捜査
明はすぐに職員室に小木先生を呼びにいき、このことを話した。
すぐに先生は部室に来た。そしてこの惨状を見て驚きを隠せなかった。
「なぜ…こんな事が…」
塗りつぶされた絵と、雪の放心状態を見て、頭が回っていないのか、初めの一言はそれだった。
しかしさすがは大人と言うべきか、直ぐに冷静さを取り戻し、俺たちに指示を出した。
「私は春風さんが落ち着き次第、家まで送り届ける。2人は部室を施錠して今日は帰りなさい。この事件については私たち教師で話し合い、対処する」
そう言うと、先生は雪に優しく話しかけ、彼女の荷物を持って2人で部室をあとにした。常に隣に寄り添って話しかけている。最善の行動のように思えた
2人になった部室。沈黙を破ったのは明だった。
「さて、僕らはどうする?」
愚問だった
「決まっている。すぐにでも犯人を捕まえて雪の前にたたき出す。」
そう言うと明は不安そうな顔になった
「また、あの事件みたいにはならないよな?」
その事か、ひとつため息をする
「わからん。犯人と理由しだいだ
何度も言うが俺はあれについては後悔してないぞ」
そう言うと、明は苦笑いをした。
「あの時はそうかもしれないさ。でも今回は雪ちゃんも絡んでいる。あまり大事にすると彼女にも害が及ぶよ?」
確かに、雪にはこの件で害は与えられない。言ってしまったがために責任として絵を書いたんだ。次は退部されたら困る
「じゃあお前がブレーキをかけてくれ。俺はそれに従うからさ」
「わかった」
と明は快く引き受けた。
「じゃは早速犯人を…と言ったものの、なにか手がかりはあるのかい?」
「手がかりならあるさ。」
「え?なんだい?」
「絵だよ。完全に乾いていただろ?
絵の具は厚く塗られてたから乾くのには時間がかかる。そう考えると今日の朝からの犯行は考えにくい。」
明は絵を触る。それと同時になるほど、と言った
「じゃあ鍵についても何か手がかりがありそうかい?」
「いや、正直鍵については証拠も手がかりもないんだよ
ここの鍵を持ってるのは俺、お前、顧問、用務員くらいだ。このメンツじゃ犯人はいないだろう
と、すると職員室の鍵を使ったと考えられる」
「確かにそうだね。しかも1年生なら部室の鍵は貸し与えられてないから職員室で鍵を借りなきゃならない。
そう考えると借りやすいか」
「そういうことだ。さっさと職員室に鍵を返しに行ってなにか証拠はないか探しに行こう。
先生が帰ってくる前に行かないとややこしくなりそうだしな」
職員室は、別棟の1階フロアにある。
階段を降りて左手に曲がるとすぐだ。
扉を開けるとまだ多くの先生方が残って談笑や授業の準備をしていた。
扉を開けてすぐのところに座った若い女の先生が僕らに声をかけた
「君達、どうしたの?」
慣れた様子で聞く
明はニコニコしながら離す
「僕ら芸術部なんですけど、1年生が早退したので鍵を返しに来たんです」
「あぁそうなのね、じゃあキーケースに閉まってちょうだい」
そう言って先生は職員室の奥にあるキーケースを指さす。
「分かりました。」
そう言われ、キーケースに向かおうとすると
「あっ貸出帳に名前書いといてね、美術部でいいから」
そう言われた
「分かりました。あと先生、僕らは芸術部です」
「あぁそうだったわね。ごめんなさい」
見たところ新任の先生なのだろう。間違いがえても仕方がない
キーケースは1番奥にあるため、沢山の先生の横を通らなければならなかった
「赤坂、お前次のテスト大丈夫なんだろうな」
「赤坂君、課題忘れないでね」
「赤坂、進路希望が…」
10メートル程歩くだけで明は疲れたのだろう
こんなにも話しかけられるなんて
「笑うなら笑ってくれよ。僕が何をしたって言うんだい」
「日頃の行いだろ。嫌なら勉強しろ」
と、そんな訳でキーケースの前まで来るのにまぁまぁな時間がかかった。
右上の美術準備室と書かれた止め金に鍵を返し、貸出帳にサインをする
「見てみろよ、昨日充が返してから完全下校19:30までに3人が鍵を返しに来てるぜ」
「だな。だが全部部活名だ。管理がずさんだろ」
口を滑らせた。さっと周りを見渡すと授業を受けたことの無い先生が人差し指を立ててシーッというサインを送ってきた
俺は首を縦に振り小さくお辞儀をして元に戻った。
