お邪魔します
あれからしばらく経って。
染とお昼ご飯を食べる日々を当たり前だと思えてきた頃のこと。染から提案があった。
「あのさ、良ければ俺のバイト先来てみない?」
「へぁ?」
自分から何とも情けない声が出た。驚きのあまりか、箸で上手くすくい上げられなかった好物の卵焼きがご飯の上を何回か跳ね、そこで落ち着いた。
「染のバイト先に???ぼ…俺まだアルバイトの話受け入れた訳じゃないのに?」
「いや、まあそうだけどさ(笑)雰囲気だけでも知って貰えたらなーと思って」
なるほど。それは新しい。これが部屋探しという名目であれば、【内見】に近いなと思った。
「……んー、まあ暇だからいいけど。ちなみに、何屋さんだっけ?」
※訂正。この男【いつも暇】である。
「!まじか!ありがとうな!古民家イタリアンカフェかな!」
染は目を見開いて、ただでさえ元々綺麗な二重をこれでもかと更に大きくしていた。
「へぇ〜。なんだかお洒落そうだな」
普段絶対に1人じゃ足を踏み入れない(もしくは踏み入れにくいというのもある)ジャンルのお店で働いていたのだと知った。
「お洒落!ハハッ!確かに!そうかも」
お洒落というワードが彼のツボにハマったのか、肩を震わせて笑ってる。イタリアンなんて言われたら見なくてもお洒落そうだと思ってしまうのだが…。
しばらくしてハッと思い出したかのように染はひと言言った。
「そういえばさ、気になっていたんだけど…。いつまで日坂は一人称"俺"なわけ?」
急に真面目な顔になるからビックリした。
「え」
ワンテンポ遅れての反応になった。バレてた。なんでなんで?!本当は一人称《僕》なのに俺を使っていたことに。別に悪気があった訳じゃない。ただ、なんとなく俺呼びの方が大人っぽいかなとか思っていたなんて恥ずかしくて言えない。
「いや、困らせたよな。ごめん。本当は、もっと早めに聞こうかなと思っていたんだけどタイミング見逃してさ。…別に、今更オイラでも僕ちゃんでもワイでも何でも変だとは思わないからさ、素で話して欲しいなーと思っただけで」
いやいや、、、
「さすがに、僕ちゃん呼びはしないぞ?」
「あ?やっぱり?」
よく、ぼ…って話し始めとかに言っていたから候補に入れちゃったよと、こちら側に聞こえる小声で染は話しながら顔を見合わせてお互い笑った。
なんだ。こんなに簡単なことだったんだ。変に友達に見栄なんか張らなくても良かったんだ。
この後本当の理由を言ってまた笑われたけど、お互い段々遠慮という壁がなくなってきていることが分かって、距離が縮まった気がした。
「はー!笑った笑った」
染はそう言うと、若干涙目になっている眼を擦った。
「だな。とりあえず、今日の放課後バイト先お邪魔します。と言っても、食べるための訪問だけど」
「確かに!?」
「いや、まさか気付いてなかったとか言わないよね?」
「気付いてなかったわ。普通に日坂を皆や店長に紹介しようかなーと」
「いや、それ親に彼女紹介する時と同じ流れじゃん!?」
自分自身はもちろん彼女がいた事がないので、そんな経験もちろん皆無だが。
「確かに〜!!!?」
そんなくだらない事でまた笑いあった。楽しいな。今が1番人生で楽しい瞬間だったらどうしようと思える程楽しかった。
いざ!放課後!




