第4話・ブタのフォアグラ
ショウ「妹、メシ何?」
ハン「……」
ショウ「妹?」
ハン「……」
ショウ「妹~?」
ハン「姉上……この世界、1回滅んだ方が幸福になれると思わないっスか?」
ショウ(ヒエッ!不機嫌だ!)
ハン「オイラは……『寿司』が食いたかっただけなんスよ……。『上握り』2人前テイクアウトして姉上とささやかなディナーを堪能する……それができれば十分だったんス……。……ただ……忘れていたんスよ……今日が『節分』ってことを……。贔屓の寿司屋行ったら入り口に張り紙があったんス。『本日はレギュラーメニューの販売を休止し、恵方巻き関連商品のみのお取扱いとなっております。』ってね。『こちとら普通の寿司が食いたいのに余計なことしやがるなー』って思ったんスが、当日限定のメニューに『恵方巻きお子様セット』ってのがあって……恵方巻きと一緒に姉上が好きな玉子とかサーモンとか入ってるのがあったんス。……オマケの豆菓子もついてて良さげだったんで、『ああ、これにしよう』って決めたんス。……で、店入ったら今度は立て札があったんスよ。『予想以上のご好評につき、本日のテイクアウト商品は完売いたしました。お客様には大変ご迷惑をおかけし、申し訳ございません。今後ともご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。』……」
ショウ「……で、何も買えずに帰ってきたのね」
ハン「……オイラはやり切れないっス。『恵方巻き』って結局『巻き寿司』っしょ?普段は『握り寿司』に引けを取る『二軍』じゃないっスか。……それを今日に限ってミーハーの店と客がチヤホヤして、もてはやすから……そのせいで姉上とオイラは寿司が食えなかった!」
ショウ「いつも巻き寿司食べない人が気分転換で食べるのに丁度いい日なんじゃない?……多分」
ハン「……しかも、よくよく考えたら、昔はコンビニとかスーパーでも売れ残るほど不人気だったっスよね?でも、ここ数年じゃ売り切れるレベルで人気じゃないスか。こーゆー手のひら返しも腹が立つんスよ!」
ショウ「人気になったんじゃなくて、廃棄の問題で売れ残らないようになってきただけじゃない?」
ハン「季節の風物詩を金ヅルとしか思わない資本主義者と、簡単に踊らされるブタどもには制裁が必要っスね!これから恵方巻きは一切の販売を禁止して配給制にするっス!オイラと姉上の、かけがえのない食事のひとときを奪った罪を思い知らせるっス!」
ショウ(ヒエッ!共産主義者だ!)
***
メガネ「……ゼェ、ゼェ。……ここまで来れば、火の手も来ぇへんやろか?」
ネクラ「……ゼェ、ゼェ。……流石にここなら大丈夫でしょう」
ナレーション「レジスタンス組織の敗残兵『ネクラ』と『メガネ』。潜伏していた山林で正規軍の追跡を受けていたが、山火事に巻き込まれ、命からがら山を脱出したのであった」
ハン「ほら、配給の恵方巻きだッ!たんと食えやッ!」
メガネ「【ムグッ】」
ネクラ「【ムグッ】」
ナレーション「【ムグッ】」
ハン「せいぜい神に感謝して食えよ、ブタがッ!」
ショウ(これはもはや『配給』じゃないッ!強制的な『給餌』だッ!フォアグラの国でも作る気かッ!?)
