悪役令嬢に転生したみたいですが、最推しである婚約者様のために婚約破棄されてみせます!!
今年7歳となる私、エレノアは本日、婚約者となる予定の人物との交流会、つまり顔見合せがある。そのため、お相手の家へ馬車で向かっている途中だ。お相手は公爵子息。なんでも8歳という年齢にして神童と名高い天才令息なんだとか。父親同士の交流が深く、私は伯爵令嬢、向こうは公爵子息ということで身分的にもさして問題ないということで婚約の話が上がったらしい。
「お嬢様、公爵邸に着きました」
「わかったわ」
長年、伯爵家に仕えてくれている従者に支えられ、私は馬車から降りた。ちなみにお父様は仕事が急遽入ってしまったということで本日の顔見合せには参加しない。
「お待ちしておりました。旦那様方は応接室でお待ちです」
「わかりました。お父様のことはごぞんじかもしれませんが本日は私だけの訪問です」
「心得ております。ではこちらへ、応接室へご案内致します」
公爵邸に仕えている執事に案内されて、私は公爵邸にある応接室へと向かった。中は広く、伯爵邸とは比べ物にならないくらい豪華だ。よく分からない絵画に彫像、壷などさすが公爵邸といった感じだ。しかしどこかで見たことがある気がする。私がここに来たのは今日が初めてだというのに。
「こちらに旦那様方がいらっしゃいます」
「案内をありがとうございました」
「いいえ、私は失礼させていただきます」
執事は私を案内すると、今来た道を戻って行った。私は従者と共に扉を小さくノックして中に入る。応接室には向かいあわせのソファーが2つあり、テーブルを挟んでそれぞれ置かれている。そして二つあるうちの一つに二人が座っていた。
「おまねきいただき、ありがとうございます。私はエレノア・ペイズリーです」
「よく来てくれたね、小さなレディ。私は公爵家当主のスチュアートで、レディの父親、ペイズリー伯爵の友人だ」
「はい、公爵さまのことはお父様から聞いています。大切なお友達だと」
「そうか、それは良かった」
お父様と同じ年齢くらいのスチュアートさまはとても優しそうな方だ。私は頭を撫でられ、お父様みたいと思った。そこに銀髪を持った小さな少年が視界に映る。初めて会うのに初めて会った気がしなかった。
「これが私の息子のルークだ。ルーク、レディに挨拶しなさい」
「分かりました。……初めまして、ルーク・スティーヴィーです。よろしく」
「!!!?!!」
ハキハキとした喋りに自己紹介をされ、私は気づいた。自分が乙女ゲームの世界に転生していることを。前世の私はルークさまを推していたことを。だからルークさまを見たときに妙な既視感を感じていたのだ。挨拶を忘れ、ぼうっとルークさまを見つめている私に後ろから従者が声をかける。
「お嬢様!挨拶をしませんと!」
「あっ、し、失礼しました!私はエレノア・ペイズリーですっ。よろしくお願いします」
慌てて挨拶した私に二人は気を悪くすることなく、スチュアートさまは温室を案内してあげなさいとルークさまに言った。ルークさまは快く引き受けてくれて、私はルークさまに連れられて公爵家自慢の温室へと足を運んだ。
「うわぁっ!!おおきいです!」
温室はガラス張りだが外から中の様子が見えることがなく、プライバシーは守られるようになっている。私とルークさまだけが温室へと入り、残りは外で待っててもらうことにした。
「すごい……!色んなお花が咲いてます!」
「喜んでもらえたようで何よりです。危険な花はここにはありませんが一応僕から離れないでください」
そうしてぎゅっと手を握られ、私は思わず悲鳴を出しそうになった。そこは根性で耐えたが、ルークさまの笑顔と声に私は昇天しそうだった。むしろ昇天しなかった私を誰か褒めて欲しい!!
「これは''幸福の木''といって観葉植物の仲間です。どこにでもある木ではありますが、この植物は10年に一度だけ美しい花を咲かすのです。僕はまだ見た事がありませんが」
「そうなんですか。見てみたいですね。……あっ、この花きれい……!」
「それはミドルミスト・レッドという名前でツバキの仲間です。僕はこの花を気に入っているんですよ」
「そ、そうなんですか……!」
ミドルミスト・レッドを見るためにしゃがみ込んだ私に同じくしてルークさまはしゃがみ込んできた。先程までよりも近い距離にルークさまの顔があって、心臓がドキリとする。
────ああ、このルークさまのご尊顔を何かにとどめておきたい……!
