感謝の言葉
たこやきーーそれが意味する食べ物の詳細を俺は知らない。しかし空腹によるためか、なんとも甘美な響きに感じられる。それにこの良い香り。たまらん。
一刻も早く購入してがっつきたいが、ここでは通貨で支払うのか、あるいは物々交換なのかがわからない。俺は気づいたらここにいたので、金もなければ、これといって交換に出せるような物もない。どちらにせよ俺にたこやきを食べる権利はないではないか。
たこやきに惹かれたり、届かないたこやきへの想いを馳せていたり、悶々としながらその屋台の前で立ち尽くしていた。
そんな俺の姿を見て、その屋台の店主らしき老人が俺に声をかけてきた。
「兄ちゃん、腹減ってるんか?よかったらこれ食いや。」
そう言って、老人は俺に白い包みを渡した。
その包みを受け取ると、驚くほど熱くて、急いで端のほうを指先で摘むように持ち直した。
細くて伸び縮みする留め具のようなものを外すと、包みの蓋が開いた。
ぶわっと一斉に湯気が立ち上り、同時に良い香りが俺の嗅覚を支配した。さきほどから感じていた匂いとはまた違う。それは視覚的にも言えることであった。店主が店頭で調理していたそれとは少し見た目が違う。複数の調味料がかかっており、それらがまた食欲をそそる香りをしていたのだ。
俺はその食べ物を見たことはないが、わかる。これがたこやきだ。
しかし無償でもらうわけには……。そんなことを考えていると、また老人から声がかかる。
「ぼーっと見てんと、冷めんうちにはよ食ってまいや!ウチのはアツアツのがこれまた美味いんやから。」
そんな快活な彼の姿を見て、その老人に対して疑いの気持ちは持てなかった。
俺はそれを口に運んだ。熱い。めちゃくちゃ熱い。けどめちゃくちゃ美味い。止まらない。なんか刺して食うやつがあるけど手で掴んで食っちゃえ。
一心不乱に食べ続ける俺の様子を見て、老人は笑顔を浮かべた。
瞬く間にたこやきはひとつ、ふたつと数を消し、気づいたときには食べ終わっていた。手も口周りもべたべただ。けれどなんだか清々しい。
そうだ、伝えないと。感謝の言葉を。
そのときふと浮かんだ言葉があった。
俺はその言葉の意味を知らないが、考える前に口をついて出ていた。
ありがとうーー。