 貧乏人は貧乏人らしく泥でもすすってろ!」


「ごめんなさい、お金もなくて食べるものもなくて………………」


「はぁ!? だからってダメだよなぁ盗みは!」


 と言いながら子供を蹴り飛ばし、執拗に乱暴している。

 どのコロニーでもこういったトラブルはよく見かける。

 アーキノイドに支配され、希望を見失ってからの人間は、他人の事などどうでもよいと思う者が多くなった。


 現に今も、みな目をそらして何事も起きていないかのように遠巻きに避けて通り、そこだけ野次馬たちで小さな輪ができている。


「もう見てられないわ! あいつ、許せないっ!」


 そう言ってレイは、子供を助けるため走り出そうとした。

 しかし、朱里がその腕を掴んで首を横に振った。


「やめとけ、気持ちは分かるがトラブルが大きくなる。

 そうなればまたアーキノイドが来て面倒になるだろ。

 おまえはいつもそうだ。

 あの子には可哀そうだが、理由はどうあれ盗んじまったんじゃぁな………

 放っておけばもうすぐ収まるだろうよ」


 歯を食いしばるレイ。


 アーキノイドと一口に言っても役割によって人型、収監型、作業型など様々あり、もちろん知能や意識がある。


 基本、アーキノイドは人間同士のいざこざに積極的には介入しないが、暴力が拡大したり、改造者が絡むと、反乱のカテゴリーに分類され、即座にやってくる。

 そうなってしまえば、当事者たちは、その場で処刑、または連行されてしまう。


 レイを踏み留まらせたのも束の間、いつの間にか後ろにいたダイスがいない。


 時すでに遅し。


 ダイスが険しい表情でズンズンと店主に詰め寄っていった。


「あーららら…… あいつを忘れてた。 

 ったく… おい、ダイス! 

 これ以上荒立てるなー!」


 朱里の言葉が届いた様子もなく、ダイスは店主と子供の間に割って入った。


「金なら払う! もう十分だろ!」


「何だぁ小僧? お前には関係ないだろっ!」


 興奮している店主はそう言って、目の前に差し出された金を払いのけ、ダイスの胸を勢いよく両手で押してきた。


 全力で突き飛ばそうとしたにもかかわらず、ビクともせず、店主の両腕の方が痺れてしまった。

 店主は焦った。


「うゎぁー、きっ、貴様、ノーマルズだな!! 

 あー痛ぇ、厄介な奴だ……

 アーキノイドが来ちまう!」


 そう言うと、今までの一件など忘れてしまったかのように、一目散に店に逃げ込んでカギをかけてしまった。

 通りを歩く人々が『ノーマルズ』という言葉に敏感に反応した。


「ノーマルズだって!?」


「ノーマルズがいるぞー!!」


「早く逃げろ!! アーキノイドが来るぞー!」


  溢れかえっていた人々もアーキノイドと聞くや否や、蜘蛛の子散らすように居なくなってしまった。

『ノーマルズじゃないんだけどね………

 みんな凄い逃げようだな。』ダイスはあまりに急な展開を訝し気に思いながらも子供に優しく声をかけた。


「大丈夫かい?」


「ありがとうお兄ちゃん……

 って言うところかな。

 でもちょっと余計だったな、もう少しであいつの指輪をくすねられそうだったのに。」


 !?


 予想外!


 ダイスはニッコリしながら固まった。

『うわー、思ってたのと違うー、すこぶるスレてるよー。

 いや いやしっかりしているということだ………

 うん、そういうことだ、そういうこと。』と心の中で言い聞かせた。

 子供は散らばった食べ物を拾いながら続けた。


「お兄ちゃんノーマルズだって!? 

 へー、弱そうだね。

 アーキノイドに殺される前に早くずらかんな。

 分かってるだろうけど、ここらにいた連中が見聞きした情報は頭ん中のチップのせいで常にあいつらに共有されてるから、もうバレバレだよ。

 今も俺の目から共有中ってとこだね。

 あー痛い痛い、ったく、ジジーのやつ強く殴りやがって」


『……… うん、このギャップに適応しなければ。』

 ダイスは微妙な笑顔を作りつつ、何とか気を取り直して言った。


「まぁとりあえず元気そうで良かった。

 でもさ、理由はあるんだろうけど人の者を無断で盗ることは、これからはダメだよ」


「うん…… まぁそうだよね…

 ハハっ、分かったよ。」


 そうこうしていると朱里とレイが駆け寄ってきた。


「あいつ、ダイスを突き飛ばそうとしてたけど、自分が痛かったみたいじゃない、いー気味よね!」


「おいっ、盗っ人小僧! 

 反省したんならとっとと帰れ! 

 ほれほれ!!」


「ちょっと! 

 そんな言い方はないんじゃない!?」


 鬱陶しそうに言う朱里をレイがたしなめる。

 子供は朱里に「うるせージジー」と言いながら舌を出して、走ってどこかへ行ってしまった。


 ………!?


 予想外!


 レイと朱里は固まった。

 目だけがぱちくりしていた。

 正気を取り戻した朱里が声をあげた


「うわっ、なっ! 