あまりの尊さに私は顔を覆ってしまいたかったが、それではルークさまが見れないと思い、オタクの心で耐えきった。
ルークさまに温室内を案内してもらい、温室を出た私たちはそのまま公爵のところに戻り、婚約してもいいという趣旨を伝えた。公爵は嬉しそうに、婚約証明書を取りだして、私たちに署名させた。
「これで君たちは婚約者同士だ。仲良く過ごすんだよ」
「「わかりました」」
婚約も無事済んだということで、私は伯爵邸に帰ることになった。
* * * * * * * * *
伯爵邸に帰ると、すぐに私は私室へと直行した。私室に鍵をかけ、誰もいないことを確認すると、私室にある天蓋付きの大きなベッドに私は勢いよく飛び乗った。そしてシーツにくるまり、大声で叫ぶ。
「幼少期の、最推しが、かわいすぎる!!!」
私は興奮状態が収まらず、そのままオタクの本能で叫び続ける。
「何あれかわいすぎだよ!あのときのルークさまの顔がもう、尊いっ!!カメラがあれば連写してるよ!!やっぱり課金しまくって全スチルを見たかいがあるものよ!」
そう、私は乙女ゲームの世界に転生した。それもルークさまの婚約者であり、正ヒロインとルークさまの恋路を邪魔する悪役令嬢に。
ゲームの中のエレノアはルークさまを深く愛していて、近寄ってくる女をいかなる手段を用いて片っ端から排除していく、完璧な悪役令嬢だった。ルークさまに出会う前のエレノアはそれなりに優秀で、悪役令嬢となるだけあって美しい外見をしていたが、ルークさまに出会い、ルークさまに恋してしまった。そこからがエレノアの破滅への第一歩だった。
ルークさまに美しく着飾る自分を見てもらいたいと、ドレスや宝石を買い漁り、散財を繰り返したエレノアだったが、エレノアが散財を繰り返すほどルークさまの心は離れていく。
振り向いてもらえないエレノアは身近な侍女に手を上げるようになり、エレノアの醜さは増していく。それからというもの、エレノアは鬱憤を晴らすために侍女に手を上げ、それを聞いたルークさまはよりエレノアを嫌悪するようになった。まさに負の連鎖だ。
そんな中、とある夜会でルークさまは正ヒロインであるミアと出会う。可愛らしく愛嬌のあるミアにルークさまは一目で気に入るのだ。夜会に行く度にミアと話し、楽しそうに笑うルークさまを見て何もしないエレノアでは無い。
エレノアはことある事にミアをいじめ倒した。しかしミアは虐められても挫けることなく前を向き続けた。ルークさまはそんなミアを見て、守ってあげたい、そばにいて支えてあげたいと思うようになる。ゲームのエレノアは知らなかったのだ。恋とは障害があるからこそ燃え上がるのだと。
やがてミアとルークさまはお互いの気持ちを知ったが、エレノアはそんなふたりの仲を許せるはずもなく、挙句の果てには殺そうとしたのだ。ルークさまはその事を知り、エレノアと婚約破棄をして、ミアと幸せに暮らす。
それが私が覚えている乙女ゲームの大まかな記憶だ。私は16歳で死んでしまったがそれまではずっとこのゲームをやり続けていた。
友達はいたが恋人はいなく、乙女ゲームをすることを生きがいとしていた。恋をしたいと考えたことはなく、むしろゲームの中のルーク&ミアペアの恋仲を見ていたい!と思うほどの重度のオタクだった。全スチルを見るために課金をしまくり、新たに見たスチルを見て尊い!と叫ぶ毎日。
「せっかく乙女ゲームの世界に転生したんだから、ルークさまに嫌われずにこのまま婚約していたい!……とか思うわけない!むしろ婚約破棄されてルークさまとミアの恋をモブのひとりとして見ていたい!最推しだからこそ、ルークさまの幸せを願うのよ!」
ゲームの中のエレノアはルークさまを恋愛対象としてみていたが、今のエレノアにとって、ルークさまは崇拝対象!そんな方に邪な感情を抱くわけが無い!いや、推している時点で邪な感情を抱いているのかもしれないけど!!?
