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異世界レッドオーシャン  作者: ぐれこりん。
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第11話 正義の鉄槌(ビッグ・カーネイジ)

シマシマのスカートにカラフルな衣装。真っ白に化粧をした顔にピエロの帽子。バットには有刺鉄線がぐるぐる巻き付けられている。


キャサリン

「エルロック! 早く!」


エルロックは相手をじっと見据え様子を伺う。


「あら、向かってくるつもり? あんた転生者なの?」


エルロック

「転生者? お姉ちゃんの言ってる事、僕には分からないな。転生者だったらなんだってのさ」


「転生者なら曼荼羅の存在を知ってるはずだよ。カマかけるにしても、あんたガキの癖に根性が座ってるよね」


エルロック

「僕は品行方正、健康優良男児なんだ。クラスに問題があったら直ちに対処しなくちゃならない。だから怪しい服装をした不審者が教室に入ってきたなら、先生が来るまでみんなを守らなきゃいけない」


キャサリン

「早く、早く逃げないと殺されるわよ!?」


エルロック

「キャサリン。君は優秀な血筋で、両親或いは教師から魔法の手解きを受けたんだろう? 僕は違う。魔法なんてさっき覚えたし、この世界についても全然詳しくない」


キャサリン

「何言ってるの!? 死ぬのよ!? 怖くないの!?」


エルロック

「怖いさ。痛いのは嫌だ。だが人間は試練を乗り越えてこそ得られるものがある。命懸けで、命を賭して得られた勝利にこそ価値がある。僕はあのピエロを倒す。君は逃げたければ逃げればいい」


ピエロはバットをエルロックに向けてブンブンと振り回す。


エルロック

「危ない危ない…! 一撃でも貰えば致命傷は免れないだろうな」


背後へ回避していく。回避し移動する際鉛筆を地面に撒いていく。


「うっ!?」


ドスンっ! 鉛筆に躓いて転んでしまった。


エルロック

「くくく、おいおい何してんだよ」


ケラケラと転んだピエロを嘲笑う。


「これは…? 鉛筆?」


キャサリン

「サジタ・イグニス!」


キャサリンが人差し指から弓を引くように火の矢をピエロに向かって放つ。ヒュパッ! ヒュパッ! と被弾すれば服が燃え出した。


「アヅヅヅッ! このクソガキッ! やってくれたねっ!」


ピエロは自分の服の火を風の魔法で鎮火する。そのままバットをブンッ! とキャサリンに向かってなげつけた。


エルロック

「おっとっ!」


エルロックは火の玉をバットに向かって放つ。ボウンッ! とバットに当たれば弾き飛ばす。


エルロック

「【僕だけを見ろ。】お前の相手はあの子ではない。僕に集中しろ。じゃなきゃ、あっという間にお前を倒しちゃうぞ」


「…あはは、あははははっ! あんたやっぱり転生者だ。この鉛筆もそうだよ。こんなものこの世界にないもの。今あんたが作ったんでしょ? 或いはどっかから持ってきたか。…決めた」


ムクリと立ち上がる。足元の鉛筆を蹴り飛ばすとバットに向かって手をかざす。すると磁石で引き寄せられたようにピエロの手に戻った。


「私の名前はドルチェス・ドラクロア。今からぶち殺すあんたの名前は?」


エルロック

「ぶち殺すだと? 誰にものを言っている。直ぐに後悔させてやるからな。エルロック・ベルンシュタインだ。一生忘れられない名前にしてやる」


エルロックは手を前に構え後退る。


ドルチェス

「おっと。下手なことしないでよね」


ドルチェスはバットを構えて寝ている子供に向けて構える。


ドルチェス

「私が1スイングすればガキの脳みそを一撃で破壊できるんだからね?」


エルロック

「…!」


やれよ、とは言えない。殺されようとも自分の人生とは関係の無い世界の住民。だがこの場に数人の人の目がある事を考えれば、正しき行動をしなくては今後の人生に響く恐れがある。


