第6話・イタ飯(前編)
ハン「姉上、『イタ飯』って知ってます?」
ショウ「イカ飯?」
ハン「『イタ飯』っス」
ショウ「知らない。何それ?」
ハン「いや、オイラもよく知らないんスけど、昔、友達が『イタ飯』なる料理を食いに行った話をしてたのをふと思い出したんス」
ショウ「うまいの?」
ハン「うまいらしいっス」
ショウ「どんな料理なの?」
ハン「そこなんスよ、問題は。何しろ友達から話を聞いたのが5年も前っスから、記憶が曖昧でどんな料理かまでは覚えてないんス。そもそも友達がどんな料理かを話してたかすら定かじゃないし。気になって気になってしょうがないっスけど、こんなインターネットもない戦後の時代じゃグー○ル検索もできないし、諦めて悶々と過ごすしかないんスかね~」
ショウ「うーん、『イタ飯』ね……」
***
ナレーション「山中からクロスレンチに追跡されていたネクラとメガネ。アサルトライフルで応戦を試みるも歯が立たず、ヤケを起こしたネクラはクロスレンチに飛びかかったのであった」
メガネ(ネクラッ!)
ネクラ「ガッ!」
ナレーション「【ダンッ!】と響く銃声。地に落ちるネクラ。駆け寄るメガネ」
メガネ「ネクラ、おい、ネクラ!」
***
ショウ「『イタ』ってことはやっぱり、板に関係する料理じゃない?」
ハン「板に乗ってくる料理とか?」
ショウ「そうそう。寿司とか」
ハン「あれは『下駄』っしょ」
ショウ「じゃあ、ワンプレートは?」
ハン「『皿』じゃないスか?」
ショウ「かまぼこ」
ハン「料理と言うより食品っスね。『飯』と表現するには微妙な気がするっス」
ショウ「板……板状……板こんにゃくは?」
ハン「それも食品ス」
ショウ「板チョコ」
ハン「お菓子」
ショウ「まな板」
ハン「料理道具」
ショウ「板前」
ハン「料理人」
ショウ「それっぽくない?板前の料理を『イタ飯』って呼ぶの」
ハン「板前が作る料理なら『和食』じゃないスか?」
ショウ「難しいね」
ハン「うーん。イタ……イタ……」
***
ネクラ「痛たたた……」
メガネ「おい、ネクラ、大丈夫か!?」
ネクラ「う……せ、背中が痛いです」
メガネ「背中痛いんか?撃たれたとこは?」
ネクラ「う、撃たれてないです」
メガネ「撃たれてない?」
ネクラ「ほら」
ナレーション「見ると、ネクラに目立った銃傷はない。手にはクロスレンチが握られている」
ネクラ「これを掴もうとした直前に機能停止したみたいなんです。だから、私自身は撃たれてないんです」
メガネ「え、いや、でも明らかに発砲音したやん」
ネクラ「あれはスピーカーから鳴った音ですよ」
メガネ「スピーカー?……ってことは、発砲は敵のいる場所で起きたってことか?」
ネクラ「ええ。クロスレンチも止まってますし、何かしらトラブルがあったのかもしれませんね」
***
ショウ「あ、もしかして、『板』じゃなくてイタズラの『イタ』なんじゃない?」
ハン「イタズラ?」
ショウ「イタズラ電話を略して『イタ電』って言うじゃん?だからイタズラ飯の略で『イタ飯』。どう?」
ハン「イタズラ飯ってなんスか」
ショウ「ドリンクバーの全種類の
ハン「やっぱ言わなくていいス。まあ、絶対『イタズラ』じゃないにせよ、色んな方向から『イタ』にアプローチするのはいいアイディアっスね」
ショウ「タバスコも入れて
ハン「イタズラは忘れてください」
ショウ「お気に召さないか、『イタズラ』は?」
ハン「なんなんスかね~。イタ……イタ……」
***
???「いたいた。おーい」
ナレーション「その時、遠方からネクラとメガネに近づいてくる謎の女が現れた」
ネクラ・メガネ「!?」
ナレーション「銃を構えるメガネ」
謎の女「うわー!待って待って敵じゃない!」
ナレーション「両手を挙げる女」
謎の女「君ら反乱兵だろ?私も反乱兵だから!撃たないで!」
ネクラ「えっ」
謎の女「君らを助けに来た」
ナレーション「銃を突きつけつつも、話を聞いてみるネクラとメガネ。『ミハラ』と名乗るその女は、反政府組織『中央レジスタンス連合』のリーダーを自称した」
