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第17話 再会

 −−− 翌朝、レイとダムドは早くから工場(こうば)の様子を見に行った。


「おぅ!

 おはようさんっ、よく寝たか?」


「おはようレイっ! 

 俺パンケーキ作ったから一緒に食べようぜ!」


「おはよう、ありがとスマ。

 でもパンケーキは後でにしましょ。

 ダイスは大丈夫?」


「かーっ、俺の愛情パンケーキよりダイスかよ。

 ダイスは………

 大丈夫なんじゃねーの。

 なぁ朱里さん」


「そうだな、だがどっちかと言えばひでーもんだ。脳や内蔵、筋組織なんかの基本的なもんは再生してるようだが全部一時的なものだ。

 昔の技術レベルじゃ上出来かもしれんが、俺みたいなスーパー技術者が寝ずの処置をしてなかったらオダブツだったな。

 ウハハハ」


 険しい顔をしていた昨日とは打って変わって、元気で声がでかいいつもの朱里が答える。


 工場(こうば)は様々な機器が所狭しと配置され、ダイスはその部屋の中央にある再生液で満たされた透明なカプセルの中で仰向けに目を閉じていた。


 その液体の中には流線型の魚の様な形をした三匹のロボットが、まるでダイスを品定めしているように、時折、頭についた大きな目玉らしきものをギョロギョロさせながら回遊していた。

 二匹はこぶし大、一匹は一センチ程の小さなものだ。


「じゃ、もう大丈夫なのね。

 いつここから出られるの?」


「いやいや、こっからが勝負よ。

 今は命を繋ぎとめてるだけだ。

 ダイスの細胞は蘇生されていても九割が使い物にならない状態だ。

 見た目は平気そうだが再生液から出たら半日ももたん。

 そこでだ。

 見ろっ! この泳ぐお魚ちゃん達を。

 俺の最高傑作っ! 

 どんな再生や改造も完璧以上にこなす、全自動の改造クルー『スバルちゃん一号、二号、三号』だ」


「機能はスゲーけど名前がホントにイケてないっすよね。

 スバルちゃんて、自分の名前付けるかねぇ。

 つーか、今思ったんすけど、

 まさかこのダイスってやつ、ここに置いとくつもりじゃないっすよね!? 

 俺は反対っす」


 寝ずの処置を強制的に手伝わされ、モーニングパンケーキを断られたスマは、自分の立場が危うくなる危機を察知してキッパリと意見表明した。

 しかし居候の身分であるスマの意見は、毎度独り言に近い。

 案の定、本日の意見表明も返答がないまま会話は進んでいった。


「まだ楽観できる状況じゃないのね。

 うまく再生できるの?」


 朱里がかしこまった口調で言う。


「小さなお子様と御婦人はご退席ください。

 こっからはグロさ満点、人間解体アンド高速培養ショーでござい!」


「言い方っ! 

 趣味悪いわね、もう。

 ふざけてないでどういうことよ?」


「だって仕方ねーだろ、ホントなんだから。

 まず、ダメな肉を溶かして引っ剥がす、要は細胞の交換だな。

 で、洗浄してキレイな肉塊となったダイス肉をスーパー高速培養で人間の形に戻す。

 更に同時に俺の新発明『アイロニックデバイス』をコイツに叩き込んでやるって計画よ」


「ちょっと待って、アイロニックって、デバイス化するってこと!? 

 本人の意思でもないし、それは絶対にだめよ。

 何考えてんの? 