エルロック

「やはり正々堂々とは行かないか。何が条件だ?」


ドルチェス

「条件? あんたの曼荼羅を見せてこっちへいらっしゃい。直ぐにぶち殺して早々に立ち去るわ。プリニアン先生が来れば私が殺されるもの」


エルロック

「お前は先生が怖いのか。そんなに強いんだな」


ドルチェス

「ええ、ええ。強いのなんのって。私なんか一瞬で殺されるわ」


エルロックは訝しい目付きで【左手のリストを外す。】曼荼羅が顕になった。


ドルチェス

「やっぱり。まだ誰もヤッてないね」


エルロック

「…」


ゆっくりドルチェスに向かって歩み寄る。


ドルチェス

「…素直でよろしい。じゃ、さようなら」


エルロックは輪ゴムピストルをドルチェスの顔に向けて発射した。ピシッ! とドルチェスの顔に当たる。


ドルチェス

「うっ!!」


怯んだ拍子にバットを横スイングする。サッと屈んでそれを回避する。


エルロック

「はっ!」


服に手を触れて直接火を着火する。


ドルチェス

「またやったねっ!」


直ぐ様風の魔法で鎮火するも、背後にキャサリンが回り込んでおり、背中に触れて闇の魔法を放つ。黒いモヤモヤが背中に触れればドルチェスはドンッ! と脳に響く衝撃を受ける。


ドルチェス

「なにっ!?」


キャサリン

「精神に直接ダメージを与えてやったわ。そう何度も受けられないわよ」


エルロック

「君、逃げないのか?」


キャサリン

「未熟なあんたを置いて逃げれば、マルミット家の名に傷が付くわ。どうせあんたのことよ、私が逃げたって言いふらすに決まってんだから」


エルロック

「そんな気は更々ないが、丁度猫の手も借りたい所だった。君の手を借りるとしよう」


ドルチェスはバットを支えに起き上がる。


ドルチェス

「いるのよねーたまに。魔法の授業も受けずに魔法に精通してるヤツが」


自身の頭に手を触れれば、キラキラと手が輝き始めた。


キャサリン

「光の魔法よ…。精神ダメージを回復してるんだわ」


ドルチェス

「家柄、血筋、才能。それもまたそいつの能力の1つだと私は思うよ。人間は平等じゃない。それはこの世界に転生してからだってそう。エルロック。あんた、【カモメを素手で掴んだよね?】」


エルロック

「!?」


キャサリン

「…なんで、それを知ってるの!?」


ドルチェス

「まだ歴史を勉強してないみたいだから教えてあげる。この世界では鳥と獣、魚と虫が覇権争いをしていたの」


ピエロの帽子をポイっと投げ捨てる。すると【頭に羽が生えている。】


ドルチェス

「獣は鳥に負け、魚は虫に勝利し、獣は人として文明を築き、鳥は空を奪われて地を這う事を命じられ、魚は自然の中で豊かに暮らし、虫は水中に追いやられた。その際地上の幾つかの種族は幾つかの人種と混ざりあったの。こんな風に頭と背中に羽が生えている人間も中にはいるのよ」


キャサリン

「あんた鳥人だったのねっ!?」


ドルチェス

「ええそうよ。この世界は意志の力で如何様にも変化を生じやすいの。とりわけ鳥人と虫人は差別されて身分が低いんだ。あんたも知ってんでしょ? そこの女がマダラカモメをまるで小汚いネズミのように扱っていたことをね」


そういえばキャサリンはエルロックの背中をまじまじと観察していた。もしかすれば背中に羽が生えていないか確認していたからなのかもしれない。


エルロック

「そうか。身分が低いのか。だが君は因果を集める転生者だ。元の世界へ戻るのが目的なんだろう?」


ドルチェス

「違うね。元の世界へなんて戻りたくない。私はこの力を強化してレイシスト共をぶち殺すのが目的なんだよ。獣人のレイシスト、鳥人のレイシスト、虫人のレイシスト、魚人のレイシスト。差別だなんだと騒ぎ立て相手を貶めようとする連中と、それを尻目にやっぱりアイツらはああだとレイシズムを正当化して蔑む連中も全部全部ぶち殺すのが私の目的なんだよ」


