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第29話・食べ放題

ナレーション4「前回のあらすじ。プリケツ女は俺っ娘だった」


プリケツの主「まだ名乗ってなかったな。俺は『ヒレイ』ってもんだ」


メガネ「メガネウラです」


ヒレイ「トンボみてぇだな」


メガネ「『メガネ』って呼んでください」


ヒレイ「メガネ?裸眼なのに?」


メガネ「かくかくしかじか」


ヒレイ「え?『三角形の内角の和は税込198円』?」


メガネ「ちゃいます。どんな聞き間違いですか。近眼で昔は眼鏡かけてたけど、レーシック手術受けたんで今は裸眼って話です」


ヒレイ「ああ、そう言ってたのか。悪いな、実は最近耳が遠くて。歳は取りたくないもんだな」


メガネ「おいくつなんですか?」


ヒレイ「ピッチピチの24歳!独り身だから狙い目だぜ?」


メガネ「え、ほんまに?」


ヒレイ「お、狙っちゃう?」


メガネ「そっちやなくて。24ならウチとタメです」


ヒレイ「奇遇だな。丁度良かった。今から敬語はなしにしようぜ。堅苦しいのは好きじゃねぇんだ。よろしくな、メガネ!」


メガネ「よろしくおね……よろしく」


ヒレイ「……」


メガネ「……?あの、何か?」


ヒレイ「眼鏡かけてねぇヤツを『メガネ』って呼ぶのはしっくりこねぇな」


メガネ「はあ」


ヒレイ「ファーストネームは?」


メガネ「アユム」


ヒレイ「よし、じゃあ今からお前のことは『アユム』って呼ぶぜ。お前も俺のことはファーストネームで読んでくれ。『カツ代』ってな!」


メガネ「カ、カツ代!?」


ヒレイ「自分じゃ結構気に入ってるんだけどな。誰もカツ代って呼んでくれねぇんだよ。『カツ』ってのが勝負に『勝つ』みたいで縁起が良さそうだろ?お前はどう思う?」


メガネ「あー、えーっと……家庭的で……素敵な名前やない?」


ヒレイ「決まりだな。今日から俺たちは『アユム』アンド『カツ代』だ!」


メガネ「いやー、でもやっぱりファーストネームで呼び合うのはちょっと……」


ヒレイ「嫌か?」


メガネ「恥ずかしいっていうか、照れ臭いっていうか……ほら、出会って間もない仲やし、いきなりファーストネーム呼びは馴れ馴れしいというか……」


ヒレイ「なんだ?恋仲を疑われるって心配か?ここは標高3500メートルの山だぜ?街中でも職場でもねぇんだ。知り合いの目があるわけでもなし、思う存分ファーストネームで呼び合えばいいさ。ほら、見渡してみろよ!こんな山奥、俺たちの他には誰もいねぇだろ?」


ハン「姉上~。食べ放題、まだ着かないんスか~?」


ショウ「食べ放題?何言ってんだお前」


ハン「え?だって姉上がバイキングに行くって言うから付いてきたんスよ?」


ショウ「()イキングじゃねーよ。()イキングだよ!」


ハン「ズコー」


メガネ「いや、その、これまで家族以外の人間にファーストネームで呼ばれたことあらへんから抵抗感があって……」


ヒレイ「ふーん。ま、そういうことなら無理強いはしねぇけどよ」


メガネ(……うん、24の女に『カツ代』ってのは流石に渋すぎる。名前を呼ぶ方もためらうし、これで良かったんや)