「とにかく、17歳になった時に婚約破棄される予定だからそれまでに悪役令嬢らしく振舞っていきましょう!全ては最推しの幸せのために!!そして、最推しの恋をモブとして眺め続けるために!!!」
こうして私は''最推しに婚約破棄されよう!!''を実行しようとした。
* * * * * * * *
前世の記憶を取り戻し、''最推しに婚約破棄されよう!!''を実行し始めて10年が経った。私は今日、乙女ゲームでルークさまから婚約破棄される予定の夜会に来ている。
「10年は長かったけれど、3年前からルークさまとミアの絡みが見れたからプラマイゼロ的な感じでOKだよね〜。早く婚約破棄されて、もっと真近で眺めてたい!!」
10年前、''最推しに婚約破棄されよう!!''を実行してから私は完璧な悪役令嬢になるために勉強を頑張った。悪役令嬢というのは元のスペックが高いのか記憶力が良く、何もしても人並み以上にこなすことができた。
ただそれ以上に推しのいる世界を知り尽くしたい!という思いが強く、あらゆる分野に手を出していき、今では周辺諸国の言葉だけでなく、マイナーな国の言葉も分かるようになった。淑女のマナーでは悪役令嬢らしく、堂々とした振る舞いを身につけ、悪役令嬢らしい意地悪な笑顔も習得した。
「ゲームでは知らなかったけど、ミアって男爵令嬢だったからマナーとか知識とか少し物足りなかったのよね。まぁそこは悪役令嬢である私の役目として、ミアを散々いじめたけど。でも、ゲームのエレノアと違って、あんなにかわいいミアを殺そうとかはできなかったのよね。それにミアに傷がひとつでもついたらルークさまもお怒りになるだろうけど、何より私が許せない!」
だから私ではなく他の令嬢たちがミアを暴漢に襲われるように仕向けたり、猛毒の虫で殺そうとした事を知った時はマジで怒った。あらゆる権力を使って主犯の令嬢たちを探し出し、罪を償わせた。
「今日はルークさまのエスコートを辞退したから、何かあるんじゃないかっていう視線がすごいけど、その通り!もうそろそろルークさまにエスコートされてミアとルークさまがこの会場に着く頃のはず!ミアがどんなドレスを着てくるのか楽しみだよ!お揃いの色なのかな!?」
気になりすぎてソワソワしていると、会場の扉が開いた。そこには私が望んだ通りの、乙女ゲームそのままのスチルで2人が入ってきた。2人は私を見つけると私の方に向かってきた。ようやく婚約破棄か!と心を踊らせていると、なぜかルークさま&ミアペアと私の間に顔も名前も知らない令息たちが出てきた。乙女ゲームと違うと「??」状態になっていると、令息たちは口々に言ったのだ。
「貴方のミアへと仕打ちは知っています。自分のした事を大人しく白状するなら、私たちからミアに上手く言って差し上げましょう」
「そうだぞ!俺たちは知っているんだ!可憐なミアにお前が嫉妬して酷い目にあわせていることを!」
「え、え〜??」
なにこれどういう状況?ルークさまとミアなんて顔を真っ青にしてるし、私は意味がわからないしで場が混沌となっていく。そもそもなんで貴方が勝手にそんなことをしているの!?乙女ゲームのストーリーを最後の最後で綺麗にぶち壊してくれて!!これを楽しみに日々頑張って来たというのに!
「あなた方、なんてことしてくれたの!?余計なことをして私の夢をぶち壊すなんていい度胸してるじゃない。それに言わせてもらうけど、あなた方がここでしゃしゃり出てくる必要性なんて1ミリもない。ミアが相談をあなた方にしたのなら分かるけれど見てご覧なさい、ミアの顔を。全く知らないという顔をしているわよ?大方、私が懲らしめた令嬢たちに色々吹き込まれてこんなことを仕出かしたのかもしれないけれど、許さないわよ。めちゃくちゃにしてくれたんだもの。……ディー、この令息たちの家を調べて。うちの事業に携わっている人達なら事業から手を引くように言いなさい。うちに見放されたらどうなるか思い知るといいわ」
「畏まりました」
そ、そんなっ……!って落ち崩れる姿を見たけど自業自得よ。せめて今日じゃなければもう少し優しめのバツで許してあげたのに。まあいいわ。とりあえず、目の前の邪魔者たちは片付けたから次はルークさまたちの番よ!
