第16話 パン屋に帰宅
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朱里のパン屋に帰ってきた。
時刻は既に夜中の12時を回っていたが灯りが付いている。
ダイスは途中、眠ってしまったのか、また意識を失ってしまった。
レイがダムドから降りると、扉が勢いよく開いて朱里が飛び出してきた。
「レイーっ! 何時だと思ってんだ。
コロニーの外には行くなと何度言えば分かるんだ。毎回どれだけ心配………」
「待ってパパ、いつも心配してくれてありがと、でも今日は色々あったの、聞いて」
「ん!?
しかもダムドに引っかかってる小僧は誰だ?
生きてんのか!?
うちにはもう手のかかる居候がいるから置いとけないぞ!
だいたいだなー………」
「エクスクルーダーがあったの…って言っても風が吹いたと思ったらアーキノイド達が動かなくなったってだけで、何かを見たり、手に入れた訳じゃないんだけど………」
「ッ!?………………」
なんだかんだ言いながらレイが帰ったことを喜んでいたシュリだが、途端に黙り込んで表情が険しくなった。
「少し前に話してたターミナルに行ったの。
そこでタウラスっていう初期のアーキノイドに会ったわ。
そこで寝ているのはダイス。
タウラスから頼まれたの……
蘇生ポッドっていうのかしら? にミイラで入っててプシューって蘇生した感じ。
急だったから理解が追いつかなかったけど、頼まれたってことは面倒みるってことよね………」
「タウラス!? ダイス…… だと!?」
レイは頼まれたものが大きな責任を伴うことに今さらながら気付いて朱里の顔色を伺った。
険しい表情のまま黙っている朱里にレイは慌てた。
「そ、それでね、サンドラのアーキノイドが押し寄せてきてタウラスが私達を逃がしてくれたの。
タウラス平気かしら………」
ダムドが機械的に答える。
「我々が逃げている途中に見た閃光と衝撃波はおそらく小規模な核融合爆発だ。
通常であれば生き残ることは不可能だ」
「じゃあタウラスも………
そんなことないわ、落ち着いたら見に行って見ましょう」
「やめとけ」
レイ達の話を黙って聞いていた朱里が口を開いた。
「えっ!?」
「やめろと言ったんだ。
ガンマの手先と正面からやり合ったお前らは奴らの標的リストに仲間入りだ。
放っといても奴らの方から仕掛けてくる。
これからはガンマの手の届かないところで生活するんだ。
俺が手配する。
分かったな」
予想外な朱里の弱気な発言にレイは怒りがこみ上げた。
「いつからそんなだらしないパパになったの?
エクスクルーダーを見つけてガンマを討伐するんじゃなかったの?」
「そうだ、その通りだ。
だからこそ言ってるんだ。
ガンマに立ち向かって無事でいたやつはいない。
ガンマに辿り着くどころかオーバーズにすら勝てなかった。
そういうことだ。
お前をそんな危険な戦いに送り出すことは出来ない。
お前の母さんとの約束………願いだからな」
「平気よっ! オーバーズにだって負けないわ」
「だめだっ!
俺はタウラスを知っている。
そこの坊主ダイスも………
おそらく俺の知ってるやつ、神馬解のガキだ」
「えっ! 知ってるの!?」
「まぁな、俺がまだ技術者として精を出してアルファにこき使われてた頃の知り合いだ。
解は同僚、タウラスは、まぁ言ってみればアルファを守る用心棒役だな。
愉快なアーキノイドだったろ?」
「そうね、そんな雰囲気だった。
てゆーかパパ、アルファで働いてたの!?
初耳だわっ! 今日は驚くことばかり」
「まぁな、途中でやめたけどな。
やつは戦闘タイプのアーキノイドでダイスの世話役も担っていた。
最強なんだが、用心棒のくせにとにかく戦いが嫌いでな、いつも本を読んでいたよ。
しかしタウラスがこんな近くにいたとはな………
てことはお前達が行ったターミナルはアルファの拠点だった可能性が高いな………
俺達人間は淘汰戦争後に自分達が知らない土地に送り込まれたからな。
まぁ話がそれたが、今回の一件でエクスクルーダーらしきものが現れたなら、それはガンマにも知られたはずだ。
手掛かりの拠点はダムドの話だと爆発で吹っ飛んで何も残ってないだろうな。
酷だがタウラスもアウトだろう。
そうするとガンマが次に狙うのは何だと思う?」
「………私達!?」
「その通り。
俺の読み通りなら特にダイスを何としても手に入れようとするはずだ。
ダイスの親父はエクスクルーダーの開発に深く関わっていた。
50年後の今になって、死んだと思われていた息子のダイスが目覚めて、更にエクスクルーダーが発動したとなりゃ何か知っていると思うのが当然だろう。
ガンマは必ずお前たちを狙ってくる。
そんな危険な戦いに送り出すことは出来ない。
分かったなっ!」
「何よ、結局そういう締めくくり?
ハイハイ、分かったわよ。
大人しくすればいいんでしょ」
「お前絶対分かってないだろ?
ダメなもんはダメだからなっ!」
朱里は呆れ顔でレイに念を押した。
「とにかくダイスの様子を見て。
目を覚ましたけど、またすぐに気を失っちゃったの。
大丈夫かしら………」
「ったく、しょうがねぇなぁ、見たところ蘇生はしたみたいだが放っときゃすぐ死にそうだな。
工場に連れてって何とかしてみるけどよ。
お前俺の話分かってんのか?
絶対に行かせないからな……
ブツブツ、ブツブツ………」
納得のいかない朱里はヒョイッとダイスを担いだ。そして、ブツブツ言いながら部屋の角へ行って不規則にトンットトンッと軽く足を踏み鳴らすと、床が跳ね上がって地下への階段が現れた。
改造を施す為の工場と呼んでいるオペ室が地下に隠されていたのだ。
「おぅ、後は俺に任せてレイ、お前はひとまず休め。
いいな。
明日はパン屋は臨時休業だ。
つーか他に移らんとな。
スマ、お前は手伝え」
「えー、何で俺が!?」
「いーから来い」
そう言って朱里はスマを連れて工場に行ってしまった。
「ふぅ、ひとまず何とかなりそうね。
今日はホント色々あり過ぎたわ。
ダムドもお疲れ様、ありがと」
「問題ない。
ゆっくり体を休めてくれ。
おやすみ、レイ」
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