「助かったね。あと少し人がいたらまずかった」
そう言って明はスマホでノートの写真を撮った。携帯持ち込み不可の学校の職員室でスマホをいじる方が度胸がある
「じゃあ帰ろう。ひとまずは部室だね」
そう言って帰ろうとすると
「おっ松原。ちょっといいか」
と給湯室からコーヒーを片手に出てきた担任に止められた。明を見るとにやにやしている
俺は決して成績不順と課題未提出はしてないからな。
俺は断ることもせずに、先生について行き、机の前まで行く
明を見るとさっき声をかけられた先生と話していた。
数分担任と話をしてから職員室を出ると、明が待っていた
「遅かったね充。何の話だったんだい」
俺ははぁ、ため息をつき、肩をすくめながら言う
「昨日の話が本当になりかけた
名門数校から指名がきている。作品を展覧会に出してもっと名前を売れだとさ」
「凄いじゃないか充。こりゃ凄い話だ」
全く能天気な奴だ。俺は絵で飯を食う気は無いのに
「そんな事よりだ。さっきの貸し出し簿を見てなにか考えついたか?」
部室に向かいながら俺は明に話した
「うーん…ひとまず俺が昨日、鍵を返してから鍵の返却があった時間と部活は
17:00分 文芸部 貸出
18:00分 天文部 返却
18:10分 天文部 貸出
18:15分 天文部 返却
19:00分 生徒会 返却
ってところだね。あの女教師に話を聞いたけど無断で鍵を持っていった奴はいなかったらしいぜ。
天文部の貸出は単に忘れ物をしてしまったかららしい
男の子が借りていったけどどんな奴かは忘れたらしい」
「まぁちくいち生徒の顔なんて覚えないよな…
現状、天文部がいちばん怪しいな」
「でも5分の間に犯行なんて行えるか?」
そんな事を話しながら2階の踊り場に着くと男子生徒に声をかけられた
「やぁ美術部」
出会ったのは生徒会、楠優。学業優秀、柔道黒帯、文武両道、八方美人と、まさに絵に書いた優等生だ。
後ろに新入生2、3人を連れていた。
「こ、こんにちは生徒会長」
学業怠慢、体育評価2、文武倦怠、二方美人の明は少し苦手な先輩だった。
しかし会長はそんなことは気にしない。いつもの爽やかキラキラスマイルで話しかける
「昨日の1年生の絵をみたぞ。なかなかいい絵じゃないか。」
屈託のない爽やかな笑顔で話す
「いやぁ、それはどうも
…というか会長、あの絵を見たんですか?」
明も負けじと営業スマイルで話す。全く演技が上手い奴だ。
会長は全く笑顔を崩さずに話した
「あぁ、昨日小木先生が美術準備室で絵を見ているのに出くわしてな。
…何かあったのか?」
さすがは生徒会長、話を見抜いてきた。
俺は概要を説明する。
「昨日の夕方から夜にかけて、あの絵が塗りつぶされたんです。
絵を描いた1年生が、早退したので鍵を返しに行ったんですよ。」
そう言うと会長も流石に驚いた。
「嘘だろ。誰がそんなことを…」
怒りの表情。これが本気で怒っていると信じたい。
「聴きたいんですが、会長が絵を見たのは何時ですか?」
「そうだな、確か18:00頃だ。天文部が帰るところに出くわして彼女達も絵を見たからな。いい絵と感動していたが…」
「絵を見終えたのは?」
「18:05分頃だ。小木先生が用事があると鍵を閉めたのでな。
そのあとは部室に戻ったよ」
「その時に怪しい人とかいなかったですか?」
「いや、いなかったな。正直俺も先生と話をしてたから廊下だったり後ろの天文部と後輩達は見ていなかったが…」
なるほど
「色々聞いてすいません。犯人は小木先生が探すらしいので」
「いや、いいんだ。絵を汚されたのは俺にとっても悔やまれる事件だしな
何かあったら協力しよう」
明はあまり好まない先輩らしいが、ここまで親身になってくれるのはありがたい
「ありがとうございます。何かあったら聞きに行かせてもらいます」
そう言って彼らと別れた。
一瞬すれ違った1年生に睨まれた気がしたが、何か気に食わないことでもしただろうか。
「あぁ、そうだ美術部」
階段を上がる俺達を会長は引き止めた
「あぁなる前に、相談しろよ」
会長は変わらず笑顔でそう言う
俺も作った笑顔で言う
「ありがとうございます。
あと先輩。僕らは芸術部です」
そう言うと会長は悪いと言い、階段を降りていった。