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第2話 従属奴隷

琥珀

「物語達って、僕と同じように魂だけの存在になってここへやってきた連中ってことか…?」


「そうです。魂の記憶を貯蔵するにあたって物語を分別するためにセフィロト区域、クリフォト区域と分別されているのです。双方共世界樹の生命の樹、邪悪の樹として区分けされています。そしてこの図書館はセフィロト区域、エリア・マルクトの記憶貯蔵庫という訳です」


琥珀

「いっぺんに説明されてもいまいち飲み込めなさそうだ…。つまり生命の樹のセフィロト区域、エリア・マルクトの世界図書館がここなんだな…?」


「ええ。そして私はここの管理担当のモルグリット・ネモーデと申します。セラフ級クリアランスを所持する【怒りの天使】です。以後お見知りおきを」


琥珀

「あ、ああ。モルグリットさん。今後ともよろしく…」


セラフに怒りの天使。琥珀は聖書に詳しくない為いまいち凄さが分からなかったが、とりあえず相手に合わすため挨拶を交わしておく。


琥珀

「早速なんだが、僕が元の世界へ戻る手助けをお願いしたい…。代わりに出来ることがあったら手伝うし、何とか帰ることは出来ないだろうか…」


一応にへりくだってモルグリットへお願いしてみる。


モルグリット

「貴方から私に対して何か利益を生じる奉仕活動は一切ありませんね。大概の事は自分で何とか出来ますので」


琥珀

「…そ、そうなのか。なら手伝って貰えないのか…?このまま僕はここで立ち往生していたら多分君の邪魔になるだろう?」


モルグリット

「いいえ? 魂にも寿命がありますので。大体400年くらいでしょうか? それに魂魄を維持するためには【生命の熱】が必要です。浮遊霊ってご存じですか? 人に憑いたり、動物に憑いたりしてフラフラ漂っている幽霊です。ここには水もないし、光もなければ土もない。無機物しかありませんので貴方の魂魄はカチカチに固まっていずれ朽ち果てるでしょうね。私に憑こうとしても無駄ですので悪しからず」


ふぅー…。琥珀は上を向いて深呼吸をする。この女が何を欲しているのか、或いは何を求めているのか分からない。


琥珀は膝をつき、頭を下げた。


琥珀

「モルグリットさんっ! お願いしますっ! どうか僕を助けてくださいっ…!」


クソ…。クソクソクソ…! クソクソクソクソクソッ! 何故僕が頭を下げなくちゃいけないんだ…! 巫山戯るなよ…! この畜生が…。だが、仕方がない。これ以外の方法が思い浮かばない。


モルグリット

「…」


琥珀はチラリとモルグリットを見てみる。じーっとこちらを見た後、【メガネを少しだけ外した。】


モルグリット

「ええ。いいでしょう。仕方ありませんね」


ニッコリと微笑んでいる。何笑ってんだ。


モルグリット

「まぁ及第点と言ったところでしょうか。色々思うところはありますが、今の貴方になにかを求めるのも筋違いですし、その土下座に免じて今回は助けて差し上げます。ほら、頭を上げてください」


少しだけ安心する。いつか痛い目に合わせてやりたい気持ちはあるが、とりあえず相手に合わさなくちゃいけない。


琥珀

「ありがとうモルグリットさん…。この御恩、いつか必ず返すよ…」


モルグリット

「無理しないでください。貴方がどんなに頑張ったところで、私にとって害にも益にもなりえないのですから」


なにか言葉に棘がある気がする。


モルグリット

「さてと。それでは貴方を受肉させないといけませんね。少し失礼しますよ」


モルグリットは懐から小さな杖を取り出せば【琥珀の鼻に突っ込んだ。】


琥珀

「ぐえっ!?」


驚いて後退する。何かを引っ張りだされたようだ。


琥珀

「な、何をするんだ!」


モルグリット

「僅かに残った貴方の因果の破片を取り出したんです。ほら、見えますか?」


杖の先に小さく光る玉が見える。


琥珀

「い、因果…? 取り出して大丈夫なのか…?」


モルグリット

「ええ。今生きていない琥珀さんには取り立てて必要ではありませんので。時に琥珀さん、輪廻転生って信じますか?」


琥珀

「…え? 輪廻転生…? 実際に目にした訳じゃないから眉唾な所があるな。その因果ってやつが必要なのか?」


モルグリット

「例えば貴方は何故産まれて来たんでしょうか。いきなりこの世に生じた訳では無いでしょう? 親がいて、祖先がいる。その連続の先に琥珀さんがいるわけです。原因と結果。それが因果です」