メガネ「……ンフ、ンフフ、ンフフフンフフフフ。ンフフフフフフフフフフッフフフンフフフンッフフフ、ンフフフフンフフンフフッフッフフ」
ネクラ「……ンフフフフ、ンフフフフンフフフフフフフフフフンフフフフフフフフフフフフフー」
メガネ「フフフ。ンフフフフフフフフフフフフフフフフフフ、ンフフフフフフフフフフフ」
ナレーション「ンフフフフフッフフフフンフフフフフッフフフフ、ンフフフフフフフフフフフ。ンフフフフフフフ、ンフフフフンフフフフフフフフフフフフフフフ。ンフンフフフフフフフフ、ンフフフフフフフフ」
ネクラ「……ンフフフフ」
メガネ「ン?」
ネクラ「……フッフンフフフフンフフフフフ、ンフフフフフフフフ?」
メガネ「ンフフ。……ンフ、フッフンフフフフフフ」
ナレーション「ンフフフフフフンフフフンフフフフフンフフフンフフ。ンフフフフフフ、ンフフフフフフフフフフフ」
ネクラ「……フ、ンフフフフフフフフ……ンフフ、ンフフフフフフフフフフフフフフフ。ンフフフフフンフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」
メガネ「……ンフ『ンフフフフフフフ』ッフフフ……フッフフンフフフフフフフフッフッフフフフ?」
ネクラ「フフ、フフフフフフ……ンフフフフフフフ『ンフフ』フフフフフッフフフフフフ」
メガネ「……『ンフフ』ッフフフ……ンフフフフフフフフフフフ?」
ネクラ「ンフフフンフフフフフーフンフフフッフフフフフンフフフフフンフフフフフフフフフフフフ、フフフンフフフフ」
メガネ「ンフフッフ、ンフフフッフフフフフフフフ?」
ネクラ「ンフフフフフ。フーフフフフフフフフフフフフ、フッフフフフフフンフフフフフフフフフ」
メガネ「ンフフ?」
ネクラ「……フフ、ンフフフフ、ンフフフフフフフフフフ、フッフフ、ンフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ。フフフ、フフフフフフフフンフフフフフフフフフフンフッフフフフ」
メガネ「……」
ネクラ「フ、ンフフフフフフフンフフフフフフフフフンフフフフフフフフフフフ。ンフフフンフフフフフフフフフフフンフフフフフフフフフフフフフフフンフフフフフフフフフフフフフ、ンフフフフフンフフフフフフンフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ、ンフフフフフフフンフフフフフフフフフ、ンフフフフフフッフ、ンフフフフフフンフフフフフフフフフフ。……ンフフフフフフ?」
メガネ「ンフ、フッフンフフフフフフ……。ンフフフフフフフフフフンフフフフフフフフフフフフフンフフフフフフフフフッフ、ンフンフフンフフフフフフフフ?」
ネクラ「ンフフフフフンフフフフフフフフフッフンフフフフフ」
メガネ「【ドキッ】……ンフンフ、フッフフフッフ、ンフフフフフフ。ンフフフフフフフフフフフフンフフフフ」
ネクラ「ンフフフフフフフフフフフ。フフ、フッフフフンフフフフフフフフフ、フフフフンフフフフフフフフフフフフ、フーフフフフフフフフンフフフフフ。……ンフフフフーフーフフフフフフ、ンフフフフフフフフフフフ、ンフフフフフフフンフフフフッフフ、フフンフフフフフーフフフフフフフフフフフフフ?」
メガネ「……ンフフフフフフ。……ンフフフフ、ンフフンフフフフフフフフフ」
ナレーション「フ、ンフフフフフフフッフンフフフフフフ」
正規軍兵士1《ンフフフッ!》
ネクラ・メガネ「!」
正規軍兵士1《ンフフフフフンフフンフフフフンフフフフフフッ!ンフフフフフフフフフフフフフフフフッ!》
ナレーション「ンフフフフフフフンフフフフフフフフフフフフンフフフフフフフフフフ、ンフフフフフッフフ。フフ、ンフフンフフフフフフフンフーフーフンフフフフフフフフフフフッフ!ンフフフフフフ、フフフンフフフフフッフフフッフンフフフンフフ。ンフフフ、フフフ―フーフンフフフフンフフフフフフ?ンフフ、『ンフフフフフンフフ』ンフフフフフフフ!」
***
ショウ「……ところで、恵方巻き食べてる時って喋っちゃいけないんじゃなかったっけ?」
ハン「さあ?ま、ブタが喋ったところで何言ってるかわかんないし、ノーカンじゃないっスかね?」