ミハラ「……で、東部の組織の協力を仰ぐためにリーダーの私が直談判に赴く道中、たまたまクロスレンチに追われる君らを見かけたってわけ」
ネクラ「そうだったんですか」
ミハラ「近くに敵兵2人組がいたから、1人は銃弾入れて動けなくしたけど、もう1人の方は逃げられて、今、私の仲間が追跡してる」
ネクラ「ああ、スピーカー越しに発砲音が聞こえたんで、敵側で何かあったのかと思いましたが、ミハラさんの仕業だったんですね。お陰で助かりました。ミハラさんが敵を撃ってなかったら、間一髪でクロスレンチと差し違えるところでしたよ」
ミハラ「しかし、君らも大変だね。まさか東部の勢力が既にやられていたとは思わなかったよ。山越えてここまで来るのも難儀だったろ?」
ネクラ「ええ、本当に大変でした。運悪く山火事にも巻き込まれましたし」
メガネ「なあ、ネクラ、ちょっと深入りしすぎちゃう?」
ナレーション「早くも打ち解けるネクラと、疑り深いメガネ。2人にミハラが提案を持ちかける」
ミハラ「ところで、もし行くアテがないなら、うちの連合軍に来ない?」
ネクラ「え、いいんですか?」
メガネ「……」
ミハラ「むしろ来てほしいくらいだよ。東部のこととか、敵のこととか、色々情報交換したいし。あと、装備を見るに、君ら、銃も使えるだろ?うちとしても戦力になる人員が増えたら助かるからさ。どうかな?」
ネクラ「そういうことなら、是非
メガネ「お、お言葉ですがッ」
ナレーション「ネクラの言葉をメガネが遮る」
メガネ「会ったばかりの人間を勧誘するのは組織的にあんまり良くないんとちゃいます?」
ネクラ「ちょっとメガネさん」
メガネ「素性の知れない人間が簡単に入れるようじゃスパイが紛れ込んどるかもしれんし、そういう疑わしい人と関わるのはウチとしても正直居心地悪いです」
ネクラ「メガネさん」
メガネ「助けていただいたのは感謝しとりますけど、申し訳ないんですが、この話はなかったことに
ネクラ「メガネさん!」
ナレーション「先程とは逆に、メガネの話を遮るネクラ」
ネクラ「なんで断ろうとしてるんですか!?せっかく反政府勢力の人、しかもリーダーに会えたんですよ!?」
メガネ「だ、だって話がうますぎるやん?反政府勢力に入りたいって言い出したのはついさっきやろ?それで30分も経たんうちに向こうから勧誘しに来るとか、完璧すぎて怪しいやん!」
ネクラ「なら、他にアテがあるんですか?」
メガネ「いや……ない。ないけど!
ネクラ「じゃ、今回の勧誘は蹴って、さっき話した計画の通り敵兵の訓練所で騒ぎ起こして、別の勢力に気付いてもらえるようアピールしますか?」
メガネ「それもちょっと……」
ネクラ「結局、どんな組織とコンタクトを取るにしても、多少の危険は吞まなきゃいけないでしょ?だったら今その危険を受け入れて前に進むべきじゃないですか?」
メガネ「で、でも、知らない人に着いて行ったらアカンって
ネクラ「……ハァ。わかりました。そんなに嫌ならミハラさんのところには私1人で行きますけど、それでいいですね?」
メガネ「!……やだ!一緒に行く!」
ネクラ「……というわけで、ミハラさん。これから2人でお邪魔させてください」
ミハラ「お、良かった。断られちゃったらどうしようって心配してたよ~」
メガネ「……」
ネクラ「お見苦しいところ見せちゃってすいません。この人、たまに人見知りするんです」
ミハラ「うんうん、知らない人に着いていくのって危ないからね。そういう慎重さも大事だと思うよ」
ナレーション「突如現れた反政府勢力のリーダー『ミハラ』に着いて行くことになった2人。メガネがネクラへのヤキモチを自覚する日は遠く、そしてネクラはメガネを手玉に取るのが上手くなりつつあることに気付いていないのであった。次回、『コウノトリの野望』第7話に続く!」
***
ショウ「イタ……『イタチごっこ』は?」
ハン「イタチごっこの飯って……どんな料理スか」