琥珀

「…ふむ。ならば世に言う輪廻転生の観点は間違いという訳か? 自身の産みだした子供達が自身の産まれ変わりと定義しているように聞こえるんだけど」


モルグリット

「いいえ。原因を辿っていけば何処かに結び付きます。つまり普段生活していて身近に接する隣人も、昔は貴方の親兄弟姉妹だったとも言えます。琥珀さんの魂は何処かの誰かから1番適応した人生を紡ぐために肉体に宿りました」


琥珀

「…なるほど。魂がその肉体に引かれて転生してるってことか…?」


モルグリット

「その考察、中々筋がいいですね。言い方を変えれば子を残せば残すだけ自身の転生の機会を多く得られるということです。人は意識を、知識を積み上げていくものです。たくさん積み上げて貯蔵していけば転生後の人生を豊かにすることが出来ます」


琥珀

「…え?」


モルグリット

「どうかされました?」


琥珀

「いや、なんでも。したらその因果、何に使うんだ?」


モルグリット

「今から貴方を送り込む世界に【琥珀さんの因果は存在しません。】ですので遥昔に存在する生命体に因果を植え付けて琥珀さんの転生が割り込めるよう仕込むのです」


琥珀

「…昔に? そんな事が可能なのか…?」


モルグリット

「時間の流れは幾つも存在します。終わればまた始まり、何周も何周も【サイクル】します。ですのでそのサイクルの始まりに琥珀さんの因果を仕込んで、今の琥珀さんの魂が割り込めるようにするんです。別に難しい事じゃありませんよ」


難しい事じゃありませんと言われたものの、自分の考えるスケールの話をとうに越えている。


琥珀

「あ、ああ。モルグリットさんが出来るならそれでいいんだけど…」


モルグリットはロールスクリーンを広げれば映写機にフィルムをセットする。辺りを暗くして琥珀の因果をレンズに取り付けてハンドルを回す。ぱっと光ればロールスクリーンに光が映し出される。映し出された映像は水の中に黒い絵の具を浸した時のように、黒色の絵の具が水の中に徐々に広がり浸透していくような映像であった。


モルグリット

「色の始まりですね。さ、この中へ入ってください」


琥珀

「このロールスクリーンの中へか?」


モルグリット

「ええ。そしたら自身と適応する肉体に琥珀さんの魂は宿されます。そうして新たなる【転生が成されるのです】」


琥珀

「…」


琥珀はロールスクリーンに触れてみる。ズブズブ…っと指先が中へ入り込んでいく。


琥珀

「…僕は転生なんかしたかった訳じゃない。だが産まれ変わる必要があるというのなら、新たに因果を再構築してまた元の世界へ戻ってやる…。必ず、必ず復讐してやるぞ…。待っていろ」


深い恨みを胸に、琥珀はスクリーンの中へ入り込んでいく。





琥珀

「…」


琥珀は廃墟の砦の中にいる。先程攫われたイービル・オブ・シティという輩は目の前で矢を引き抜いている。


「…う、ぐはぁ…!」


琥珀

(モルグリットさん…!モルグリットさん…!)