ヒレイ「となると、なんて呼べばいい?『メガネ』以外で、何かいいニックネームはあるか?」


メガネ「うーん。昔の知り合いには大体『メガネ』って呼ばれとったし……ああ、でも連合軍じゃ『セミちゃん』って呼ばれとったわ」


ヒレイ「セミ?トンボじゃなくて?なんでセミ?」


メガネ「かくかくしかじか」


ヒレイ「え?『枕詞は事前だけどピロートークは事後』?」


メガネ「ちゃうわ!髪の毛がセミロングやから『セミちゃん』ってオサガリ兵長が呼び始めて、周りもそう呼ぶもんやから、それで定着してもうたって話や」


ヒレイ「あ、そうだったのか。けど、トンボをセミと呼ぶのも変な話よな」


メガネ「めんどくさいヤツやな。好きに呼んだらええよ」


ヒレイ「じゃあ、普通に『メガネウラ』って呼ぶよ」


メガネ「ウチも『ヒレイ』って呼ばせてもらうわ」


ヒレイ「さて、自己紹介が済んだところで、うちの隊のメンバーを紹介するか」


メガネ「ハツさんとブレンさんは昨日ちょっとだけ話したで」


ヒレイ「そうか。じゃあ後は『マロー』だけか」


メガネ「マロー?」


ヒレイ「今、お前のケツの後ろにいるのが『マロー』だ」


やたらと息の荒い女「ヘェッ、ヘェッ、ヘェッ」


メガネ「ヒェッ!?」


ナレーション4「メガネが振り返ると尻に顔を近づけて匂いを嗅いでいる息の荒い女がいた」


メガネ「え?え?」


ヒレイ「マロー、コイツの名前はメガネウラだ。仲良くしろよ」


マロー「ヘェッ、ヘェッ、ヘェッ」


ヒレイ「あー、こりゃダメだな」


メガネ「え、何しとるん!?今、尻の匂い嗅いどらんかった!?」


ヒレイ「マローはガキの頃野犬に育てられたらしくてな。心が人と犬の間を行ったり来たりしてるんだ。今は犬の成分が強いから人の言葉は理解できねぇみてぇだ。ケツ嗅いでたのもその影響だな。ほら、息づかいなんか犬そのものだろ?」


マロー「ヘェッ、ヘェッ、ヘェッ」


メガネ(いや、犬っていうか変質者やん!)


ヒレイ「マローのポジションは番犬。犬並みの嗅覚と人間の頭脳を駆使して見張りから人探しまでなんでもこなすぜ」


メガネ「は、はあ」


マロー「ヘェッ、ヘェッ、ヘェッ」


ヒレイ「ハツはサイキッカー、ブレンはメカニックだ。俺は隊長代理をやらせてもらってる」


メガネ「隊長……代理?本物の隊長が別におるんか?」


ヒレイ「いや、そうじゃねぇ。本来なら最年長のブレンが隊長になるべきなんだ。ああ見えてアイツはめちゃくちゃ能力が高いし、特にメカニックとしての技術力はジパングでも1、2を争うレベルだろう。年長者かつ有能な人間が人の上に立つのは道理だ。ただ、引っ込み思案が過ぎるところがあってな。隊長になるのを強く嫌がったんだ。ゆくゆくは覚悟決めて隊長やってもらうべきなんだが、その覚悟が決まるまでの繋ぎってことで俺が隊長代理やってるのさ」


メガネ「……んん?ちょっと待って」


ヒレイ「どうした?」


メガネ「最年長ってブレンさん?ハツさんではなく?」


ヒレイ「ブレンだぞ。アイツは今年で26だ」


メガネ「嘘っ!?あんな中学生……下手したら小学生くらいに見えるのに!?」


ヒレイ「ハツはむしろ最年少だ。この前20になったばかりだからな」


メガネ「えーッ!?40手前の未亡人みたいな見た目なのに!?20であのフェロモンと色気は無理があるやろ!?せめて20代後半ならともかく……」


ヒレイ「ま、あいつは老け顔だからな」


マロー「おいヒレイ、耳落ちてたぞ」


メガネ「うわっ!喋った!!」


ヒレイ「ああ、どうりでさっきから聞こえづらかったのか」


ナレーション4「マローからカチューシャを受け取り、頭に装着するヒレイ。艶のある黒髪に白いウサ耳がよく映えるのであった。続く」

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