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本日、遺書が届きました  作者: 森野くま
11/12

ふりをした






彼は言った。【また明日!】と。






そして、今現在。また明日どころか毎日僕を見つけると体の向きをぐるっと変えてこちらにやってくる。僕の平穏な日々が彼によってここ最近崩されかけている事態。







本当にしつこいったらありゃしない。日陰者の僕に縋るくらいそんなにバイトの人手が足りてないのだろうか。彼に毎日「何故僕を誘うのか」と聞いてもいい感じにはぐらかされる。おまけに毎日バイト先のうんちくや福利厚生などを聞かされているのでそろそろ暗記してきている。







あと、人生初のバイトをするならそのバイトをしてみてもいいかもしれないとまで思考がなってきていて危ない。







彼は、愛染(あいぜん)慶太と名乗った。







好きなように呼んでくれて良いと言ったので、名字と名前の真ん中の【染】を取って、彼を(ぜん)と呼ぶことにした。真ん中取られたの初めてだわ、何だそれって笑っていたけど。今まで友達という存在がいなかった僕には何だかあだ名で呼ぶという行為すら今はこそばゆい。








「染、何で最近昼俺と食べるの?」







「え」







染は、目を見開いて少し困ったような表情を見せた。サンドイッチを頬張りながら僕は回答を急かすことなく静かに待った。







染が僕に絡むようになってから、お昼ご飯を共にする機会が増えた。というのも、今まで僕は1人でも落ち着いて食べれるかつ人の目がそこまで届かない場所を選んでいつも食べていた。






目立つのが嫌なので、染を避けるためにお昼休憩の時間も隠れていたのに、暇なのかどこに行っても見つけてきては隣に座られる。そして、僕もそろそろ逃げ続けるのも忍びないと思うようになり、染のお誘いを受け入れ、なんやかんやで毎日お昼ご飯を一緒に食べる仲になり今に至る。








「んー、あいつらに言わないで欲しいんだけど…お前と居ると楽なの。それだけ、だよ」









「ふーん。そっか」








「そう」









『こんなつまらない何の取り柄も無い僕と一緒に食べてくれてありがとう』だなんてそんなお礼の言葉を返すのも何だか恥ずかしくて、素っ気ない返事になってしまった。








僕は初めてこの時身内以外の誰かに自分の存在意義を認めて貰えたような気がして、少し、いや、凄く嬉しかった。そのまま僕らは再度各自用意したお昼ご飯を食べることに集中したのだった。





_________________________________________







最初は本当に気まぐれだった。








講義も中盤に差し掛かってきて急に眠気が来て、いつも隣で講義を一緒に受けるメンバーももれなく睡魔にやられ既に机にお世話になっていた、そんな日だった。








周りに雑談が出来るそんな人は今いなくて、人間観察でもしようかと教室をぐるっと見回した。丁度、順番的に講義で当てられる人物でも観察しようと決めた。







講師 :〖◯◯さん。この問題について分かる?〗






◯◯ :【分かりません】





講師 : 〖そうか。聞き方が分かりにくかったかもしれないな。これこれこうしてこの出来事は成り立った。ここまでは分かるな?〗






◯◯ :【はい】







講師 :〖なら、少し考えると…?答えは?〗







◯◯と呼ばれた奴はうーんと暫く考えてるように下を見つめると、また講師の方に目を移し、そして再度





◯◯ :【分かりません】






と言ったのだった。これには先生もガクッと肩を落とし、そして自分の眠気も流石に少しずつ覚めてきた。







講師 :〖よしっ、日坂さんは座っていい。次、△△さん。答えて下さい〗








結局、〈日坂〉と呼ばれた奴は最後まで答えられず大人しく座った。その後指名された△△さんは、当てられて数秒としない内に答えを言い当てていた。







先程の奴の方を見ると、平然と教科書の下で何やら小説を広げて読んでいたのだ!確かに、これなら講義の内容聞いていなくて質問に答えられないことに納得だ。







俺は目を大きくして思わず見てしまった。あんな«真面目そうに見える人»でも、勉強しているフリをすることに驚いたのだ。







ずっと、俺は幼い頃から【フリ】をしてきた。






ムカつくことを言われても平気なフリをした。

面白くなくても笑うフリをした。

他の人と一緒になって人を見下すフリをした。

自分にとって苦手なやつと仲良くするフリをした。

苦手なものを好きなフリをした。

etc…。


フリをしたフリをした振りをした不利をしたふりをしたフリヲシタフリヲシタフリヲシタ、フリをした。






段々自分が分からなくなった。感情が失われていくような感覚になる。でも、何かフリをしていれば自分が傷つくことも面倒臭い事に巻き込まれることもなく穏便に済むと思っていたから。でも、ずっとフリをせずとも素の自分で誰かと仲良くなりたいと思っていた。素の俺はつまらないだろうけど、この人なら素の自分でいても良いかと思える人に出会いたいというのも本心で。








日坂、か。





あれから何度か学内で見かけてもずっと1人行動だ。どうやら行動を一緒に出来る友達はいないようだった。俺とは違って全てがフリではないタイプのようで、こっちから声を掛けてもきっと俺のことなんて知らないし興味無いと思うから、俺にとっては一緒に居ても楽だろうと思った。初めて自分から仲良くなりたいと思った。








きっかけが無かった。






だから、日坂の忘れ物を見つけた時は声を掛けるのにまず緊張した。自分の心拍数が上がるのにビックリした。バイト募集なんて今うちのバイト先してないんだけど、話すための接点を作りたくて勝手に勧誘している。これは本当に危機感を感じているので近々店長に話す予定だ。日坂が逃げるので人探しが上手くなった。自分ってこんなに人に執着するタイプなのだと驚いた。あだ名で呼ばれるのは初めてで嬉しかった。変な所取られて"染"だけど(笑)何だそれって思ったし、声に出てた。自分で好きなように呼んでくれて良いと言ったくせに。








自分の日常の小さな変化に今はおかしい。感情が失われていく感じはもう、ない。









そして、俺は一歩踏み出して、言う。








『これ、本。日坂くんのじゃないの?机の端に置いてあったんだけど…」』







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