 こんなもんだよ、助け損だよな、おあー腹立つなー!」


 そんな朱里達を見て、ダイスは、こみ上げる笑いを抑えきれず吹き出した。


「まぁしかし、笑ってもられんぞ、今日は戦いに来たんじゃない。

 すぐにでもアーキノイドが来るから俺達も早く………」


 と朱里が言い終わる前に、卵の様な形状で地面から僅かに浮いている全長10メートル程の物体が、音もなくやってきた。


 収監型アーキノイドだ。

 黒光りしたその横っ腹に、四角い扉を型どった線がスーッと浮き出ると、その部分が「シュパッ」と音を立てて上にスライドし、人型のアーキノイドが3体出てきた。


 サンドラの戦闘タイプだろう。

 右胸から背面の腰辺りまで左肩に掛かるようにして、体にめり込んで一体化している武器らしきものを装備している。

 おそらく取り外して使うのだろう。


 基本、戦闘タイプ以外は武器を持っていない。

 アーキノイド達は朱里やレイには目もくれず、真っすぐダイスに向かい、取り囲んだ。


「お前が騒ぎを起こしたノーマルズだな」


 1体が尋ねる、というよりは、確認するように無表情で言った。

 他の2体も全く同じ顔立ちだがどことなく表情が違う。

 アーキノイドにもそれぞれ性格があるためだ。


 ダイスは、自分よりゆうに大きく、今にも攻撃してきそうなアーキノイドに臆することなく返した。


「だったら何だって言うんだ?」


 一触即発な雰囲気だ。


 アーキノイドか!? ダイスか!?


 先手を取ろうと両者が動きだそうとした。

 ……… と、その直前にヘラヘラしながら朱里が入ってきた。


「まぁまぁまぁ、アーキノイドの旦那、ひとまず今回は俺に免じて見逃してくれないか? 

 こいつはノーマルズと言っても、女にモテたい一心で全身脱毛とムキムキマッチョにしただけなんだよ。

 もはやそれはただの美容整形。

 改造とは呼べないレベルだねこれって! 

 毛ナシムキッチョ!毛ナシムキッチョ! 

 うははは!」


 と言って笑った。

 二度も変なあだ名を繰り返して自分でウケている。『いやいや、そんなことしてないし毛ナシムキッチョって俺の事!? って、そんな感じで切り抜けられちゃうの!? 

 改造者って抹殺対象じゃなかったっけ!?』ダイスは期待したが、当然無理だった。

 アーキノイドも全く無視だ。

 恥をかいた上に逆に気が抜けてしまった。

 その隙を見逃さなかった2体のアーキノイドはダイスの両腕をがっしり掴まえた。

 振り払おうとしたが、もう一体に腹を殴られ動けなくなり、そのまま引きずられていく。

『油断した………』意識が遠のいていく。


 それを見て朱里が怒鳴った。


「おいっ! 機械野郎、俺は全く無視か? 

 穏便にやってやろうとしたのに仕方ねーなー」


 朱里は続けた。


「レイ、後ろに下がってな!  

 ダイス! ちょと待ってろ、すぐ助けに行くからよ」


 そう言うと、いつになく真顔になった朱里は深い深呼吸をして精神を集中させた。


「……… 解除」


 朱里は唸るように言った。

 こみ上げてくる力を抑え込むように、歯をギリリと食いしばっている。

 目から赤い光が漏れ、体中がメキメキっと聞こえるほど音を立ててパンプアップしていく。


 先程までのおちゃらけた雰囲気はがらりと一変し、緊張が走る。


 これがパワー型のみに特化した強改造者。

 鋼鉄を紙のごとく引きちぎり、万力の力であらゆるものを潰す。


「貴様! 強改造者だったのか!!」


 焦ったアーキノイドはそう言うと体と、胸に手を当て、一体化していた武器、ブレイドの柄を握った。ブレイドが背中から胸にかけて跳ねるように外れ、バチンッと一本の高電圧を帯びた長剣になった。


 瞬間、水平に鋭い斬撃!


 しかし、朱里を捉えることはできない。

 大柄な体格からは想像も出来ない素早い体捌きでかわした。

 息つく間もなく二撃目が脳天めがけて繰り出された。


 避けない。


 両の掌でバシンッと挟む。


 アーキノイドはそのまま切り込もうとしたがびくともしない。

 しかし、ブレイドが帯びている高電圧は朱里を襲った。


「おおおーっ、ビリビリくるねぇ。

 だがもっと激しくないと効かねえーなぁ!!」


 そう言いながら、挟んでいるブレイドを下に強く引っ張り、アーキノイドもろとも強烈に引き摺り倒した。

 そして、よろよろと起き上がろうとしたアーキノイドの頭を掴み、そのまま地面に叩き込んで粉砕した。

 頭の無くなったアーキノイドは動かなくなった。


 戦いにケリをつけた朱里が振り返ると、既にダイスは収監型アーキノイドの中に閉じ込められてしまっていた。


「仕方ない、あいつもぶっ壊すか」


 朱里は収監型アーキノイドに近づいていく。

 すると、収監型アーキノイドの中から新たに三体のアーキノイドが出てきた。


「ったく、わらわらと出てきやがる」


 ― ― ― その時だった。


 今日は少し汗ばむ位の暑さだったのだが、息が白くなるほど急速に冷え込んだ。


「おっ、これはっ!? まずいぞ、今日は最悪だ………

 レイッ!! 『グリムリーパー』だ! 

 とりあえず逃げろ!!」


「えっ! でもダイスが中に!」


「いーからお前は逃げろ、今すぐ俺があの黒卵をぶっ壊すから」


 そう言うと朱里はダッシュした。

 レイも朱里のただならぬ様子を察し、走って逃げだした。


 しかし、全ては遅かった………


 大気を揺らし地を割るようなドンッと轟く大きな音が、朱里とレイを捉え全身の細胞を揺るがした。


 二人の目や鼻、耳からツーっと血が流れ出し、息が出来なくなった。


 二人はその場に倒れ込んだ。


 何が起きたのだ!?


朱里はベータ波を得意とします!パワー特化型なので力はハンパないです。


読んでいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
しっかりと作り込まれた世界観と、何より盛りだくさんの戦闘シーンでドキドキワクワクの物語ですね! キャラの魅せ方がまた素敵です! 続きを楽しみにしています。 最後に一つだけ……タウラス……
2025/08/09 01:27 退会済み
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