 ホント放っとけないわね」


「ウハハハハ、まぁそりゃ勝手に人の体を弄るほど野暮じゃねーよ。

 まぁコイツに聞いてみな」


 そう言って朱里が作業台に置かれたダイスのペンダントに軽く触れると映像が投影された。

 現れたのはニコニコしているタウラスだった。


「やぁ! レイ君、ダムド君」


「タウラスっ!」


 レイが喜んで声をあげた。


「ったく。

 コイツ俺が居ることが分かってレイを誘い込みやがったんだ。

 夜中にぶっ飛ばしてやろうとしたんだが意識だけの映像だからな。

 スカッってなってよ、スカッて。

 腹立つわーっ!」


「あーーー、感動の再会なのに夜中からずっと怒ってるー。

 でもその通りだ。

 本当にごめん。

 君ほどの技術者でないとダイスの蘇生は難しいと思ったんだ。

 しかし君の大切な家族を意図して巻き込んでしまった、レイ君、ダムド君、スバル、それにスマ君も、本当に申し訳ない。

 皆、スバルの言うことを聞いて安全なところへ移ってほしい」


「大丈夫よタウラス、いずれにしたってガンマを退治しようと思ってたんだから。

 それより意識の転送? 

 転送系も操れるなんて凄いわ。

 じゃ新しいボディを用意しないと!」


「こいつが最強と言われる所以は、ただの馬鹿力だけじゃなく色々な能力をいくつも併せ持つからだ。通常は強改造者の能力は一つ。

 最近の新世代の連中は改良が進んで、二つの能力を併せ持つ『デュアル』があるが、それでも二つまでが基本だ。

 タウラスのように五個も六個も、それ以上だっけか? 

 これは通常では考えられないことだ」


「広く浅くってやつだよ。

 レイ君、ありがとう。

 でも、ボディの手配にはおよばない。

 オリジナルは死んだ。

 今の僕はあくまでただのコピー。

 起動後およそ半日で消失する設定にしてあるんだ。考え方かもしれないけどオリジナルがいない今、僕は抜け殻だよ。

 僕はそう考えてる。

 転送し続けて永遠に生きるなんて全くナンセンスさ。

 意識を残しておいたのは、オリジナルが死んでしまったら君達を巻き込んでしまった事を謝れなくなるだろう?

 だから念の為にコピーしておいたんだ。

 謝れば良いってもんでもないんだけどね。

 すまない。

 でもスバルが手を貸してくれて本当に助かった、ありがとう」


「ありがとうじゃねーよ、半死人のガキが目の前にいりゃやるしかないだろ。

 それよりデバイス化してやっていいんだよな? 

