6-8
今宵は、ストロベリームーン。
そう、君の家は厳しく、君と会えるのは、
塾が終わってから、門限である23時までの約1時間。
僕はその1時間を使って、
君との関係を進めてきた。積み重ねてきた。
「ねぇ、そろそろ僕たち付き合わない?」
急なタイミングだったのか?
切り口上で述べたことからか?
君はひどく驚いた顔をし、
瞳に涙を浮かべた。
「………すごく…嬉しい…。」
君の瞳は、この月と同じ色。
とても綺麗なストロベリー色をしている。
「でも、ごめん…ダメ…嫌なんじゃない!ダメなの…」
「どうして……!?」
「だって、同族だもん……」
「っ……!?」
「私が知らないとでも思った?君は同族…それに君は、とても妄想癖が強い。自分のことを人間だと思っている、」
「っ……!?」
「ふふっ、忘れてたでしょ?…確かに、君の心は人間的で、脳は科学的だ。でも、君は人間じゃない」
それが同族との、最初の出会いだった。
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「砕けろ!火縄銃!!」
「火炎スキル:フレイムバレット」
「音スキル:爆音」
「ぐっ…」
「がはぁ…!?」
ヒーローの狙撃も、
殺陣師の湾曲した火捌きも、まるで歯が立たない。
戦闘開始から、2時間。、
この部屋には、ぼくとジェーク、そして目の前にいるぺてん師だ。
ネアさんも含めた補給班が、地下に閉じ込められてると知った途端、みんなそっちに向かってしまった。
どうなってるんだ?みんなして…
確かに、補給班が確保した食料は大事だけれども……。
「ランドリー…みんなが戻ってくるまでなんとか時間を稼ぐんだ!」
「ナンセンスな男だ……」
「火スキル:蛍火」
「音スキル:超音波!」
インチキ占い師が、
ジェークの火を消し去り、物陰に潜めていたぼくにダメージを与える。
「がぁ!?」
くそ、音の回折か……
「ジェーク!一気に叩くぞ!」
それは漆黒の夜明けの異名を持つヒーロー。
雲は友達という独特なキャッチフレーズを持つ。
「モード:シュヴァルツ」
脳がコバルトブルーを奏でる。
「うおおおおおおお!」
どこからともなく出現した黒雲がぼくに纏わりつく。
「おい、大丈夫なのか?それ?」
「っ!?その姿は……」
感覚としては、ダウンジャケットを着てる感じだ。問題ない。
「雲玉」
ぼくは、雷雲を凝縮した弾を形成する。
趣味はバスケだが、
別にプロでもブザービーターでもない。
そんなぼくでも、ヒーローの力が補正してくれる。
「よし、俺も特大のを!爆炎スキル:プロミネンスバーン」
「音スキル:ハイパーノイズ」
占い師のスキルとぼくたちのスキルが均衡を保つ。
「うああああああ!」
「うおおおおおおおお!」
くっ、均衡が崩れてる。
よし、ここだ!
「ぼくの技は二段階なんだ!煌めけ、ライトニングノヴァ!」
雲玉から発生したヒーローの稲妻が
大広間をメタリックイエローに染める。
「くっ…想定外だ……」
「よし、ランドリー!追撃だ!決めるぞ!」
「合わせる!!」
よし、ここで新たなヒーローの技を…。
ぼくの脳が緋色に…………
「なるほど…分かったぞ!音スキル:不協和音」
「ぐっ…あああああ」
なんとも、心と身体がズレた感じだ。
この不快な音が心と魂との確執を生じさせる。
「ぐっ!?……ズレる…ズ…ズ…レ……」
ダメだ、アドレナリンが切れた。
意図的に痛覚を遮断してたが、もう限界のようだ。
「っ…あぁ…」
身体から黒雲が消え、変身が解ける。
「ま、まだだ……」
脳がビリジアンブルーに………。
「がぁぉぉぉぉぉぉぁぉ」
いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい…
忘れていた痛みが、ぼくを襲う。
多分、今まで無視してきた痛み分、蓄積分がより一層ぼくを襲う。
「火炎スキル:ファイアウィップ!おい、ランドリー!しっかりしろ?急にどうしたんだ?」
「音スキル:音幕!そこの男の心の音をズラしたまでだ!!」
焦燥感、マリッジブルー………。
