1-6 遠雷と祝福
走る走る。僕はただひたすら道なき道を走る。
ギャー7、ギャー7、ギャー7
すれ違う度、僕を追うトレントが一匹、また一匹と増えていく。
「くっ、樹脂スキル:油砲」
僕はレイサからもらったスキルホルダで、目の前から迫るトレントを撃退し、
横から迫るトレントの枝をしゃがんで回避する。
「おりゃおりゃ、爆破スキル:指ミサイル」
10本の指それぞれから発射されるホーミングミサイルが、周囲のトレント達を吹き飛ばす。
「北は…北はどっちだ?」
僕は今、北側にあるという、港へ向かっている。そこに簡易的な船があるという。
「剣スキル:パワースラッシュ」
トレントの木片でトレントを砕きながら、
この狭い道、キャットウォーク?みたいなところをひたすら走る。
「何故、同じ世界の者たちで争う?」
クチナシの香りが漂う。
「雷魔法:放電」
永続スキル:野性の勘によって先読みしていた僕は、側転で背後からの雷撃を躱す。
「冷っ、いや熱いのか…」
ちっ、少し掠ったらしい。僕は脳のギアをトップにする。
「波スキル:マッハウェーブ」
「雷魔法:紫電」
「ぐはっ……」
痛い痛い痛い、やばいやばい、起き上がれない…痙攣が収まらない…
というか、音より雷の方が速いとか聞いてないぞ…
それになぜやつは効いてないんだ…直撃したはずだが……
「何故、仲良くできない?やはり危険因子は除くしかないな…」
やつはさっきから何を言っているんだ…
だめだ、片耳が完全にやられたらしい…
コツン、コツン…
やつが、やつがもうすぐそこまで近づいてきている…
野性の勘がけたたましく、アラーム音を響かせる。
「くっ…レイサ……」
やつがここにいるということは、レイサはもう…
僕は現状を打開しようと周りを探ろうとして…
「っ!!」
「ステータスアップスキル:パワーヒート」
(ヒーローはいつだって見捨てたりしない)
そう聞こえた気がした。
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速すぎて何が起きたか分からなかったが、どうやら助かったようだ。
「生きていたのか。レイサ……」
「おおお!、私は守ると約束した。」
満身創痍のくせに背中越しにサムズアップするなよ…かっこいいじゃねぇか…
というか、吹っ飛んでいったあいつ、ケロリとしてる。ノーダメじゃん。
「上級雷魔法:パーフェクトサンダー」
「ヒーロースキル:挫けぬ心」
レイサは、僕を庇うようにして白い閃光に呑まれた。
「…やっかいだな…そのスキル…」
なんとか耐え切ったレイサもすごいけど、実はさっきからやつのイケボが気になってしょうがない。
だってあんなバリトンボイスじゃなかったよね?
「ヒーロースキル:義侠心の呵責、身体強化スキル:フォースパワーⅢ」
大男の身体が赤黒く、さらには肥大化する。
「さぁ、俺の趣味は通用するか?」
ヒーローと勇者の戦いが今、始まる。
「雷魔法:電磁キャノン」
先手は勇者。自動預け払い機ほどの厚さはある雷が一直線にレイサへ向かう。
しかし、レイサはショルダータックルで破壊。その勢いを緩めず、勇者のもとへ走る。勇者まであと7歩。
「雷魔法:エレキウイップ、雷魔法:アクセルライトニング」
レイサは、雷雲から降り注ぐ雷を躱しつつ、足元を狙った雷の鞭もしっかり躱してゆく。
「いけ、レイサ!!」
あと二歩。
「EXスキル:オーバードライブ」
かっこいい。なんか、地吹雪を示す国際式天気記号みたいな模様が右手に集まっている。
あと一歩。レイサは大きく右手を構える。
「雷スキル:パラライズショック」
「く、ヒーロースキル:挫けぬ心」
一瞬レイサの動きが止まる。
「雷魔法:撃雷」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
大男のショットバーの止まり木ほどある腕と勇者の雷を纏った拳が激突する。
「風無効スキル:ウインドブレーカー」
僕はレイサにもらったスキルホルダを使い、
天地が割れるほどの衝撃の余波から僕はなんとか意識を守る。
目を開けるとそこには……
ノーダメ―ジの勇者と身体の半分が消し飛んだレイサの姿があった。




