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第2話・海藻~ひじきの煮物~

ナレーション「壊滅した東部レジスタンス組織の敗残兵『ネクラ』と『メガネ』は中央地区の山林に拠点を作って潜伏し、正規軍の追跡から身を隠していた。敵兵の動向を窺うネクラにメガネが問いかける」


メガネ「なあ、アンタはこれからどうしたい?」


ネクラ「え?……お風呂入りたいです」


メガネ「……ちゃうわ。このまま逃亡生活続けてええんか、って話や」


ネクラ「……良くはないですよ。ただ逃げ回ってるだけじゃ埒が開かないですし。なんとかして敵を殺す方法を


メガネ「いや、ちゃうねん。敵と戦い続けてアンタは幸せになれるんか、って話やねん」


ネクラ「……」


メガネ「……」


ネクラ「……わかんないです」


メガネ「……ウチら、ぎょーさん敵、ハジいてきたやろ?……けど、あいつら死なんやん。……頭ハジいても……心臓ハジいても……どこハジいても生き返るバケモン相手に戦い続けても……勝ち目ない……気がすんねん。……今まで散々手ェ汚してきたけど、最近、戦うのとは別の生き方もあるんやないかって考えるんや」


ネクラ「……」


ナレーション「正規軍は鳥類からもたらされた医学によりあらゆる傷病を治療でき、老衰を除けば死者さえも完璧に蘇生可能である。その点、旧来の医療技術しか持たず、一方的に死傷者を出し続けるレジスタンスは確実に不利であった」


メガネ「……でな、話は変わるけど、組織の捕まった連中、どっかの施設に入れられてるって噂やねん。……処刑場かなんかかと思ったけど、よくよく探ってみたら、更生施設らしいんや。……で、今思い返してみると、組織の本部が襲撃された時も、敵の攻撃はガス弾とか閃光弾とかの非殺傷武器ばっかりやったやろ?……それ踏まえて考えるに、敵の目的はあくまでウチらを殺すことやなくて、捕まえて更生させることなんやないかって思うねん」


ネクラ「……」


メガネ「……あのさ……怒らんで聞いて欲しいんやけど…………アンタ、降伏する気、あらへん?」


ネクラ「……!バ


メガネ「いや、ゴメン。言いたいことはあると思うけど、先に釈明させてや。……そもそも、アンタが戦うことになった原因はウチやん?……まず、ウチがオカンの仇を取りたいって言うて……で、復讐のためにコウノトリブチ殺すって話になって……そしたら昔の生活に戻れるかもしれないし、カケルにも会えるかもしれないってなって……そしたら、アンタもコウノトリと戦いたいって言い出して……2人で一緒に組織に入った……みたいな流れやったやん?」


ネクラ「……」


ナレーション「補足。『カケル』とは、メガネの弟にして、ネクラの恋人である。メガネが高校の後輩のネクラを自宅に招き勉強会を開いた折、当時成績が悪かったメガネではネクラにアドバイスができず、代わりに成績優秀なカケルがネクラにアドバイスをしたのをきっかけに、2人は恋仲となったのであった」


メガネ「……せやから、あん時、ウチが話を振らなかったら、アンタが戦いに巻き込まれることはなかったんや。……ここまで巻き込んでしもて申し訳ないけど、今からアンタだけでも降伏して、戦いとは無縁な生活を送って欲しいねん」


ネクラ「……」


メガネ「……さっき言ったみたいに、捕まった後は施設送りになるかもしれへんけど、噂通りなら、殺されることはないはずや。……そこでうまいことやり過ごして


ネクラ「もういいです。わかりました」


ナレーション「ネクラが立ち上がる」


ネクラ「メガネさんが降伏をしろと言うなら……悪いですが、今後、戦いは私1人でやらせてもらいます。今までありがとうございました」


メガネ「!?」


ナレーション「拠点を去ろうとするネクラ。慌てて引き止めるメガネ」


メガネ「なんでや!?話聞いとらんかったんか!?アンタ、これ以上戦い続けて惨めな思いする必要ないんやで!?」


ネクラ「……」


ナレーション「ネクラが足元に視線を落とす。縋りつくように見上げるメガネと目が合った」


メガネ「【ドキッ】」


ネクラ「……メガネさん、コウノトリをブチ殺して昔の生活を取り戻すって言いましたよね?あれは嘘だったんですか?」


メガネ「……いや、あれはなんて言うか……希望的観測や。……あん時、アンタ、あまりにも憔悴しとって、目ぇ離したら身投げでもしそうに見えたから、少しでも生きる希望持ってくれたらええと思って言うたことなんや。……あん時はいい加減なこと言ってすまんかった」


ネクラ「…………そうですね。……確かにあの時、私、どうやって死ぬか、考えてました」


メガネ「!」


ネクラ「……生きてる間、二度とカケルちゃんに会えないなら、あの世で会える可能性に賭けて、いっそ死んだ方がマシかな……なんて思ってました」


メガネ「……」


ネクラ「でも、メガネさんの話を聞いて、思い直したんです。希望的観測のお陰……もなくはないですけど、それ以上に、お母さんの仇を討つって話……。あの話があったから、まだ死ぬべきじゃないって思えたんです」


メガネ「オカンの話……?」


ナレーション「以下、()()である」


***


ショウ「メシ何?」


ハン「ひじきっス」


***


ナレーション「以上、()()であった」


ネクラ「お母さんが亡くなる時、お父さんや弟さんに会えなかったのは、紛れもなくコウノトリのせいじゃないですか。死に際にお別れする機会すら奪われた理不尽への怒り……とでも言うんでしょうか……。あの時、メガネさんには確かに怒りがありました」


メガネ「……」


ネクラ「で、私、思ったんです。『怒っていいんだ』って。カケルちゃんとお別れする機会もなく離ればなれにされたのは理不尽だし、それに対して怒っていいんだって思えたんです。そういう理不尽で人に不幸を強いるコウノトリに一矢報いるまで、絶対死なないって心に決めました」


メガネ「……」


ネクラ「……だから、私にとって降伏は生きるための怒りを捨てることなんです。……私を死なせたくないと思ってくれるなら、もう降伏しろなんて言わないでください」


メガネ「……ゴメン。二度と言わへん」


ナレーション「腰を下ろし、拠点に留まるネクラ。今はただ敗走するばかりだが、バイタリティは枯れず、確かなる怒気がそこにはあった。次回、『コウノトリの野望』第3話に続く!」

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