ダメだ…さっきから色々な記憶を引っ張り出してるが、一向に収まりそうにない。
「火スキル:花火」
ジェークが大規模な目くらましを行う。
「おい、大丈夫か!ランドリー…一旦ズラかるぞ!」
「……ジェーク…後ろ!!」
「音スキル:ビートレッグ」
占い師が、音波を纏った蹴りを放ってきた。
ぼくは、CQCの経験から、なんとか躱す。
しかし、
「ぐっ…はぁ…」
ジェークは、もろに喰らい、扉の外まで飛ばされる。
「ジェーク!!」
「余所見とは寂しいな?」
「がはぁっ!?」
肺の空気が抜けるとともに、壁に激突した。
「くっ、くそ……」
早く痛みを遮断しないと……
そんな焦りが身体との軋轢を生じさせる。
不快な音は鳴り止まない。
「水スキル:水車」
「エンチャントスキル:脱気」
ん?、この声は……、、
振り返ると、そこにはみんなの姿が。
ドアからぞろぞろと入ってくる。
みんな…無事だ。
ネアさんも、ジェークもいる。
「……ぼくの勝ちだ……」
なんとか時間は稼いだ。
勝負に負けても勝つとはこのことだと思う。
「誰の勝ちだと?」
「ぼくの勝ちだと言ったんだ!ジュノンボーイ?」
「……そうか…やれ!!」
「エンチャントスキル:失活」
「ぐっ…はぁ!?」
ベノアさん……何をして……
「何を驚いている?私たちは皆、ネアの味方だ!」
は?、何を言って……
「染めてあげよう!やれ!」
「鏡スキル:ファントムミラージュ」
幻影がぼくを取り囲む。
カノンちゃん!?
「水スキル:寄生水」
雑排水のようなものが、耳から入ってくる。
おい、やめろ!!!
「エンチャントスキル:魅了」
ベノアさんから、魅了の光が飛んでくる。
「火炎スキル:チャームファイア」
おい、ジェーク!!!
なんで、そっち側に!?
ジェークの頭上に火球が上がる。
多分、見た者を魅了を効果でもあるのだろう。
最後に、ネアさん………。
その、ストロベリークォーツのように美しい、両眼がぼくを離さない。
双眼が、仄めかしい輝きを宿す。
その月のような光に、
ぼくは溶けていった…。、
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〜カルバル町の酒場〜
「ギャラクシードーナツを2つ!」
「私はエンペラーミルクを!」
「はい、これはお通しです!!それではお作りしますのでお待ちください!!」
この酒場は、昼はごった返してるが、
夜はてんで静かだ。
それは、この町の年齢層が高いから、というのが一説だ。
私たちは大抵、夜にこの場所を使う。
「で、シャリーヌ…。話って?」
「ねぇ、師匠、!私の精神干渉が効かないってどう思いますか?」
「シャリーヌの精神干渉が効かないってことは、そいつは岩かなんかだ!以上!」
私は、師匠の元で精神干渉スキルをひたすら磨いてきた。そして、勇者にだってなれた。
人間だけじゃない。
魔物にも、悪魔にも、アンデットにだって効果はある。
「効かないっていうか、
把握はできるんですけど、操れない感じですね!感情を揺さぶれない感じで!
掴めばするんですけど、彼自身が心を制御してる感じで……」
彼の心を覗いた。
底までは流石に無理だけど、浅くなら観れると思った。だけど、なんとも複雑怪奇な心だ。気色悪かった。同じ人族かどうかも怪しく感じる。
「いいかい?もともと意思がないものは洗脳できないんだ?岩と同じで!ただ、心が強いという可能性もある!そう、心の勇者であるシャリーヌのスキルよりもな!」
そう、私は心の勇者。
勇者の武装を使ってないとはいえ、
私のスキルを上回る心の強さなんて信じたくない。
「それで?その男は今どこに?」
「それが!消えました!ゾラ町で、
ギルドマスターとイチャイチャしてる間に!」
「スキルによる追跡はしなかったのか?」
「もちろん!魔法陣は仕込みましたよ!ただ、運行馬車に乗り込んでしばらくして……何者かに掻き消されました!!」
「っ!?シャリーヌほどの腕前で掻き消されただと!?」
「ええ、だから少し、気がかりで…」
ほんと、なにやってるだろ?あいつ、どこかで洗脳されてなければ良いけど……