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第1話 イービル・オブ・シティ

…? 目が見えない。全てがぼやけて見える。遠近感が上手く掴めない。ここは何処だ?


『聞こえますか琥珀さん』


琥珀

「うう…ううう…」


声が出せない。どうなっているんだ?体が寒い。まるで皮膚の内側が外に剥き出しになっているようだ。ブルブルと震える。試しに手をばたつかせてみる。


『お返事はしなくて結構です。貴方は先程【生を受け、転生を成し遂げました。】返事は出来ないと思われますし、声も出せないと思います』


そうか。【僕は産まれ直したのか。】道理で体の自由が効かないと思った。


『そうです。御理解が早くて助かります。今、貴方は時代背景的に中世の留置所に当たる詰所の控え室に一時的に保護されています』


全く出自が分からない。親もいなければ自分の家もないのか? 早速苦難に見舞われているのだが。どうすればいい。


『さぁ?何とか生き延びてください』


生き延びる?どうやって?目も見えなければ歩くことも出来ない。


琥珀

(僕にどうしろと?)


『人間力で生き抜いてください』


琥珀

(人間力…?)


『そうです。言い換えるなら【運】ですね』


ドォン…!遠くで爆撃の音が聞こえる。大きい音に驚き泣きそうになるが何とか堪える。


琥珀

(おいおいおい、誰か攻めてきたぞ…!)


『運が悪いですね』


琥珀

(まるで助ける気がないのか…!?このままでは僕は死んでしまうぞっ!)


『或いはそれも運命です。死んだらもう諦めてください』


琥珀

(はぁ…。あまりにも酷すぎる。こんな所に放り出しといて無責任もいいとこだ)


『私に責任はありませんので。貴方が歩み始めた人生です。自分の人生くらい責任を持ってください』


琥珀

(あくまで傍観者のつもりか…。君は本当に【天使】なのか?)


『勿論天使です。ですが貴方担当の守護天使という訳ではありません。私の仕事はあくまでエリア・マルクトに属する世界図書館の書物の整理。常磐琥珀さんの面倒を見る義理も義務も責任もありませんので』


ガシャガシャ…と、鉄の擦れる音が聞こえる。数人の誰かがここへやってくる気配を感じる。どうする? 泣くべきか? このまま大人しくしておくべきか?


琥珀

「お、おぎゃあぁぁ…!」


一か八かで鳴き声を上げてみる。


ガシャガシャガシャ…。足音は遠ざかって行く。


琥珀

「…うう…うぅうぅぅう…」


なんだか不安で涙が出てきた。近くに人間がいないのはこんなにも不安なことなのか? 或いは赤子の生理現象なのかもしれない。鳴き声は上げずにしとしとと涙を流す。自分の仕出かしたことを思えば誰にも同情されないと思う。

…運が悪ければこんな人生も有り得たのかもしれない。元の世界での産まれは相当良かった。家庭に恵まれ、勉学には惜しみない投資をしてもらい、力強い体に産んでもらえた。親の性格に問題があったかもしれないが、いきなりこんな風に放り出されるより余っ程マシだった。


ザァアアア…。


雨が降ってくる。運が良かったかもしれない。火の手が上がってこのまま焼け死ぬ事は無さそうだ。

人の叫び声と鉄の擦れる音がしきりに聞こえる。戦いが行われている事は容易に察せられる。


琥珀

「…」


宛もなく天井を見続ける。このまま誰にも見つけられず死ぬのだろうか。無様に糞尿を垂れ流し、放置されたまま餓死してしまう。そのような不安に寒気がする。本は読んだ事は無いが何となく話は聞いている。転生と言えばある程度のギフトなるものが贈呈される。それは出自であったり、優れた能力であったり。

例えば王族の家庭に産まれ、食べる事に何不自由なく大人になり、決められた相手と結婚する。面白みはないかもしれないが、明日の心配をする不安もない。記憶があっても、いや、自分には記憶しかない。この世界がどのようなものなのかまだ理解出来無い。今までの常識が全く通用しないとなると常磐琥珀は根絶した、そう判断した方が良さそうだ。


