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本日、遺書が届きました  作者: 森野くま
9/12

お誘い





休日が終わるのはあっという間だ。そして、あっという間に大学が始まる。






僕の通う大学は、アパートから徒歩10分圏内にある電車に乗り、そのまま25分程揺られ乗り換える。そこからまた10分の所に位置する。







つまり、アパートから遠いということだ。なるべく同級の者がいない所にしたかった、理由はそれだけだ。でも、僕のことを覚えている人なんて多分誰もいないと思うので、ここまでするのはさすがに自意識過剰かもしれないが。






大学には授業開始の30分前に着くようにしている。方向音痴なので万が一迷っても焦らない時間を設定している。そして、大学に着いて余裕の出来た時間で読書をする。すっかりこれが日課だ。






この日もいつもと同じように読書をしていた。同じ本を1週間かけて少しずつ読む。これが毎日の楽しみ。ただ1ついつもと違うのは”遺書”と書かれた手紙を本の栞代わりにしている事だ。いつか開ける心構えが出来たらこっそり開こうかと思っているからだ。それが、場所が学校であれ、だ。






そして外がガヤガヤしてきた。またか、と半ば諦めている。それは、中心の男率いる6人組のグループの登校だ。男女の比率は男3に女3だ。毎日うるさいったらありゃしない。はぁと深めのため息を彼らに聞こえぬよう息を殺しつく。






声が行き交う中なんとか意識を物語の世界に飛ばし、外界から遮断する。講義があと20分後に始まる。部屋を1回出て静かな所で読書でもしようかと考えたが、こんな微妙な待ち時間に部屋を出ていくのもおかしいと思われそうで、窓際の端っこの席から動かず仕方なく読書を続けた。






それにしても、コミュニケーション能力に長けた人はどこに居ても目立つなとチラッと目を留める。そうこうしていると講義が始まった。読書の本を机の片隅に置き白板に神経を研ぎ澄ます。







90分間の講義が終わり次の講義まで少し時間があるとスマホに目を移しながら机の書類をまとめる。今日はプリントが多く配られたのですっかり机の上が乱雑だ。ひとまとめにかき集め席を立ち移動を開始し始めた時だった。後ろから声が聞こえたのは。







「なあ!あれ?…聞こえてない?…あのさ!日坂くん」







え?聞き間違いか?僕の名前だ。






ピタッと足を止め、僕は自分の首がもげるんじゃないかと思うくらい90度ぐるっと後ろを向いた。驚いた。この大学に僕の名前を知る者が先生以外にいることに本当に驚いたのだ。







そして、何より驚いたのは僕の名前を呼んだ人物が6人組グループのいつも輪の中心にいる男だったからだ。







「え、何か?」








「これ、本。日坂くんのじゃないの?机の端に置いてあったんだけど…」







彼は少しだけ距離の離れた所から本を持ち上げて、ヒラッとこちらに手を振る。







やべ!こんな日に限って本を机の上に置きっぱなしにしてしまうし、何より"遺書"を挟んでる。








「あ、そう!僕の。ありがとう」







「そう、なら良かった」








本を受け取り、プリントで両手いっぱいの手でなんとかトートバッグに仕舞う。








「じゃあ。本当にありがとう」







「ん、いいえ」








彼に礼を言い、立ち去ろうとした時だった。彼が有り得ない提案をしてきたのは。








「あのさ!ファミレスのアルバイト興味ない?!」








まさか…まさかだけど、この僕に言っているのではあるまいな?僕は耳を疑いながら







「は?」






と情けない返事しか出来なかったのだった。





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