エピローグ
あんな事件があったというのに、次の週の俺たちふたりは平常運行だった
「暑い、実に暑い。地球温暖化というのはなんてこう熱くなるのか」
「地球の怒りがフツフツと煮えたぎっているからじゃないか?
こう…フザケルナァ!て感じでさ」
「なんともそれは…部長殿、我らに何か出来ることはないでしょうか」
「そうですなぁ。あまり二酸化炭素を出さないよう、なるべく惰眠を貪り、動かず…そう、絵でも描きながら過ごすというのはどうでしょうかな?」
「申し訳ない、もうしています」
「なんもとも…これはなんとも意識が高い」
そこまで言うと、いつも通りクックックと楽しそうに笑う。
我ながら実にくだらない話だ
さて、いつもならそれを締めくくる冷たい後輩のツッコミはいくら待てど来なかった
見ると明の前のソファーに腰かけ、大きなため息をついてあからさまに落ち込んでいた
「なぁ雪、そんなに落ち込まなくても 」
俺はたまらずフォローに入る
「そうだよ雪ちゃん。一葉ちゃんだって僕らがいなくなれば戻ってくるんだからさ」
と、明は軽口のようにそう言った。
あの日、明は一葉にある事実を伝えた
「あと数ヶ月で僕らは引退さ。部活に残るのは2年生と1年生
僕らがいなくなった後に部活に来れば、何も蟠りはないんじゃないのかい?」
と、ほぼ忘れていた事実を一葉に突きつけたのだ。
「あなた方の伝統を受け継げと?」
一葉はそれに冷たく返した
「僕らは伝統なんて作っていない。ただ部活動の枠組みと、しばらくは無茶しても無くなることは無い実績を作っただけだ」
と、俺は返す
「あとは雪ちゃんと一葉ちゃんで作っていけばいい。
大丈夫。雪ちゃんなら道は踏み外さない」
そこまで言うと一葉は少し考た
そしてなにか決意した表情をして
「前向きに検討します」
そう言ってカバンだけを持って帰って行った。
その表情と、置いていった絵。そして前向きに検討という言葉に俺たちは安堵した
と、言うわけで俺たちふたりが居なくなればやつは帰ってくる。
その証拠にあの絵はしばらく経つが取りに来る気は無いらしい。
これで問題は万事解決。あとは引退時期を決めるだけ…だと思ったが、
雪は真顔でこちらを見て
「いくら実績のある部活でも…
部員が2人だけじゃこの部活廃部ですよね?」
と、至極真っ当なことを言った
確かにそれはそうだ
しかも残った一葉も今は幽霊部員。
部員2人の部活動があってたまるか
これはまずい、非常にマズイ
これは一葉に土下座でもしないとか
明を見るとまさに豆鉄砲を食らったという顔だった
「まずいな…」
こんな明を見るのは初めてだった
そんなこんなあたふたしていると、ドアがノックされた
「キツツキかな?」
こういう時はいつも通りの素っ頓狂なことを言う明
「人間に決まってます」
それをいつも通りの冷たいツッコミで返す雪
雪が扉を開けると
「あれ?あなた達は」
雪は驚いたようにそういった
そこには最初に幽霊部員になった4人がいたのだ
いいタイミングで来てくれたと思った
あの日、成弥を呼び止め、楓のことを改めて聞いてみた
そうしたら
「あいつ、自分の仲間だけで部活作ろうとしてますよ
自分と合わないやつは裏で虐めて…自分もその1人で、辞めることにしたんです」
と、密告してくれた
「なら楓がいなくなったら成弥は戻ってくるか?」
俺が期待を持ってそう言うと
「自分はもう新しい部活を作ってしまったので戻りません。
ただ、芸術部が楽しかったのにって言ってる人は何人かいましたよ」
と、期待を持たせてくれる回答をしてくれた
そして今、その何人かが部室に来てくれた
「楓さんが辞めたって聞いて、私たち本気で芸術をやりたいんです
もう一度入部させて貰えませんか?」
その目はみんなキラキラさせていた
雪も嬉しいのか、早速部室に招き入れて、5人で和気あいあいと話をしていた
それを見ている俺と明
もう、そのグループには俺たちは入れそうになかった
あれだけ広かった部室も、確かに6人だとちょうどいい広さだ。
…だが8人ではちょっと手狭か
「狭くなるね」
同じことを思っていたのか明は呟くように言った
「なぁ明」
「なんだい充?」
「いい部活になったな」
心の底からそう呟くと
「あぁ、これで心置き無くだ」
と、感慨深いように明も呟いた
雪を含めた5人が和気あいあいと話してる姿を見て、俺たちはもういらないと察した
そして
「引退するか」
そんな軽い言葉で、僕らの青春のバトンは渡された。
恐らく俺達の行ったことは正解でもなく不正解でもない。
ただ、俺達が作り上げたものは、後輩に受け継がれる。雪が、一葉が、そして彼らが。
その積み重ねが伝統になる事だろう。
その伝統がどんなものになるか、それが楽しみで仕方がなかった。
「芸術部の事件簿」をここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。
読んでいて気づいた方もいるかもしれませんが、「氷菓」が好きなので、何となく似せられたらなと思って書いていました
まぁ米澤穂信先生には遠く及ばない所か見てもらいたくないほど稚拙な出来になってしまいましたが
アニメ氷菓10周年に完結できたことは、私の自己満足ですが、とても嬉しいことです。
とても長い、約3年の連載を全く伸びない視聴回数にうんざりしながらも、まぁこんなもんかと思いながらのんびりと描き続け、そして終えることが出来て良かったなと今は思っています。
自分の中ではトゥルーエンドで終わる事が出来、一応満足はしています
何故一応かと言いますと、この先のストーリーは頭の中で出来上がってはいます。
タイトルだけ記載させて頂きますと「林檎の木の下で眠る少女」です。
正直バッドエンドです。自分の性格を疑うレベルでバッドエンドになっちゃいます。
なので、そんなエンドを迎えて欲しくないワガママで書くことは諦めました。
もし、仮にこの小説が人気が出て、調子に乗ったら書くかもしれません。まぁそんな事万に一つもないですが笑