首を左右にコテンコテンと振りながら何か起こる事を願う。時間はただただ過ぎていく。あの女に何かしら問いかけをするのは無駄であると早々に理解した。手足も満足扱えない自分には、今や他力本願を願うしか他ないのだ。

哀れなり常磐琥珀。無様なり常磐琥珀。この状況を打破する他人をただただ願う事以外なすすべがない。辺りが静かになり徐々に暗くなっていく。ここが留置所の何処に位置するのか分からない。留置所であれば母親なり父親なりが牢獄に囚われているのかもしれない。


琥珀

「…んん、ん〜ん〜…」


お腹が空いた…。だが誰も彼も来ることは無い。辺りは既に暗くなっており、ぼやけて見えなかった視界すら暗く、黒く染まる。開かれた窓から冷たい夜風が入り込み頬を撫でる。その内獣の類が自身の臭いに気付き食しに来るのではないか。そうなればまた転生するのか? いや、或いは魂すら完全に消滅して今度こそ根絶するのかもしれない。

【この肉体には常磐琥珀の記憶は存在しない。】今ある自身の記憶は魂が所有している。肉体が消滅すると赤子の記憶と魂の記憶が混ざり合うことになる。あの女曰く自身の精神が緊急措置を取って魂をあの図書館に送り込んだらしい。強烈な体験がトリガーになり、魂をあの場所へ送り込む。その法則に則るなら、赤子がなんの抵抗もすること無くあっという間に絶命したならば、精神は魂を飛ばすことなくただの記憶としてあの図書館へ保存される事になる。それは不味い。僕は自分の世界へ戻りたい。どんな育てかたでもいい。何とか歩けるようになるまでは面倒を見てもらいたい…。どんな事でもする。どんな辱めだって受ける。だからお願いだ、誰か僕を見つけてくれ。


琥珀

「…ああ、あ〜!あ〜!あ〜っ!」


涙を流しながら泣き喚く。真っ暗闇の中、孤独に虚空に向かって叫び声をあげる。胸を切り裂かれるような想いで何処の誰とも知れぬ【誰か】に助けを求める。助けてくれ、僕を助けてくれ。

身を攀じるような孤独の苦痛に、体の底から引き絞るように声を上げ、願う。【切に願う。】ここまで強く願った事は今まであっただろうか? ここまで強く生きたいと願った事は今まであっただろうか? 恥も情けも書き捨てて声を上げる。


夜風が止んだ気がした。


琥珀

「…うう、ひっく、ひっく」


目の前に何かがいる気配がする。【真っ赤な目が2つ。】誰だ? 人なのか? 二足歩行で立っているように見える。だが人間ならば、目は赤く光らない。すると襟首を摘まれた。顔を近付けられる。


琥珀

「…ぐず…」


涙に濡れた目でつまみ上げた相手の顔に焦点を合わそうと努める。赤い光以外ぼやけて見えない。


「…くん、くんくん…」


臭いを嗅がれる。臭かったのだろうか。確かに既に【漏らしてしまっている。】仕方ないじゃないか。赤子なのだもの。


琥珀

(お、おい。コイツは人間か?)


司書に心の中で問い掛けてみる。しかし返事はない。席を外しているのだろうか。どっちにしろヤツは僕が生きようが死のうが関係がない。返事がなかったとしてもそれは仕方が無いのだ。謎の人物は踵を返せば留置所の外へ足を運ぶ。摘まれていた状態から抱き抱えるように持ち直されれば人である事が確認出来る。

良かった…。本当に良かった。人に回収して貰えた。今後どうなるのか分からないが何とか養育施設へ運んでもらって


ビシュビシュッ!風邪をきる音が聞こえる。


「ぎしゃああああっ!!」


謎の人物は耳を劈くような叫び声を上げた。


「クソっ!イービル・オブ・シティだ!赤子が攫われた!逃せば厄介な事になるぞっ!」


イービル・オブ・シティ? コイツは人間では無いのか? 突如謎の人物は駆け出す。まるで風になったかのように矢を避けつつ、残像を残すように駆け抜けるコイツの顔を注視する。雲の合間から月明かりが漏れ、月の光に照らされた顔が一瞬明るみになる。

【真っ白な顔と真っ赤な目が微かに見えた。】

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