出会い
ぐぅ。腹の虫が嘶く。
俺が勇者に敗れてから、どれくらいの時間が経ったのかはわからない。意識を失ってから目が覚めるまで、体感では刹那であったものの、死を覚悟するほどの傷を負ったのだから、それが完治しているということは、それだけ時間が経ったということなのかもしれない。
なんにせよ腹が減った。
しかし気がついたらいたこの異郷の地では、軽率な行動はできない。
一見してここは魔王軍の支配下にある土地ではない。魔族の姿が見えないし、彼らに隷属するエルフもいない。
ではここは敵対するエルフの土地なのか?それにしてはここにいる人々の耳は丸い形をしている気がするし、なによりこんな人の多い土地を見たことがない。
聞いたこともない言語、見たこともない人種・街・文字……。警戒するには十分すぎる材料だ。
しかしそんなことは今はどうでもいい!腹が減った。腹が減っては戦はできぬ。通り行く人々はさっきから怪訝な目で俺を見るが、敵対意識があるようには見えない。そう自分に言い聞かせるようにして、俺は考えることをやめた。
度を超えた空腹の中、俺はひとつの香りに誘われた。その香りを辿っていくと、雑多な街中に紛れるようにぽつんと、小さな屋台のような露店がひとつあった。
そこに掲げられている看板にもまた俺の知らない言語が綴られていた。
しかしまたしてもなぜか俺はその言葉が読めてしまった。
たこやきーーと。