 レイがうるさくてな」


「そうそう、話がそれてしまったね。

 うん、ダイスが言い残していたんだ。

『大切なものを守る力が欲しい。

 強改造者になりたい』ってね。

 その時の『大切なもの』の意味は家族だった。

 でも五十年経った今、その家族はいない。

 じゃあデバイス化は必要ないかもしれないけど、ダイスは優しい子だよ。

 それでいて無鉄砲だ。

 ははは……… この時代でも必ず大切なものが見つかるはずさ。

 いつ命を奪われてもおかしくないガンマの支配が続く今。

 ダイスにはきっと『守る力』が必要だと思う。

 僕の本心は反対だけどね………

 それだし、スバルとも話したけど、ダイスはデバイス化しなければ人間として蘇生出来ない」


「そうなのっ!?」


「そうだな、再生液の中で延命は出来ても長生きはできねーだろうな。

 培養細胞による再生はオリジナル細胞が半分以上あって安全で完璧に仕上がる。

 それ以下でやればすぐにアナフィラキシーを起こしたり、虚弱、知能低下、錯乱、などなど問題が盛り沢山だ。

 調べてみりゃ、こいつの元の細胞は酷い火傷で既にほとんど失われていたんだよ。

 それで今回シャバに出てきたが、やっぱ昔の技術なんだよな。

 今は見た目を取り繕っているが、さっきの話、九割が使い物にならん。

 だから大部分を培養細胞に取り替えざるを得ない訳だが、問題が起こるのは間違いない。

 というよりは失敗して死ぬだろうな。

 そこで天才スバルが編み出したのが、

『友達百人出来るかな作戦』だ。

 簡単に言やあ、体のほとんどを培養細胞で仕上げた後に一割のオリジナル細胞と仲良くなるまで待とうって考えだ」


「おーとっとっと、朱里さん、まずオペの名前が全くイミフだし、培養ばっかだと死ぬって言ったばかりじゃないっすか」


 スマがツッコむ。


「スマ君。

 なかなか筋のいい指摘だね。

 その通り。

 俺は何とかなるさって気持ちを大切にしたい男だから、一か八かで行くぞってことなのだ………」


「………………」


「……ヘッヘッヘ、ってのは冗談よ………」


 誰も笑わない沈黙の後、朱里は満足気に「ほらなっ」と謎発言をして続けた。


「培養ばっかだと死んじまうし、人間やめて体の九割を機械化すりゃ命は助かるが、見た目ガチガチの機械人間になっちまう。

 まぁある程度肉で覆えるけどな。

 目が覚めたらキカイダーになってましたって、チーンな感じだろ? 

