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エピソードオブじいさん:エピローグ
佐倉源治は家族も仕事も失った。
目的もなく生きていた。
死んでいるみたいに生きていた。
けれど死ぬことはできなかった。
彼は心に、自分でも見えないくらいの小さな希望を抱いていたから。
だから生きていた。
仕事や寝床を転々とするその日暮らしの生活を続けていた。
二年ほど経ったころだった。
たくさんの人で賑わう大通りを歩いていると、懐かしい匂いに誘われた。
行ってみると、そこには小さなたこやき屋があった。
人通りの多い場所に店を構えているはずなのに、客は全然来ていなかった。
不思議に思ったが、店主と思われるその人を見ると得心がいった。
少女とまではいかないが、ひとりで店を切り盛りするにしては若い女性が、慣れない手つきでたこやきを焼いていた。
まだ綺麗に作ることができないのか、ところどころ潰れたものすらうかがえた。
「確かにこれは買わへんな。」と苦笑いしつつも、なぜか自然と源治の足は、その店へと向かっていた。
その店の看板には、店の名前か店主の名前か、はたまたどちらも指すものなのかはわからないが、大きく「美代」と書かれていた。




