プロローグ
「よくぞここまで辿り着いたものだ勇者よ。しかし悲しいかな。貴様が今倒した奴は四天王の中でも最弱……我らの力を侮るでないぞ!」
辛うじて意識はあるために、ぼんやりと聞こえる。俺の奥の部屋にいるーーつまりは四天王二人目の男の台詞だ。
勇者に絶望を与え、四天王一人目の男ーー俺の心の傷を抉る台詞。聞き飽きた。聞き飽きたけど胸が痛い。
魔王軍の四天王が一人に選ばれるほどであるからして、自分で言うのもなんだが俺はそこそこの実力の持ち主である。しかし一方で、四天王の一人目とはお客様にとっては前菜のようなもので、中途半端な実力の俺は中途半端なプライドを持ち、この中途半端な立ち位置に中途半端に葛藤しているのである。
ゆえに突き刺さる。「奴は四天王の中でも最弱ーー」
ああ、今日も胸が痛い。
……それにしても、今日はとりわけいつもより胸が痛むな。体がうまく動かせないし、奥の部屋での戦闘の様子もよくわからない。目もかすんできた。なんだこれ。胸に手を当てると異常に激しい鼓動とイヤな感触があった。べたり。それが付着した手のひらをよく見えない目でよく見た。よくわかる。色ですぐにそれと判断できた。血だ。これもまた異常な量の。
やばいなーー声にならない声が出る。
どうやら今回の勇者に、文字通りの致命傷を与えられたようだ。
この物理的な胸の痛みは、根性ではどうにもならない。奥の部屋では激しい戦いが行われているため、助けも来ない。終わりだ。
ああ、なんでもいいから、同じ舞台じゃなくてもいいから、せめて死ぬ前に一番になりたかった……。
そんなことを考えながら意識が遠のいた。
次の瞬間、俺は目が覚めた。
胸の痛みはない。意識もはっきりとしているし、体も動く。しかし理解は追いつかない。
さっきまでと違う場所に俺は立っている。
知らない土地、雑踏の中ーー。
人々は俺の知らない言葉を話している。しかしなぜか、俺はそれを理解できている。
自分の置かれている状況がまったくわからない。
藁にもすがる思いで周りを見渡した。まずはここがどこかを見極めねばならない。何かの看板に視線を奪われた。俺の知らない文字で、聞いたこともない言葉だが、なぜかそれがここの場所を指すものであるとわかった。
大阪ーー。