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奴は家庭内でも最弱

「ーーじめ、はじめ起きや!朝やで!」


ああ、そうか。それは俺の名だったか。眠気まなこを擦りながら、俺は布団を剥ぐ。


二階の俺の部屋から、朝食の香りに誘われて一階の居間を目指す。


「それにしても今朝もとんでもない声量だったな……。」


夫に似て元気なばあさんだ。毎朝あの声に叩き起される。……なに?自分で起きろ?馬鹿な。あんな寝心地の良い布団で早起きなどできるものか。この国の寝具は上物だ。


食卓にはすでに朝食が並べられていた。今朝は白米に味噌汁に目玉焼き。なんとも甘美な面子が揃っている。


「これぞ日本の朝食の王道!と言っても過言ではないな!」


俺はどかりと腰掛け、暖かい味噌汁で胃の準備体操を始めた。


「いや染まりすぎやろ。」


遅れて居間にやってきたじいさんの鋭いつっこみ。


確かにそうだな。話を少し戻そう。


俺がたこやき屋の老人に拾われてから、二ヶ月が経った。


彼は俺を住み込みのアルバイトとして雇ってくれた。彼のたこやき屋は、自宅の一階を一部改装して建てられており、その家に空き部屋があったため、寝床のない俺を拾ってくれたのだ。


その小さなたこやき屋を営業している老夫婦の紹介も簡単にしておこう。餓死寸前の俺にたこやきをめぐみ、「はじめ」という名を与えた老人の名は佐倉源治。御歳72歳の大ベテランである。そして妻の美代。本人曰く永遠の17歳。彼女も俺を快く迎え入れてくれた。彼らは二人三脚でこのたこやき屋を40年も続けてきたらしい。


夫婦はよく似るというが、この二人も例に漏れず、気持ちの良い快活なコンビだ。一緒にいるとこちらまで気が晴れる。


そんな平和な家庭で、穏やかな毎日を過ごしているうちに俺はあの殺伐としたタサン王国に帰ろうという意思が削がれていった。


ーーで今に至る。めちゃくちゃこの地に馴染んだ。


「俺思うんだよ。天下の台所ってのはこの家のキッチンのこと指してんじゃねえかって。」


「褒めてもなんも出えへんで!」


そう言いながらどかどか白米を茶碗に盛られた。


「よう食うわこの穀潰しは。」


白飯が喉に詰まりそうになったので、急いで麦茶で流し込む。さっきまでの食欲が消え失せ、箸を置いた。


「冗談やんか。なにしょぼくれてるんよ。」


ばあさんが自分でフォローを入れるが、冗談には聞こえなかったから、俺は箸を置いたのだ。事実、俺は彼らに貢献できているかといえばそんなことはない。なぜならーー。


「またおまえ客の話しようとしてるやろ。」


じいさんに見抜かれた。そう、彼は俺と出会ったとき、人手が足りないから俺を雇うと言った。しかし二ヶ月ここで働いてわかったことがある。むしろ暇だ。客が全然こない。人手は余っている。


「何遍も言わせんな。人手が足りてない言うだけではじめを雇ってるわけやない。せやから気にせんでええねん。貢献してるとかどうとかは。」


このじいさんは時々よくわからないことを言う。しかし妻の美代もそれに同意している様子。


「気にするなと言われてもな……。」


最弱でこそあったが、俺は世界を支配した魔王が率いる四天王の一人だぞ。それが穀潰しに成り下がるとは……。悶々としながら、炊飯ジャーを空にした。


今日も今日とて開店の準備を始める。俺はまだたこやきを焼かせてはもらえない。店の裏で生地を作ったり、具材を切り分けたりしている。焼くのはやはり源治の仕事だ。


そうそう、そういえばだ。客は全然来ないと言ったが、物好きな固定客は何人かいて……。


「すいませーん。」


噂をすれば、だ。彼女が来た。


「いらっしゃい、唯ちゃんーー。」


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