1-5 未来の扉はどれも手動らしい
「今日は旗日だから町が忙しいね」
そう言うのは、最近アルゼンチンタンゴを習い始めたという君。
僕は、君のどこか古風な芯を匂わせるところが好きだった。
「はい、今日のタトゥーシール」
君はいつも僕にタトゥーシールをくれる。
「え、今日のはこれ?僕には似合わないよ。」
勾玉みたいな形状のタトゥー。
「もー、人の好意は素直に受け取るものだよ。」
「そりゃそうだけどさ…」
「もー!良い!?、苦労は買うてでもせなあかん!!覚えときぃな?」
僕は素直に好意を受け取った。
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バチバチ、バチバチ……バチバチ、バチバチ……
ここは…洞窟?
「おおお!!、やっと目覚めたか!」
初めて会った時のテンションでレイサがそう言った。
「レイサ…それ……」
変わらないのはテンションと言葉だけで、その身体は大きく変容していた。
「おおお!これか?これくらい問題ない」
いや、問題あるだろ。皮膚が黒ずんでる。焦げたみたいになってる。
「おおお、これは油症みたいなものだ。少し油を塗布し過ぎたみたいだ。」
前にみた油は、エコナ油?、樹脂だからサラダ油?みたいな普通の油だったが、今は、ダーク油みたくなっており、身体のところどころがなんとも痛々しい感じになっている。正直見ているこっちが痛い。
「大丈夫じゃないだろ、それ」
「おおお、いや、問題ない。」
「………」
「………」
どこまでいってもシーソーゲームなので、この話題は三つ折りに畳んで、その辺の溝に捨て置く。
「それで…やつは何だったんだ…?」
「おおお、やつは崩雷の勇者、そう呼ばれている。」
なんだそのミドルネーム、かっこいいじゃねぇか。というか勇者のくせに気が違いすぎるぞ。
「勇者って、もっと人助けとかするもんじゃないの?」
「おおお、そりゃ、17人もいるんだ。一人くらいああいうやつもいるさ。」
なるほど、やばいやつはどの世界にもいるということか。
てか、なんで17人もいるの?やばいじゃん、この世界。
「じゃあさ、すぐ逃げよう」
僕はそういってレイサの腕を取と、顔つきが変わった。
「…だめだ」
は?レイサ何言ってんだ?
「どうして?」
「…逃げ切れないからだ」
な!?嘘だろ?じゃあ、あのキチガイ勇者ってマジで強いってことか
「…だから私が残る。残ってやつの足止めをする。その隙に逃げてくれ…」
「そうだ、二人で残ってやり過ごすというのは?」
ドッアラゴッゴゴーン、ドッアラゴッゴゴーン、
入口から外を覗くと、空一面に雷雲が広がっていた。
「やつだ。ここももうじきバレる…今のうちに逃げるんだ。崩雷の勇者は狙ったものを決して逃がさないという…」
レイサはそう言うと、スキルホルダをいくつか取り出した。
「おおお、ここに私の全スキルホルダがある。私がちゃんと逃がすからそう心配するな。問題ない。」
良い人すぎる。どうして自分を犠牲にできるんだ…
「なぜ逃げないんですか?僕を助けるんですか?見当付いてますよ。“義侠心の呵責”でしょ?それのせいで僕を助ける。いや、助けなければ何かしらのステータスダウンが生じる、そうでしょ!?」
…しまった。つい言ってしまった。
「おおお、そうさ。この“義侠心の呵責”には、誰かを見捨てた場合に凄まじいほどのステータスダウンが発生する。」
「じゃ、やっぱり…」
「しかし違う。私が君を守るのは、このスキルが理由ではない。人助けが私の趣味だからだ。」
な、この人マジで言っているのか?、そんな顔でそんなこと言われたら何も言えないじゃないか…
理屈はよくわからないが、その時その言葉に僕は強い意志を感じた。
「わかったよ…」
僕は素直に好意を受け取った。




