第30話・ハンバーガー2
ナレーション4「前回のあらすじ。プリケツ女は24歳だった。女子中学生は26歳だった。未亡人は20歳だった。変質者は年齢不詳だった」
マロー「腹減った。メシにしよう」
ヒレイ「そうだな。メガネウラ、メシ食いながらのお前の話、聞かせてくれよ」
***
ナレーション4「雪ウサギ隊は日中でも直射日光が当たらない日陰の雪の中に冷凍食品を蓄えていた」
マロー「ゴリゴリ」
ハツ「ガジガジ」
ブレン「シャリシャリ」
ヒレイ「ザラザラ」
ショウ「ムッチャムッチャ」
ハン「モッチャモッチャ」
メガネ「冷凍食品を凍ったまま食べる人初めて見た……」
ヒレイ「山での生活はカロリーの消費が激しいからな。食える時に食っといた方がいい。食料は昨日調達してきたばっかりだから十分な量があるし、お前も遠慮してねぇでどんどん食え。ピザ、グラタン、唐揚げ、カット野菜、鯛焼きなんかもあるぞ」
メガネ「食べたくても解凍せんと食べられへん」
ヒレイ「じゃ、冷凍ピラフはどうだ?そんな風に火で炙らずとも、こうやって流し込めるぞ……ザラザラ」
メガネ「ウチが知っとる冷凍ピラフは食べ物であって飲み物とちゃうねん……あちち!」
ヒレイ「うちで出るメシは基本的に冷食だからな。凍ったまま直食いできるようになった方が効率的だぜ。好きなもんなり、食いやすいもんなりを使って少しずつ身体を慣らしておくといいぞ。今、何か食いてぇもんはねぇのか?」
メガネ「……ハンバーガー」
ヒレイ「ハンバーガー?生憎だがハンバーガーの冷食はねぇな」
メガネ「いや、別に好きとか食べたいってわけとちゃうんやけど、なんとなくハンバーガーの匂いが漂ってくるような気がして……」
ヒレイ「そういや心なしかハンバーガーの匂いがするような……」
ショウ「ムッチャムッチャ」
ハン「モッチャモッチャ」
ハツ「ヒレイ、メガネウラさんのことを訊くんじゃなかったの?」
ヒレイ「ああ、そうだったな。何から訊こうか」
メガネ「喋る前にひとつ。この際ハッキリ言っとくけど、実はウチ、反乱兵なんや。助けてもらった恩があるとはいえ、正規軍の関係者のアンタたちに仲間の情報は売れん。どうしても喋らせたいならウチのことだけにしてや」
ヒレイ「……」
メガネ「……ゴクリ」
ヒレイ「わかった。喋れることだけ喋ってくれればいい。ま、俺たちも今となっちゃ軍に籍はない。あんまり身構えず気楽にしてくれよ」
メガネ「ホッ」
ハツ「あたしはどうしてメガネウラさんが反乱兵やってるのかってとこから訊きたいな」
メガネ「せやな……昔、かくかくしかじか」
ハツ「……なるほど。元々幕府の陸軍に所属していたから立場上コウノトリ側とは相容れない、と。でもそれ以上に、亡くなる前に故郷の地を踏めなかったお母さんの無念を晴らしたい、それとお父さんと弟さんにもう一度会いたいってのが大きな動機なのね」
メガネ「それで東部の無名の反政府組織……本当に名前すらなくて『組織』って呼ばれてた組織に加入したってわけなんや」
ヒレイ「反政府組織、か……。反政府組織って政府のアンチの組織だよな?ってことはハンバーガーはバーガーのアンチなのか?『反』バーガーなのか!?」
メガネ「は?」
ハツ「ちょっと何言ってるのヒレイ?メガネさんがあたしたちを信頼して辛い過去を打ち明けてくれたのよ?こんな時にふざけないで。ほら、マローも怒ってるわ」
マロー「ヴーッ」
ヒレイ「わ、悪かった、続けてくれ」
ショウ「ムッチャムッチャ」
ハン「モッチャモッチャ」
メガネ「それから、かくかくしかじかで中央レジスタンス連合に拾われたんやが、かくかくしかじかで多くの仲間が捕まってもうたんや」
ハツ「ああ、反乱軍制圧作戦ね。あたしたちは決行日の時点で既に除隊してたし当日がどんな状況だったのかは知らないけど、風の噂では各地で相当数の反乱兵が捕まったって聞いてるわ」
メガネ「正確な数は把握しとらんけど、味方やと信じてた仲間の半分くらいが実は正規軍の工作員でしたってわけやからな……身内の人間に突然牙を剥かれて咄嗟に逃げたり抵抗したりできるヤツはそうそうおらへん」
ヒレイ「半分……?ひょっとしてハンバーガーは半分だからハンバーガーなのか?『半』バーガーなのか!?つまり元々一人前の基本となるサイズの『バーガー』ってのが世の中には存在してて
ハツ「ヒレイ!メガネウラさんが反乱軍制圧作戦の話をしてくれてるのよ!軍を辞めた身とはいえ、あたしたちにも無関係じゃないでしょ?おとなしく聞かなきゃダメじゃない!ほら、マローも怒ってるわ」
マロー「ヴーッ」
ヒレイ「す、すまん。続けてくれ」
ハン「ハ……ハクション!」
