第13話 熱い情熱ハンマー
レイ達がアーキノイドの群れを突破して離れた直後、ビリビリと空気が揺れ、辺り一帯を包む衝撃波が広がった。
大規模な電磁パルスだった。
タウラスが仕込んでいたものだろう。
アーキノイド達は一斉に動かなくなった。
これ程強力な電磁パルスは、仮に強改造者だったとしても機能に損傷が出ておかしくない。
だからレイやダムドが離れてから発動させたのだ。
「やったわっ! タウラスね」
「そうだな、しかし、様子がおかしい。
一瞬動きが停止したが、ほとんどのアーキノイドがすぐにリブートした」
ダムドがレーダーで様子を確認した。
「なぜ? 対策されてたってこと!?」
「そういうことだろう。
アーキノイド達の追撃がまた再開したようだ。
先を急ごう」
「タウラス………」
二人はタウラスの身を案じ、やりきれない思いで進んだ。
― ― ― ― ― ―
「じゃあ、アーキノイド諸君、でかいパルスのプレゼントだ」
レイ達が突破したことを確認したタウラスは大規模電磁パルスのスイッチを入れた。
ここが発見されればアーキノイドが大群で押し寄せてくる。
想定していたとおりだった。
ビルを中心に半径十キロ圏内にいるアーキノイドは停止。
更に強改造者のアウェイカーも破壊できる威力だ。
アーキノイド達の動きが止まった。
………が、すぐに動き出した。
「あらららっ!? 動いたっ!
あー、対策済みってことだね、そりゃそうか。
でもレイ君達が脱出できたから九十点だな、うんっ!
まだまだ遊び足りないならかかっておいでっ!」
タウラスは満足そうな笑みを浮かべて構えた。
その時、まるで氷水の中に落ちたかと思うほど一気に気温が下がり、アーキノイド達が整列して道を開けた。
その道をゆっくり歩いてくるのは、フードが付いた真っ青なマントを纏った氷のコロニー『ブリザド』のオーバーズ、『氷雨』だった。
「ったく、サンドラのアーキノイドは弱えーんだよ。
ここがブリザドだったらこうはならねー。
そもそも何で俺がお前らに加勢しなきゃなんねーのよ………」
ヒョロっとした長身、フードはしておらず、真っ青なマントから覗く体や髪、目の色も全て青い。
不機嫌極まりない様子だ。
「よぉ、お前がタウラスだな。
この時代の始まりを作った一人。
そしてエクスクルーダーの記憶を持つ者。
お前のデータ、さっさと頂くぞ。
ガンマ様の命令なんだが指図されると腹立つんだよな」
「おっと、まさかブリザドのボスとは。
てっきりここサンドラの『雷禍』が来ると思ってたよ。
まぁとにかくやっとお出ましだね。
ガンマは元気かい?
君らが今までここを発見できなかったって事は、裏を返せば、ガンマはここの場所の記憶やエクスクルーダーのレシピを失ったと考えられるよね。
神馬博士の仕業かなあ。
まぁやっとたどり着けたって訳だ。
五十年間さぞもどかしかったろうね。
僕の記憶を奪って、唯一の脅威エクスクルーダーから逃れたいだろうがそう簡単にはいかないよ」
言うと同時にタウラスが無限地獄で先手を取った。しかし、指弾は氷雨に当たる前に弾けて霧散してしまう。
冷気を孕んだ濃く白い霧が氷雨を包んでいく。
「フロストヴェール、触れるもの全てを凍らせる冷気の鎧」
「うわっ、厄介だな。
急激な温度変化で凍った指弾が自分の推進力に耐えられなくなったってところ!?」
「そういうことだ。
教えといてやるが俺はベータ波が得意だ。
デバイスはエレメント系の『アイス』。
能力は大気や物質の水分を凍らせること、ただそれだけ。
言いたいこと分かるか?
ネオメタルだろうが何だろうが液体金属のお前、俺との相性最悪、死ぬよ」
「ご丁寧にどーも、そうならないよう頑張るよ。
それじゃあ、これならどうかな。
僕の熱い情熱と君の冷気、どっちが勝つか勝負だっ!」
タウラスは自分の胸を引きちぎるとその塊を腕一本ほどの灼光に燃え上がるハンマーに変化させた。
それを両手で大きく振るい足元を薙ぎ払う。
氷雨が飛んで交わし、地から離れて自由が効かなくなったところ、真上から強烈な二撃目を間髪入れずに打ち下ろす。
速いっ!
