ライカかつおぶし
「おいひぃ〜い。」
熱々のたこやきを口いっぱい頬張った彼女は、頬に小さな手を添えながら賛辞の言葉を述べた。
この街には快活な人間しかいないのか……。そう疑いたくなるほど、俺がこの街で出会う人間は明るい人柄の持ち主ばかりだ。
「飽きないな。」
「飽きへんよお。毎日でも食べられるもん。」
食い気味に俺にそう返してきた彼女の言葉は誇張でもなんでもなく、事実毎日彼女はウチのたこやき屋を訪れている。
数少ないウチの常連の彼女の名は「皆口唯」。いわゆる「女子高生」という肩書きをもつ少女だ。「高校」という教育を受ける機関に通っており、毎朝その登校時にウチのたこやき屋に寄るのがルーティンとなっている。
もう待ちきれないと言わんばかりに、はふはふとたこやきを頬張る唯にじいさんが言う。
「そんだけ美味そうに食ってくれたらたこやき屋冥利に尽きるでほんまに。」
「はひ!めっちゃおいひいでふ!」
確かに唯の食べっぷりは、見ていて気持ちがいい。……だがーー。
「落ち着いて食えよ。ちゃんとしゃべれてないぞ。たこやきは逃げたりしない。」
「だっておいひいからとまらんねんもん。」
言ったそばから……。思わずその場にいる皆が破顔する。穏やかな空気が流れていて、良い朝だ。
しかしここで裏から出てきたばあさんが一言。
「唯ちゃん時間大丈夫?」
「あーー。」
一同凍結。俺とじいさんも談笑を楽しみすぎたと少し反省。
「ほんまやあかん!行ってくるわ!」
彼女は残りのたこやきをパクパクっと口に放り込み、「あっつ!」などと言いながら走り去っていった。
遠くなる彼女の後ろ姿を見届けながらふと思ったことがある。
「揺れているーー。」
短いスカートが、とかそういう下世話な話ではない。彼女の快活さを表すような髪型の話だ。頭の後ろで束ねる髪型のことをポニーテールというらしいが、唯のそれが走るリズムに合わせてゆさゆさと揺れている。
俺は思ったのだ。
そうその様子はまるで、アツアツのたこやきの上で踊るかつおぶしーー。