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第3話 チート能力

琥珀

「…」


少年は窓の外から街を観察している。


「エルロック。ご飯よ」


今日は4歳の誕生日。目は見えるようになり、歩き回れるようにまで成長することが出来た。


琥珀

「はーい母さん」


この女性はクラヴィス・ベルンシュタイン。勿論その正体を琥珀は知っている。

琥珀の現在の髪色は茶色。クラヴィスの髪の色も茶色。琥珀の現在の肌色は小麦色に近い肌色。クラヴィスも小麦色に近い肌色。琥珀の現在の目の色は綺麗な翠色で、クラヴィスも翠色の目をしている。この女性、完璧なまでに自分の母親をデザインしている。


クラヴィス

「カレキトカゲのステーキとシマヤギのミルクで作ったグラタンよ。さぁ召し上がれ」


なんとトカゲのステーキをこの世界では食すのだ。カレキトカゲとは枯れ木に擬態したトカゲの事でかなり大きいトカゲである。一応にモンスターに分類されており、養殖が容易でさらにあまり強くない為か家畜の豚に当たる普及率で市場に出回っている。サイズはコモドドラゴン程であり、初めて見た時はかなり驚いたが、相当家畜化が進んでいて大人しく肥えて丸まっている。今となっては通常個体が枯れ木に擬態できることはなさそうだ。一度に大量に卵を産み、大きさはバレーボールより一回り小さい位。無精卵で卵を大量に産み、肉は一般家庭に普及している。豚と鶏が合わさったようなトカゲだ。


琥珀

「…ステーキ美味しい」


一瞬コリアンダーを食べた時のことを思い出したが、あそこまで癖は無く旨みの奥に香辛料独特の爽やかさがある。


クラヴィス

「でしょう?香辛料を変えてみたの。スっと鼻を通る香りで、喉越し爽やかな味わいになったと思うわ」


シマヤギとは縞模様の山羊と言って差し支えないだろう。縦縞の山羊でありシマウマが山羊になったと思って貰えれば想像しやすい。大きさはウシより少し小さめ。それでも山羊にしてはかなり大きい。クラヴィス曰く暑さを調整する為にそんな模様になったんだとか。大きくなればなんとオスもメスも常時乳を出す事が出来る。その特性を利用して旅のお供にシマヤギを連れ回す旅人が多いんだとか。山羊は山岳地帯を易々と歩き回れる。その為足が強くて背に乗る事も出来る。暑い場所に強く、餌さえ確保されていれば寒さにもある程度耐える。寒い地域のシマヤギの乳は脂質が高く、濃くて美味しいという。マルチタスクをこなせる素晴らしい旅のお供だ。雑草の繁茂する場所に放てばあっという間に除草してくれる。


クラヴィス

「エルロックは頭がいいからきっと立派な騎士になれるわね。早く大きくなって母さんを楽させてちょうだいね♪」


笑顔でそう言った。


琥珀

「母さんは何故僕に騎士になって欲しいの?」


何気なく聞いてみる。


クラヴィス

「騎士になれば安全にお金を沢山貰えるし、王様の元で働けるでしょう?そうすればきっとエルロックは素敵なお嫁さんを貰えて幸せな家庭を築くことが出来るわぁ。母さんはエルロックに幸せになって欲しいの。沢山子供を作っていつか貴族階級になれるように頑張りましょうね」


階級。上流階級に拘っているようだ。


モルグリット

『恐らくは結界の内側に入る為でしょうね』


琥珀

『結界?』


モルグリット

『ええ。王都には邪なものが入らぬように結界が施されております。中から許可されない限りクラヴィスが入る事はできないでしょう』


琥珀

『つまりこの女は僕に許可を貰って結界の内側に入ろうとしてる訳か』


モルグリット

『そうですね。国家転覆、まではいかなくても仲間内を招く為の下準備とも考えられますね』


琥珀

『その、イービル・オブ・シティ…?はどんな性質を持ってるんだ?』


モルグリット

『基本的に吸血鬼だと思って貰ったらいいと思います。日光に弱くて人の血を吸うんです。ですがイービル・オブ・シティの厄介な所はそこじゃありません。【各個体で能力が異なるのです】』


クラヴィス

「どうしたの?」


クラヴィスが琥珀の顔をのぞき込む。


琥珀

「ん。なんでもない。僕、騎士になれるように頑張る」


ここシュバルツ統治領はまるで京の都のように四角形の外壁をなしている。東西南北で区分けされており、王都は中央にある。なんでも四精霊の加護が働いており王都には大きな力を持つ存在は許可が降りない限り入り込めないようだ。