 本来ならオリジナル細胞が一割以下のダイスも、死ぬか、キカイダーかの二択なんだが、俺の最高傑作デバイス、『アイロニック』がこの問題を解決する。

 アイロニックは体の細胞に溶け込んで、その名の通り自在に体を鋼鉄化出来るデバイスだ。

 更に結構な治癒能力も備わってる代物。

 だから見た目は一切キカイダーではなく、まんま人間よ。

 で、今回のオペは蘇生とアイロニック融合の極めて高難易度なダブルオペだ。

 成功すれば培養細胞が様々な拒絶反応を起こす前に、溶け込んでいるアイロニックによって抑制、治癒することが出来る。

 一月もすりゃ体も安定して蘇生が完成するだろうよ。

 それとお前らが一番気になってるだろう作戦名について教えといてやる。

 オリジナル細胞が培養細胞と仲良くなるって平和的な発想から命名した、俺の優しい人柄がダダ漏れのネーミングだ。

 分かったかこの野郎どもめっ!」


「アイロニックって例の危ないやつでしょ?」


「ん!? そうだが何か?」


「何か? じゃないわよ。

 それを欲しがる人は多いけど、適合できずに今まで何人も殺しかけたじゃない。

 パパだって自分でダメだって言ってたの忘れちゃったの?」


「タウラス君、そこんとこの説明をよろしく頼むよ」


「そうだね、レイ君が心配するのも無理はない。

 アイロニックは機械化ってよりは極小の異物を体に取り込んで、更にそいつらが細胞を鋼鉄化させたりするからね。

 普通の健康体ならまず間違いなく免疫機能が働いて即座に激しい拒絶反応を起こすだろう。

 でもスバルが言うように、ダイスをガチガチのキカイダーにせずに蘇生させる為にはやっぱりアイロニックしかないんだ。

 ポジティブに言えば、見た目も機械に見えないしアイロニックも手に入る。

 これは今回ダイスが体のほとんどを培養細胞に交換するからこそ成し得るオペレーションだ。

 朱里が言っていた内容を簡単に捕捉すると、まず、ダイスから培養細胞を作り出す。

 次にその培養細胞にアイロニックを融合させる。

 この時点で、アイロニックに対する拒絶反応が起きる。

 普通の人間だとこれが乗り越えられない。

 しかし一定の時間これに耐えることでアイロニックと培養細胞は同化し始め安定してくるんだ。

 それを見計らってからオリジナル細胞と結合させるんだけど、九割の培養細胞が結合するわけだから、さっきの話のとおり普通ならうまくいかず死んでしまう。

 でも今回、九割の培養細胞はアイロニックを勝ち取っている。

 オリジナル細胞と結合するとアイロニックが高い治癒能力を発揮して安定させることが出来るんだ。

 ってことで、アイロニックのデバイス化による拒絶反応と一割のオリジナル細胞と九割の培養細胞の結合による問題を一挙にクリアできるオペなんだ」


「でも本当に大丈夫なの?」


「心配ばっかしてっと手遅れになるぞ。

 安心しろ、万一ダイスがこのオペに耐えられなくなりそうなら、スバルちゃん達が方向転換してキカイダーに作り変えるからよ」


「それも安心じゃないけどね、仕方ないのよね………」


「大丈夫だよ、さっきそのスバルちゃんを見せてもらったけど素晴らしいものだ。

 間違いないと思う」


「それにな、ダイスの頭には既にデバイス化に対応出来るチップが入ってた。

 親父の解も、ダイスがデバイス化する可能性を想定してたんだろうな。

 ただ、このチップ、アーキノイドにあるコアでもなく、俺達が付けてるアウェイカーでもない。

 まぁどちらかと言えばアウェイカー寄りだけどな。

 今の俺でもすぐには真似できねえテクノロジーが詰まってやがる。

 ったく、どこまで天才なんだよ。

 とりあえず頭にアウェイカーを突っ込む手間が省けたぜ。

 ちなみにお前らがコロニーの外からこいつを連れてくるとき放射能大丈夫だったろ? 

 このアウェイカーもどきにももちろん俺達と同じ放射能拒絶の仕様があったからだ。」


「分かったな……… じゃ、始めるぞ。」


 皆無言で見守る。


「スーバルちゃんー、よろしくっ!」


 朱里が大声で言うと低いモーター音と共に周辺の機器が点滅しだした。

 ゆっくり回遊していた小さいスバルちゃんがダイスの首に吸い付くように突っ込むと、プルプルと体を震わせてズブリと潜り込んだ。

 頭の方へモコモコと皮膚を盛り上がらせながら移動するとこめかみ辺りで消えた。

 内部に移動したようだ。


 もう一匹は胸に潜り込み、残りの一匹は変わらず回遊している。

 透明だった回復液が白く濁っていく。


「はい、おしまい。後は放置だ。

 白い液体は特殊な溶解液で、使えない細胞だけを溶かすんだ。

 だから暫くしたらダイスは結構ヤバい見た目になるぜ。

 今泳いでるスバルちゃん一号がホストになって外の装置や二号、三号を完全制御する。

 スバルちゃん達の基本は、生命維持装置の役割とオリジナル細胞に培養細胞がすぐに結合しないよう膜を貼る役割がある。

 それに加えてそれぞれの特徴があって、体に潜った二号はアイロニックを格納していて、それを体に融合させる。

 そして、頭に潜った三号がアウェイカーもどきにアイロニックを認識させる。

 色々連携して出来ちゃうスーパーな奴らだ。

 朝には完了してるだろうよ」


「じゃ、一旦撤収でいーっすね。

 もうくたくたっすよ」


「そうだな。スマ、ありがとな。

 そんじゃあ休むとするか。」


「みんな………あ……りが…とう………………」


 タウラスが()()()()()お礼を言った。


「いーのよタウラス………」


 そう言ってレイが振り返るとタウラスの姿はなかった。

 皆、ハッとして振り返った。

 タウラスは消滅していた。

 朱里が珍しく焦った表情で声をあげる。


「おっ、おいっ、タウラスっ………!?」


 返事はなかった………


「……… かー、何だあのヤロー、面倒を任せたうえに、ろくに別れもできねーとは。

 だからアーキノイドは嫌なんだよ、くそったれがっ。

 あーっチキショーっ!!」


 朱里はそう言い捨てると、くるりと踵を返してしまった。


「ちょっと、そんな言い方ないんじゃない?

 タウラスだって………」


 朱里の態度を咎めようとしたレイの前に、スマが腕を伸ばして無言で制した。


 朱里は文句を言いながらもタウラスを仲間と呼んでいた。

 その仲間がいなくなったら悲しくない訳が無い。

 そんな姿を見せたくないだけなのだ。


「ほら、撤収だぞ………」


 朱里が覇気なくボソリと言うと、皆工場(こうば)をあとにした。


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