氷雨は咄嗟に頭の上で両腕をクロスして、フロストヴェールを集中させたがドゴンッという鈍い音とともに直撃を喰らった。
フロストヴェールか猛烈に蒸発して煙がのぼり、ハンマーも凍っていく。
「こん、な、、ものぉー、
おおおおおーーーっ!!」
「ぶっ潰れろぉっーー!!!」
氷雨の片膝が落ち周囲の地面がべコンと大きく陥没する。
ハンマーは燃え上がる炎を奪われ、三分の一ほど凍って砕けてしまったが、フロストヴェールもほとんどが消失し、ハンマーは氷雨の腕に食い込んだ。
氷雨本体に触れるとあっという間にビシビシと凍りついていく。
このままではハンマーが全て凍って砕ける。
タウラスが渾身の力を込める。
「うおおおーーーっ!」
パワー対決を制したのはタウラスだった。
氷雨は両腕のガードを破られ、頭から胸にかけ強烈な一撃を浴びてズドンと地中深くに埋没した。
ハンマーの頭も粉々になった。
まともに当たれば一発で決着がつく威力だ。
「流石オーバーズ、反応が速い。
あーぁ、情熱ハンマーが酷い姿だよ。
まともに手で触ったらカチコチだなこりゃ。
今の僕だとハンマーを再生できてあと一回。
次で仕留めないと」
タウラスは欠損したハンマーをより大きく再生し炎を燃え上がらせて氷雨を待ち構えた。
辺りが静まり返る………
「………解除」
氷雨の声だ。
次の瞬間、穴が爆裂して氷雨が勢いよくタウラスに突っ込んできた。
先程の頭と胸の傷も自己再生し、目から青い光が漏れている。
リミッターを解除したのだ。
「来いっ!
これで終わらせるっ!」
スパンッ!
鋭い斬撃音とともに何かが宙を舞った。
それはハンマーを振りかぶったタウラスの両腕だった。
氷雨が何かを投げる動作をしていた。
鋭利なブーメランのようなものが飛んでいる。
何も持っていなかったはず………
大気の水分を瞬時に凍らせて生成したのだ。
タウラスは自分の両腕を切断した氷の刃をほんの僅かだが目で追ってしまった。
前方に視線を戻すと氷雨の姿がない。
「しまったっ!」
ズドンッ!
「チェックメイトだ」
タウラスは氷で生成された鋭いスピアで背中から貫かれ串刺しになった。
「アイスブレイク」
氷雨がそう発声すると同時にタウラスは傷口からどんどん凍り付いていき熱を帯びた赤色が失せていく。
「終わりだよ。
データは貰う。
それとお前が身を挺してまで逃がした奴ら。
メインラボで何かあったな?
奴らも殺す」
「ぐぅおおおおーーー、
そうはさせないっ!!
お前はここで止めるっ!」
氷雨はほとんど凍り付いたタウラスの頭に手刀を入れコアを掴むと即座にデータをダウンロードした。
「ッ!?………
ない、ないぞっ!
エクスクルーダーのレシピがないっ。
くそっ、こいつ自分で削除してやがった………
しかも何だこれ!?
核融合だとっ!
コアに細工しやがって」
「誰かがコアに直接触れたら起動、そう設定してある。
もう僕にも止められない。
間もなく半径5キロ圏内が焦土と化す。
君もこれでガンマから解放されるよ」
「なに勝手なこと言ってやがんだ、冗談じゃねぇっ!!」
そう言って氷雨はタウラスを蹴り飛ばし、猛烈な勢いで走り出した。
タウラスは仰向けになって転がった。
空は果てしなく青かった。
「あー、今日は天気が良かったんだね。
やっとお役御免だ………
一人で待ち続けるのはもうこりごりだよ。
ダイス、、、僕に幸せをくれたダイス、、、
もう一度ぎゅっと抱きしめたかったなぁ。
ふふ………
さようなら…… ボウヤ………」
そう言うとタウラスはそっと目を閉じた。
アーキノイドであるはずのタウラスの目から、一筋の涙がこぼれた………
………………カッ!!
眩い閃光とともに強烈な爆風と熱波が巻き起こり、一帯が焦土と化した。
ヒサメに敗れたタウラス。
次号、タウラスの過去が、、、
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