クラヴィス

「エルロックも、もうそろそろで学校通わなきゃね」


琥珀

「学校?どんな事をする場所なの?」


クラヴィス

「文字と数字の勉強をして、体を鍛える場所よ。あと魔法の適性があるか調べて進学先を決めるの。エルロックは魔法に興味ある?」


琥珀

「魔法…。うん。使ってみたいかな」


クラヴィス

「そう。魔法は6属性あってそれぞれの適性を調べるの。それによって配属される学校も変わってくるわ。魔法が使えなくても落ち込まなくていいわよ?人にはそれぞれ得手不得手があるからね」


自分が出来る事は多い方がいい。目的上今後転生者との戦闘は避けられない。ならば今の内に努力をしなければ自分がやられる羽目になる。


琥珀

「母さんは魔法使えるの…?」


クラヴィス

「母さんはね〜、そこまで魔法に詳しくないの。ごめんね」


琥珀

「そっか…。得手不得手があるから仕方ないね」


クラヴィスはふふふと微笑めば琥珀の頭を優しく撫でた。料理を食べ終われば琥珀は外へ遊びに行く。


モルグリット

『琥珀さん。実は5歳になると私の声が届かなくなります』


琥珀

『え?何故だ?』


モルグリット

『成長に伴い頭蓋骨がどんどん堅牢に成長していきます。すると隙間がなくなり天の声を受信し辛くなるのです。なので今の内に聞けることは聞いておいた方が良いかと』


琥珀

『そうか。もう話す機会は全くなくなるのか?』


モルグリット

『夢の中で話すことは可能です。それと琥珀さんが因果を【7つ集め】元の世界へ戻る際に魂を図書館へ引き戻します。その時はまた普段通り話せます』


琥珀

『因果を7つか…』


琥珀はボールを蹴り壁にあてながらモルグリットと心の中で会話する。


モルグリット

『そうだ。【チート】の話をしておきましょう』


琥珀

『チート?』


モルグリット

『そうです。転生者は魂に応じた能力が各1つ存在します。そしてそれは貴方にも存在します。チートは質量を無視した力で異世界を越えて現世に通じる因果の能力なのです』


琥珀

『ほう。質量を無視した力…』


モルグリット

『そうです。この世界では魔法を使うにしても【マナ】を消費します。マナは意思であり意識の力。全ての生物に宿る願望を成就させる目に見えざる力の源です。ですが転生者のチートはマナの様なリソースを消費しない。所謂ズルってやつです』


琥珀

『ふーん。ズルか。それで僕にはどんなチートがあるんだ?』


モルグリット

『それでは目を瞑り【扉を探してください】』


琥珀

『と、扉…?』


琥珀は目を瞑り扉をさがす。直ぐに瞼の裏に扉が浮かんでくる。


琥珀

『あった…』


モルグリット

『それでは開いて中へ入ってください』


琥珀は頭に疑問符を浮かべながら扉を開いて中へ入る。真っ暗闇の中で何かが手を掴んだ気がする。ドキリとして目を開くと左手前腕に何かの模様が刻まれている。


琥珀

「な…!」


モルグリット

『曼荼羅が刻まれましたね。しかし手ですか…。かなり不利な場所にありますね』


琥珀

『不利…?どういうことだ』


モルグリット

『曼荼羅は破壊されれば精神が死にます。ナイフを突き立てられれば肉体と魂は乖離して死ぬでしょうね』


琥珀

『これ、発動させない方が良かったんじゃ…』


モルグリット

『あるのとないのとでは雲泥の差です。とりあえずその部分を意識して強く念じてください』


琥珀

『やってみるよ…』


琥珀は言われた通りやってみる。上手くいかなかったのか目を瞑って念じる。すると目の前が明るく光れば何かが出てくる。


琥珀

「…鉛筆?」


モルグリット

『ああ、召喚系ですね』


琥珀

『召喚系…?』


モルグリット

『ええ。色々あるんですよ。何故鉛筆なのかは分かりませんけど』


琥珀は他にも召喚出来ないか色々試してみる。


琥珀

「えっと…。召喚出来たのは鉛筆、色鉛筆、ノート、糊、定規、消しゴム、ホッチキス、ハサミ、輪ゴム、画鋲…」


琥珀

『モルグリットさん、これって…』


モルグリット

『日用品ですね。チート名、必需品召喚(サモンネセシティー)と名付けましょう』

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