キャサリン

「なんて凶暴な…! あ、あんたみたいなのがいるから差別が無くならないのよ! やってることはただの殺戮じゃない! その自覚はあるの!?」


ドルチェスはキャサリンをギロリと睨みつける。


ドルチェス

「…ふ、ふふふ。まさにあんたがそうなのね。あんたは転生者であろうとなかろうと殺す。覚悟しな」


エルロック

「差別主義者の連中を皆殺しにして格差を無くすか。なるほど? 合理的でいいんじゃないか?」


ドルチェス

「だろう!? 案外話がわかるじゃない!」


ドルチェスは目を大きく見開き、嬉しそうに反応した。


エルロック

「だが現実的じゃないな。肌の色、産まれた国、話す言語、性別に至るまで人間は相手と差を付けたがる。如何に自分が相手より優れているか、それを自身の中で勝手に納得して安心したがる生物なんだよ。そしてそれは人間だけに限らない。動物だってそうだ。猫や犬を飼ったことはあるか? あとからやってきた新顔は、元いた古参にマウントを取られるんだ。自分の立場を確立させたいが為にな」


ドルチェス

「何を言ってるの…? ねぇ、あんたは、共感してくれるんじゃないの?」


エルロック

「お前のやってることは、無駄なんだよ。差別主義者を皆殺しにしたとして、最後に誰が残る? 結局お前1人だけになるんじゃないか」


ドルチェス

「…黙れ」


ドルチェスはバットを構える。


エルロック

「いい加減気付かなくちゃいけない。ドングリの背比べなんだってな。お前も僕も、DNAの配列はきっと大して変わらない。頭が多少良いか悪いか、背が多少大きいか小さいか。少々の優劣に四苦八苦して相手より少しでも優位に立とうとする。人間虎みたいな大きい生物にはどうあっても勝てないのにね」


ドルチェス

「黙れ、黙れ黙れ黙れッ!」


エルロック

「それが叶わないなら今度は持ってる物だ。金持ちかそうでないか。産まれた家柄がいいか悪いか。何とか自分の中の自分を取り持つために皆必死なんだ。そしてそれはお前もそうなんだろ?」


ドルチェス

「あんたに何がわかるんだッ! 差別されてきた人の気持ちが! 私はずっと我慢させられて来たんだ…! 好きなこともさせて貰えず、分不相応だと親に認めて貰えず、周りの人間にも理解して貰えず羽を伸ばすことなく今まで堅苦しい生活を強いられて来た…!」


エルロック

「そう、腹が立つから殺そうとするんだ。自分の良いようにならない連中をね。残念ながらお前の中にも深く深く差別主義の思想が根付いている。お前自身がそれに気付いていないだけだ。相手を糾弾するよりも先ず、自分の思想を見つめ直して見たらどうだ?」


ドルチェスはエルロックに激昂している。目を真っ赤にして向かってきた。


ドルチェス

「黙れよォッ! そんなに死にたいならまずあんたを殺してやるッ!」


ドルチェスは思いっきりエルロックに向かってバットを振りかぶる。


キャサリン

「危ないっ!」


風の魔法を使い足に旋風を発生させればエルロックを抱えて廊下へ逃げる。


エルロック

「…おおっと、魔法はこんな事も出来るんだな…」


ドルチェスも風の魔法を使い2人の後を追跡してくる。


キャサリン

「追ってくるわ! でも何とか他のクラスメイトから意識を逸らせたわね。よくやったわねエルロック」


エルロックは過去の自分を思い返す。ヤツの言うこともある程度理解出来る。過去、琥珀は自分が常に優れた存在だと信じて生きてきた。ならそれを逆手にとった発言をすればあの手の連中を釣ることなど容易い。


エルロック

「まだ安心できないぞ。これで君も僕と同じレイシストの一員だ。アイツの殺害対象であるのは間違いない。覚悟を決めるんだキャサリン」


ドルチェス

「この大概殺せるバット、正義(ビッグ)鉄槌(カーネイジ)であんたの脳天ぶち撒いてやるわッ!」

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