琥珀はモルグリットに呼び掛けてみる。しかし返事はない。


「…ぐるるるるるる…」


こちらに近寄ってくる。自分は食われるのだろうか。先程の動きといい、明らかに人間の挙動ではない。喉を鳴らして唸っている。獣に近い存在なのだろうか。


琥珀

「…う〜〜…っ!」


身をよじって不快感を示してみる。するとお包みに手を掛けられれば丸裸にされる。指を胸のあたりに這わされれば【扉が開くようにパカっと開いた。】


琥珀

「…?」


トクン、トクン、と琥珀の心臓が鳴っているのが聞こえる。何をするつもりなのか?すると相手も上着をはだけさせれば胸の辺りを指でなぞる。其方もパカっと開く。琥珀の心臓を爪でなぞられる。カッターで切られるような痛みが走る。


琥珀

「あ、うう、おぎゃああ…!」


バタバタと抵抗しようとするも逃げられない。


「…」


琥珀

「ああ、あああ…! んむぅっ…!」


かなり嫌そうな顔をして相手を見つめる。相手は手を引っこめると自分の心臓にも何かを書き始めた。穢されたような嫌な気持ちになる。


【儀式】が済めば再びお包みに包まれ運ばれる。いったい何処に連れて行かれると言うのだ…? 歩く揺られ心地に瞼が重くなっていけば琥珀はそのまま疲れて眠ってしまう。





モルグリット

『…琥珀さん…琥珀さん…』


琥珀

「…むぅ…?」


モルグリットの声で目が覚める。ここは何処だ…? どうやら家の中に居るようだ。暖炉があり暖かい。目が見えないため他の何かを探ることは出来そうにない。


モルグリット

『どうやら街に連れて行って貰えたみたいです。良かったですね』


琥珀

(僕は散々君を呼んだんだけど、何をしてたんだ?)


モルグリット

『え? 寝ていました』


琥珀

(天使は寝るのか…。まぁいい。昨日イービル・オブ・シティとかいう奴に攫われて胸を扉みたいに開かれた。何か知らないか?)


モルグリット

『イービル・オブ・シティ…。街の悪性。住民に紛れて生活する彼等、吸血鬼の別名でしょう。恐らく琥珀さんは魂の従属を敷かれたのだと思います』


琥珀

(吸血鬼…? 魂の従属…? なんだそれは…)


いきなり御伽噺の怪物の名前が出てきた。


モルグリット

『吸血鬼はご存知ですよね。人の血を啜る悪鬼です。彼等は生きながら屍たる存在。血は生命の象徴です。故にそれを飲み生きる糧としているのです。魂の従属は…残念な事にかなり不利な契約だと思っていただければ』


琥珀

(クソ…。どう不利なのか教えてく…教えてください)


モルグリット

『イービル・オブ・シティが命じれば琥珀さんは従わざる得ない契約です。契約者が死ねば琥珀さんは死ぬ。琥珀さんは死んでも相手は死ぬことはありません。なので全力でイービル・オブ・シティを守らないといけませんね』


琥珀

(守るったって…。僕は赤子だぞ…? そんな事言われても困るんだが…)


モルグリット

『それも運命です。どうか受け入れてください』


琥珀は深い溜息を吐く。するとドアが開けられ誰かが入ってきた。お包みを脱がされれば体を綺麗に拭き取られる。


琥珀

「…」


「あら、お利口さんね。赤ん坊はすごく泣くものなんだけど」


琥珀は答えない。先程の相手とは容姿も肌の色も違うように思われる。


「…貴方の名前を決めなくちゃね…。そうねぇ。何がいいかしら…」


頬に人差し指を当てれば思案しているようだ。話し方からして女性のように思われる。


「エルロック。貴方の名前は今日からエルロック・ベルンシュタインよ」


琥珀

「…」


勝手に名前を付けられた。いまいち釈然としないが姓を貰えたならまともな家柄の人物なのかもしれない。


モルグリット

『良かったじゃないですか琥珀さん。名付けて貰えましたよ』


琥珀

(それよりコイツはその吸血鬼なのか…?容姿が全く違うんだが…)


モルグリット

『吸血鬼は変身できます。従属奴隷を自分から離すなんて事はしないと思いますので』


琥珀

「…うう〜…」


相手は琥珀の口に赤子用のミルクを運ぶ。お腹がすいていた為かあむあむとそれを呑み込む。


『ふふ。大きくなるのよ。私の傀儡奴隷ちゃん…』


傀儡…。何処かで聞いたようなワードが発せられれば相手はまともな人物ではないと言うことを一瞬で理解した。

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