「あら、今日の夜会はおふたりで来たのですか?」
私はこのまま乙女ゲームのセリフを言い続けたら、いずれ婚約破棄される。それを狙って、''最推しに婚約破棄されよう!!''は幕を閉じるのよ!
「いくらエスコートを辞退したとはいえ、婚約者がいるのに他の令嬢をエスコートするなんていかがなものかしら?ルークさま」
さぁ、ここで乙女ゲームでは『黙れ、ミアに何をしていたか、知らぬ俺ではない。他人を貶し、暴力を振るうことしか出来ない女と婚約なんてしていられない。俺は今日この時をもってエレノア・ペイズリー、貴様との婚約を破棄する!』というセリフを吐いていたから、ルークさまもそれに習って婚約破棄してちょうだいな!
「……エレノアの言う通りだ。俺の考えが足りなかった」
「違うんです、エレノアさま!私のエスコートしてくれるはずだった人が急遽来られなくなって困っていたところを助けて頂いたのです!他意はありません!」
ん?……ん〜?何か違う気がする。そこは今まで私がしてきたことを全て隠さず話す場面のはず……。
「いやそんなことよりもここはルークさまに婚約破棄をされる場のはずなのに……」
「何を言ってるんだ、エレノア。俺はお前と婚約破棄するつもりなど毛頭ない」
「そうですよ!それになんの理由でそんなことになるんですか!私が許しませんよ!」
「え、それは私が今までミアを虐めてたということ……?」
「まさかさっきの変な人たちの言葉を信じているんですか!?私はエレノア様に感謝しているというのに!!!」
???ミアを虐めていたのだから私が断罪されることはあっても感謝される事なんてないのに。何か勘違いをしているの?
「で、でも散々ミアに酷いことを……」
「確かにエレノア様の指導はどれも厳しいものでしたが、それは全て私のためでした!だからこうして誰にも後ろ指を刺されることなくここに立っていられるんです!」
「む、鞭で叩いたことも……」
「ありましたね、机を!私ができないと机を鞭で叩いていましたが、直接私を叩いたことなんてなかったじゃないですか!それに叩いた下には猛毒の虫がいましたし!」
それは誰かの令嬢がミアを殺そうと猛毒の虫を部屋に入れてたのよね。それに気づいて鞭でバシッと潰しちゃったけど。
「男爵家の生まれでマナーが身についていなかった私にエレノア様は根気強く付き合ってくれたではありませんか!!それなのにさっきの人達は知ったようにある事ないこと言ってくれて、まじで許すまじ!!」
だってルークさまとミアが結婚するならマナーができてないとミアが苦労すると思って。せっかく最推しが幸せになろうとしてるのにミアのマナーのせいで幸せになるまでの道のりが長くなるなんて耐えたれないじゃない。
けど、まだ大丈夫。婚約破棄の理由はまだあるわ。
「……けれど私は実家の侍女たちを不当に解雇したり、仕事を奪ったりしました。そんな私はルークさまの婚約者に相応しくないのでは?」
「それについては知っている」
「では……!!」
「しかしそれは君が話を盛っているだけだ」
「え……?」
「不当に解雇したと言うがその侍女は実家の両親のために暇を出しただけであってお前が不当に解雇した訳では無い。それにその侍女のためにこっそりと治療費を渡していたのを知っている。また仕事を奪ったと言うが、その侍女が手を怪我しており、代わりに仕事をやっていただけだろう。伯爵令嬢であるお前に仕事をさせるなんて申し訳なかったが嬉しかったと言っていたぞ?」
「っ……」
なんでそんなことまで知っているの!!?私とその侍女しか知らないことなのに!このままでは、このままではっ!
