謝罪オンパレード
「なんやねんおまえ。」
鶏頭の男もこういった状況には慣れているのか、依然として強気に立ち向かってくる。
が、仮にも俺は魔王軍が率いる四天王が一人(だった男)。このようなチンピラ風情に万一にも遅れをとることはない。
格の違いを教えてやろうと思い、鶏頭の胸ぐらにかけた手に、よりいっそう力を込め凄んでみると「ひっ」とさすがに怯えた様子だ。
そのとき俺は、自分が破顔していたことに気づいた。思わず口角が上がっていたのだ。それもそうだ。久しぶりに自分の「強さ」というものを実感したのだからな。雑魚に対して優越感に浸るのはなんとも愉快だ。
さて、そろそろこの鶏頭を殴り倒して身も心もスッキリしようかと思ったそのときだ。
鶏頭に掴みかかる俺の腕を振りほどき、こんな信じられないことを言ったのは他でもない、じいさんだ。
「ウチのはじめがすんません!怪我とかされてまへんか?」
深々と頭を下げている。
隣に目をやると、ばあさんも同じく頭を下げている。
「は?」
思わず口に出ていた。状況が飲み込めずぼーっと突っ立っていると、じいさんに頭を掴まれて、気づけば俺の視線はアスファルトの地面を向いていた。
「ほら、おまえも謝らんかい!」
三人で鶏頭に向かって頭を下げた。
なんだこれは。
鶏頭もこれに拍子抜けしたのか「もうええわ」と言って、とぼとぼたこやき屋を後にした。
店が静まり返る。この静寂を破ったのは唯だった。
「みんな、ごめんなさい」
今度は深々と唯が頭を下げた。
「唯ちゃんは何も悪ないやん。頭上げて。」
ばあさんが言った。
「けど、あたしのせいであいつがここに来てもうたからこんなことに。」
声量が尻すぼみになるような話し方で、唯は本当に自分の責任だと感じているようだ。
「悪いのは全部あいつだろ!」
たまらず俺は怒鳴ってしまった。
なぜ何も悪いことをしていないじいさん、ばあさん、唯が謝っているのだ。突然店に現れて唯に、じいさんに、ばあさんに迷惑をかけたあの男が、なぜ一言も謝らずに帰ったのだ。
すべてに納得がいかない。
「ごめんな、はじめ。」
また唯が謝った。
「あたしのためか、それはわからへんけど暴力なんか振るわせてもうてごめん。」
謝られている理由がわからない。それは謝るようなことなのか。ああいった馬鹿は力をもって制するのは当たり前のことだろう。俺はずっとそうしてきた.....。
「おっちゃん、おばちゃんもごめん。せっかくのたこやきが.....」
鶏頭に唾を吐き捨てられたトレーに載ったたこやきを見て、唯がまた謝った。
「ちょっと待ってな。」
そう言ってじいさんが新しいトレーに熱々のたこやきを盛り直して、唯に手渡した。
「もちろんお代はいらんで。これ持って帰って、また明日元気な顔見せてや。」
そう言ってじいさんは、年甲斐もなくウインクをして見せた。
「ありがとう。おっちゃん!」
唯は笑顔を見せたが、それでもいつもよりは元気がないように見えた。
「ほなら、ぼちぼち通常営業再開するでー!」
唯が帰ったあと、じいさんが背伸びをしながら言った。
俺だけ取り残されているような感覚に陥った。
俺は無意識のうちに制服を脱いで、こう言った。
「じいさん、休憩くれーー。」