ショウ「お、大丈夫か?」
ハン「クソッ、誰だ!?オイラの噂話してるヤツは!?」
メガネ「でも、中央の反乱兵は最後まで抵抗したんや。かくかくしかじかで、せめて正規軍に一矢報いよう……せめて1人でも仲間を逃して反乱の意思を繋ごう……そう思って諦めずに戦ったんや」
ハツ「そう……クロスレンチの弱点を突いて戦った、と。クロスレンチに弱点があるだなんて初めて知ったわ。火炎瓶はどうやって作ったの?瓶はともかく、燃料の方はそう簡単に調達できないと思うのだけど」
メガネ「マンションの敷地内に集会所があって、そこに灯油があったんや。マンションの部屋は最新鋭の床冷暖房やったんやけど、集会所だけは何故かレトロ調の内装になっとって、ストーブが置かれとった。で、冬の間に使われなかった灯油が残っとったから、掃除の合間に少しずつ拝借して秘密裏に火炎瓶のストックを増やしてたってわけや」
ハツ「へぇー、凄いじゃない。メガネウラさんって用意周到に戦略を立てるのが得意なのね!」
メガネ「いや、戦略は戦略でしかないねん。実行に移せなかったら意味あらへん。今思えば無謀な戦略やった。本当に凄いのはその無謀な戦略を信じてくれた仲間たちの方や。あの土壇場で戦う意思を捨てずにド根性見せてくれたみんなの方が何より凄い人間なんや」
ヒレイ「ド根性……『ド』……。『ハッシュドポテト』ってさ、店によっちゃ『ハッシュポテト』って名前で売ってることあるよな?これに関しては若干マイナー寄りな食べ物だし、正直どっちでもいいと思う。けどよ、一般名詞レベルで浸透してる『フライドポテト』を『フライポテト』って呼ぶのはお高くとまってると思わねぇか!?」
ハツ「ヒレイ!さっきから話の腰を折ってばっかり!!いい加減にしないとお仕置きするわよ!?ほら、マローだってキレかけてるわ」
マロー「ヴーッ!」
ヒレイ「あ、ああ、わかった。もうしないよ」
ショウ「ムッチャムッチャ」
ハン「モッチャモッチャ」
メガネ「けど……シャーリー上等兵が現れたことで戦場は一変した。かくかくしかじかで敵も味方も一時休戦して、暗黒のドームの外に逃げるのを優先するって流れになったんや。そこからかくかくしかじかでウチはオサガリ兵長のグランドクロスに押し込まれて、飛ばされて……気付けばこんな山の中におったってわけや」
ハツ「『与野本町の怪人』……あのオサガリさんでも敵わなかったのね……。でも、幕府の関係者同士、話し合いで説得できなかったの?オサガリさんにメガネウラさん、スズネさんもいたんでしょう?」
メガネ「無理やろうな。幕府の人間言うてもウチは面識あらへんし、面識あるオサガリ兵長とスズネ上等兵も話し合いで解決できるなら誰に言われるでもなくやっとったやろうし」
ハツ「そう……」
メガネ「ところで、兵長のグランドクロスは?ウチと一緒に飛んできたはずやけど」
ハツ「ここからちょっと離れた場所に刺さってるわ。たまにブレンが修理できないか様子見に行ってるけど、損傷と焦げ付きが酷くて、下手に弄ると壊れかねないから今は放置してるわ。そうよね、ブレン?」
ブレン「……」
メガネ「……本来なら、グランドクロスにはオサガリ兵長が乗って逃げるべきやったんや。正規軍も反乱軍も、シャーリー上等兵のヤバさはあの場におるみんなが感じとった。そしてきっと、みんな理解したはずや。シャーリー上等兵は人類を滅ぼしかねん危険な存在や、と。シャーリー上等兵を抑え込める人間が必要や、と。互角に戦えるのはオサガリ兵長しかおらん、と……。最後は必死に敵兵の命すら生かそうとした兵長の優しさもあって、反乱兵のみんなで協力して兵長を逃すことにしたんや。みんながシャーリー上等兵を足止めしてる間に、動けなくなった兵長をウチがドームの外まで運ぶ手筈やった……けど、結局、ウチの方が兵長に逃がされた。ウチなんか逃がしてもシャーリー上等兵とは戦えんのに……。とても人類の役には立てへんのに……。あの時、兵長を逃がせてれば……」
ヒレイ「れば……レバ……レバニラ……バニラシェイクの代わりに『レバニラシェイク』ってのは
マロー「ヴーッ、ワン!ワン!!【ガブリ】」
ヒレイ「いてててててやめろやめろ離せ離せ!」
ハツ「ほらヒレイ!あなたが邪魔ばっかりするからマローがキレちゃったじゃない!!」
メガネ「……あの、いつもこんな感じなん?」
ブレン「……」
ナレーション4「今日もどこかで笑う人間、泣く人間がいる。そんな人間の喜怒哀楽を気にも留めず、日はまた昇るのであった。続く」
***
ハン「はー、食った食った。姉上、山で食うメシってのはやっぱりひと味違いますね!」
ショウ「ZZZ」
ハン「気絶してる……」




