プロローグ・もりそば
ショウ「メシ何?」
ハン「もりそばっス」
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ナレーション「人類が鳥類に敗北した『大宮戦争』から5年。人類技術の約3割がロストテクノロジーと化した一方、全く新しい鳥類技術がもたらされ、人々の暮らしぶりは混沌を極めていた。亡きエアコンの代わりにうちわを扇ぎ暑さを凌ぐ傍ら、携帯式の蛇口を鞄から取り出し、異空間を通り流れ出る水道水で喉の乾きを潤す……といった具合である」
ショウ「いただきます」
ハン「いただきまっス」
ナレーション「だが、生活様式の変化などは【ズルルルルルッ】、それどころではない大事件が人類には起こっていた。男女の断絶である。【ズズッ】、人類は『上位コウノトリ』の管理下に置かれ、男は男の世界、女は女の世界に住むよう分断された。上位コウノトリの大義名分は性別による格差社会の【ズゾゾゾゾゾゾ】、事実上、有性生殖の否定である」
ショウ「【モグモグ】」
ハン「うまいっスか?」
ショウ「うん」
ハン「いっぱいあるんで好きなだけ食べていいっスよ」
ショウ「うん」
ナレーション「子孫を残す手段を絶たれた人類は為す術なく滅亡【ズッズッズズズズ】、なんと、鳥類の介入によって人々は同性間でも子を成すことができるようになり、結果、人口が減ることはなく、それどころか増加の一途を辿るのであった」
ショウ「【モグモグ】……ワサビちょーだい」
ハン「【ズルルルル】……ほい」
ナレーション「この鳥類から与えられた新たな文明と生殖方法が『加護』と呼ばれるものである。激変してゆく戦後の情勢下、【ゲホッ!】加護を受け入れ、逞しく暮らしていた。いや、むしろ、【ゲホッゲホッゲホッゲホッ】。生きるために未知の新技術を活用し、同性と寄り添うことを選択【オエッホ!】。ベビーブームで各地の集落に子供が産まれ、家族の光景が見られるようになった。平和な時代が始まりつつあった」
ハン「あーもう何やってんスか」
ショウ「か゛ら゛い゛~」
ハン「ワサビ入れすぎなんスよ。薬味は欲張るもんじゃないっス」
ショウ「は゛な゛に゛そ゛は゛は゛い゛っ゛た゛」
ハン「ほら鼻かんでください」
ナレーション「だが、そんな新時代の中、コウノトリの支配を否定した者たちがいる。恋人や家族と引き裂かれた【ズビッ】、あるいは昔の戦場に【ズビビ】ままの【ズズッ】、はたまた【ズビビビビビビ】、エトセトラ。体制と相容れない存在が水面下で暗躍し、密かに戦いを続けていた。この物語は、信念と確執に終止符を打たんとする、女たちの物語である!」
ショウ「……そばやだ。もういらない」
ハン「え」
ショウ「ごちそうさま……」
ハン「……」
ハン「……どーしよ、このそばの山」