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エピソードオブじいさん:プロローグ
じいさんは笑わなかった。
じいさんは怒らなかった。
じいさんは突き放さなかった。
俺が冗談みたいな話をしても、むしろ俺を優しく諭すように、じいさんは言った。
「はじめ、おまえは弱い。」
「今わしが、おまえと取っ組み合いの喧嘩をしたらな、間違いなくわしはおまえにボコボコにされるやろな。そら当たり前や。けどなーー。」
じいさんは少し間を取って、続けた。
「それだけが強さやないと、わしは思うんや。」
俺は黙って聞いていた。首を縦にも横にも振ることなく、静かに聞いていた。
「確かに腕っぷしだけで言えば、おまえはだれよりも強いかもしれん。けどな、暴力で人を支配しても何も残らん気がするんや。そんなんはな、ほんまもんの強さやない気がするんや。」
じいさんのその言葉は、何か含みを持たせたように聞こえた。
少しの間、場に沈黙が続いた。
しばらくして、何かを決心したようにじいさんは口を開いた。
「年寄りの長話、聞いてくれるか?」