「最推しの幸せが……!!ミアとイチャイチャするのをモブのひとりとして眺めていたかったのに……!」
「……お前は俺が好きではないのか?そこまでして俺との婚約を破棄したいだなんて」
「いいえ、もちろん好きですよ!最推しなんだから!」
「最推し……?」
「ええ!ルークさまは私の最推し!最推しを嫌いになるはずなんてないわ。けれど安心して!ルークさまを恋愛対象として見ているのではなく、崇拝対象として見ていますから!」
「そ、それは……俺に恋をしているわけではない、と?」
「そんな邪な感情を抱くわけがありませんよ!」
なぜか無言で落ち崩れてしまったけど、そんなルークさまの表情も好き!そしてそんなルークさまに寄り添うミア!なんて素敵なの。このまま空気として溶け込みたい……!
「起きてください!私と約束したでしょ!エレノア様とルークさまの結婚式を私に見せてくれるって!エレノア様を幸せにするって言ってたでしょ!早くエレノア様をこちらに引き戻してくださいよ!」
「……はっ!そうだったな」
ふたりがコショコショと内緒話をしているけど良い!ああっ、カメラが欲しい!早く婚約破棄されて影から2人を見守って、ゲームでは描かれてなかった二人の子供を拝みたい!なんて素敵な人生なの!
「さぁ!婚約破棄をしてください!」
「いやだ、俺はお前と婚約破棄なんかしない」
「??聞き間違いかしら?ええ、きっと聞き間違いね!」
「聞き間違いじゃない。俺はお前を絶対に離さない。お前が俺をどう思っていようと関係ない。俺に惚れさせるだけだ」
「ひぇっ!」
ルークさまが、ルークさまが!跪いて私の指先にキ、キスを!
「覚悟しておけ。俺を恋愛対象として見させ直してやる、エレノア」
「ひっ、最推しの幸せを願っていただけなのに……!なんで、なんでミアじゃなくてこっちに愛が向かっているの〜!」
こんなの乙女ゲームにはなかったのに……!!最推しが本気で私を堕としにきてるよ!こんなの、こんなの!心が持たないよ……!
「ふふっ、ルークさま。お約束の通り、エレノア様とルークさまの子供の乳母を私にさせてくださいね」
「ああ、もちろんだ。君のおかげでエレノアの無罪が皆に知らせることができた」
「大好きなエレノア様のためですから」
「ミ、ミア?ルークさまも、どういう……。まさか、私の悪業が知られていないのは……!」
「悪業ではなく偉業をを広めておいたので安心してくださいね!」
「なんてことなの〜〜〜!!」
道理で社交界に出ても嫌な顔をされることなく、むしろ歓迎されているなんておかしいと思ってたのよ!
「エレノア、お前がどう思ってミアと俺を婚約させようとしたか知らないが、俺もあいつもお互いを好いていない」
「う、うそでしょ……」
「嘘では無い。だから初めからお前の企みは上手くいかなかった。……俺の幸せを願っているのなら、お前が俺を幸せにしてくれ」
周りから拍手歓声が湧き上がり、私の逃げ場はなくなった。
どうやら本当にミアたちのせいで私は悪役令嬢ではなくなっていた。むしろ下のものにも手を差し伸べ、悪を許さない心優しい令嬢へと印象は変わっていた。
あの夜会のあと、ルークさまは宣言通り、私を堕とすために隙あらばキスをし、抱きついてくる。そのせいで今では心臓が持ちそうにない。けれどひとつだけ言えることがある。
''出会った頃の心臓が持ちそうにない''と''今の心臓が持ちそうにない''は少しだけ意味が変わってきていると。
でも結局にして私の思っていた結末ではないけれど、最推しが幸せならそれでいいかなって思ってる。
「エレノア、好きだ」
「そうですね。私も恋愛対象としてルークさまのことを好きかもしれないです」
ほら。思ってた結末とは違うけどルークさまも幸せそうだし、ミアも私たちの仲を見て幸せそう。ここは乙女ゲームの世界ではあるけど、ここに生きている人達は皆ゲームとは違い、一人ひとり感情を持って行動している。
最推しと決めつけ、ルークさまたちを見ていなかった私は今度こそ、ルークさまたち本人を見て、幸せにしていこうと思ったのだ。
''最推しに婚約破棄されよう!!''は失敗に終わったけど、皆が今、幸せならそれでいい。
「やっぱりいい直します。ルークさまのことは最推しとして今も推していますが、ルーク・スティーヴィーという一人の人として私は貴方に恋をしていると」
私もゲームの通りに動く悪役令嬢ではなく、自分の意思で好きなことをやれているのだから幸せだ。




