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第5話 決意

左手前腕に刻まれた曼荼羅。どうやって隠そうか琥珀は悩んだ。いざ体を晒すことになれば転生者とバレてしまう。バレれば今後の人生肩身の狭い思いをする所か、最悪クラヴィスに殺されてしまう。


琥珀

「どうしたもんか…」


琥珀は裁縫針を召喚しようとしてみる。


琥珀

「…出ないか」


鉛筆、色鉛筆、ノート、糊、定規、消しゴム、ホッチキス、ハサミ、輪ゴム、画鋲。以上の物は自由に召喚出来るようにはなった。だが他のものはまだ出来た試しがない。


クラヴィス

「どうしたの?」


琥珀

「母さん。僕に裁縫を教えて欲しいんだ…。いいかな…?」


おもむろに琥珀は長袖を捲し立てる。


クラヴィス

「…まぁ、どうしたのこれ…」


赤の色鉛筆の粉を糊で解き、血糊のようなものを作った。曼荼羅に塗り付ければ痛々しい怪我を演出する。


琥珀

「こないだ転んじゃった所が痒くって…。掻きむしっちゃったんだ。だから掻かないように何かで覆えたらいいなぁって」


クラヴィス

「…わかったわ。それなら裁縫道具とカギ針、それと毛糸玉を買ってあげる。エルロックが覚えたいって言ったんだもの。ちゃんと教えてあげないとね」


琥珀はまず編み物を教えてもらう。手で輪っかを作り、輪っかに糸を通し、さらに輪が出来るようすればきゅっと引っ張る。どこかに引っ掛けるロープの様になる。出来た輪っかにカギ針を通し、糸を両サイドから引っ張り締める。そのまま親指と人差し指に掛けてあった糸をクロスするように通す。


琥珀

「…結構難しいね」


クラヴィス

「覚えたらちゃんと出来るわ。後は根気ね」


カギ針に輪っかを幾つも作っていく。ある程度輪っかを作れば先端の輪っかにもうひとつのカギ針を通す。琥珀はそこでゴチャッとなってしまう。


琥珀

「…くっ!」


クラヴィス

「慌てない慌てない♪」


一頻り編んでいけば何とか様になってきた。


自身の手に付けるサポーターを作る為に編み物に時間を費やす。琥珀は学校へ行く迄の間、編み物を一生懸命覚えて手に付けられるサポーターを大量に作った。





モルグリット

『何とか曼荼羅を隠す術を身につけた様ですね』


琥珀

『まぁ、何とか…。だが僕はもっと戦う術を学びたかった。戦闘があるとなっちゃこんな事をしていられない。モルグリットさん、あんたは魔法とか使えないのか…? 』


モルグリット

『魔法、使えますよ』


琥珀

『本当か…!?どうか僕に教えてくれませんか…?』


モルグリット

『心の中で敬語を使うのが上手くなりましたね。ですがそれは叶いません』


琥珀

『何故だ…? 教えることも出来ないのか?』


モルグリット

『焦らずとも学校で魔法を学ぶ機会があると思われます。私が琥珀さんに魔法を教えれば何故そんな知識があるのか疑われます。【あまりに強力な能力、卓越した知識は自身を苦しめる結果にもなり得るのです】』


琥珀

『…』


モルグリットの言う事は一理あるかもしれないと心の中で反芻する。チート能力が使える者。魔法を知っている者。あらゆる事を知りすぎている者。それは転生者と言う結論に達する恐れがある。

魔法は知らないとクラヴィスは言っていた。例えそれは本当のことだったとしても、事前に魔法の知識を与えれば転生者でなくとも吸血鬼との関連性を疑われる恐れがあるからかもしれない。力あるものは脅威になる。至極納得がいく。


琥珀

『…わかった。ならチート能力について教えて欲しいんだけど、この能力はこれ以上強くならないのか? 流石に文房具だけじゃあ心許ないというか…』


モルグリット

『チート能力は曼荼羅より来たりし能力です。つまり因果を拡張すればそれに応じて力が増す事になります』


琥珀

『…つまり転生者同士の戦闘は推奨されてるってことか…。だがそれは同時に』


モルグリット

『ええ。琥珀さんも狙われます。その世界の名前は【ファブロス・ケレトゥーラ】。伝説の生物がひしめく世界のスクロールです。有権者の転生者も多いでしょう。子供の頃からチート能力に目覚めている琥珀さんを狙って捕まえようとする輩も多いはずです』


琥珀

『…くっ! チート能力は大人になってから目覚めた方が良かったんじゃないか…? 学校で裸になる事もあるだろう…?』


モルグリット

『ええ勿論。ですので琥珀さんには曼荼羅を上手く隠す術を学んで頂きました。行き過ぎた力を持っていれば琥珀さんはきっと力に溺れるでしょう。イメージするのは常に最底辺の自分です。最も根底から敵を欺きやり過ごす姿勢を今のうちに身に付けるべきかと思われます』


琥珀

『…僕が力に溺れるだと…?』


ある光景がフラッシュバックする。


琥珀は現世で学校を徘徊していた。ある人物を追って防災機器の扉を破壊し斧を手に取った。そして顔にホールケーキをぶつけられて体勢を崩して転び、斧を奪われてしまった。奪われるだけならまだしも、この世界であんな体たらくを晒せば最悪死ぬ可能性も十分に考え得る。


琥珀

『…』


モルグリット

『何か心当たりがおありで?』


琥珀

『なんでもない。わかった。何とか転生者を倒して僕のチート能力を成長させる』


モルグリット

『ご理解頂けて幸いです。ご存知因果を集める方法は1つ。曼荼羅を破壊する事です。ナイフを突き立てても良いですし、例えば琥珀さんのように腕にある曼荼羅ごと切断しても構いません』


琥珀

『…せ、切断…?』


モルグリット

『はい。因果を失えば肉体は消滅します。転生者の運命ですね。また自分の割り当てられた世界図書館へ戻されるのではないでしょうか』


琥珀

『ナイフか…』


確か画鋲とハサミがあった。咄嗟に必要になれば曼荼羅を破壊することは可能だろう。


琥珀

『7つ集めればモルグリットさんの元へ戻してくれるのか?』


モルグリット

『それはおまかせします。戻りたければ戻ってもいいですし、そこで余生を過ごしたければ過ごして構いません。7つ集めればそれ以上チート能力は鍛えられませんし、一旦寝て頂いて夢の中でお会いしましょう』


琥珀

『…わかった。明日は5歳の誕生日だ。こうやって話し合えるのは今後夢の中って事だな』


モルグリット

『そうですね。5歳から徐々に私の声が届きにくくなっていきます。ですがいよいよ学校へ行って魔法や剣、その国の歴史やモンスターについて学ぶ事が出来るというわけです。長かったですね』


琥珀

『…まだ時間が欲しいくらいさ。色々言ったが世話になった。ありがとう』


モルグリット

『いえいえ。琥珀さんの物語はまだこれからなんですから。何とか生き延びて現世へ帰ってください? それが目的なんでしょう? 決意は固めましたか?』


琥珀

『…決意…? 当たり前だろ。僕は必ず現世に帰るんだ。そしてアイツに復讐する。それが自分の魂に刻んだ戒めなんだよ…!』


モルグリット

『結構です。決意さえあれば何とか戦い抜く事が出来るでしょう。ではその決意が揺らがぬよう、頑張ってくださいね』


琥珀は顔を顰めればまたサポーター作りに取り掛かる。この世界の事を、転生者のことをまだまだ知らなければならない。強烈な怒りを胸に、自身をこの世界へ追いやった相手へ復讐の決意を固めた。

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