なぜ
俺を見て怯える鶏頭の顔から、俺は思わず目を逸らした。
鶏頭の瞳を通して、自分を客観的に見てしまったからだ。
これは俺が望んだことだったはずなのに……。
じいさんを、ばあさんを、唯を、俺の大事な人たちを馬鹿にしたこいつに報復をするために、魔王に四天王として仕えた俺の力を行使して絶望を与えたのだ。
弱者に弱者であるという意識を刻みつけ、格の違いを見せ、屈服させる強者としての俺がそこに在る。そう思っていた。
しかし鶏頭の瞳を通して見た俺の姿は、ちっぽけな男だった。
力では圧倒しているはずなのに、なぜ俺は自分がこんなにもちっぽけに感じられるのだ。
鬱憤を晴らすつもりで来たのに、イライラは積もる一方だ。
なぜだ。なぜ……なぜーー。
「なんでだよ!」
鶏頭に怒鳴り散らした。
鶏頭はひいと言って目をつむった。
俺を見て怯えるな。
自分が恐れられることすら不快に感じられる。
自分がちっぽけに思える理由は依然としてわからないが、そのときふと想起されたのはじいさんの姿だった。あのとき鶏頭に深々と頭を下げたじいさんの姿だった。
俺は鶏頭の胸元から手を離した。そして思い切り壁を殴りつけて、言った。
「今度また唯に付きまとってみろ。今度またウチの店を馬鹿にしてみろ。これじゃ済まさねえからな。」
鶏頭は一目散にその場を逃げ出した。
壁を殴りつけた右手から、パラパラと瓦礫がこぼれ落ちた。しかしそれはすべて綺麗にはがれることはなく、手には気持ちの悪い感触が残った。
そのとき、去っていく鶏頭と入れ違いになるように背後からだれかがやって来た。走ってきたのかひどく息を切らしている。
俺は振り返ることはなく、そいつが息を整えるのを待った。
呼吸のリズムがゆっくりと元に戻っていくのを確認して、ふぅと息を吐いて、そいつは言った。
ずいぶん長い休憩やないか、はじめーー。




