3-4 クオリア
皆様には、夢や目標があるだろうか………
僕にはある。それは好きな人と最期を迎える事。
でもそれは、まだ君に言えない。
「ねぇ、この前言ってた人生の目標?そろそろ教えてよ~」
ごめんね、まだ言えないんだ。
「ねぇ、あれからもう一年だね、そろそろ教えてよ~」
まだ言えない。
だって君のせいだよ。君が言えなくさせるんだ。
「子供も生まれたし、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
言えない。言えないよ………
だってさ、君じゃないもん。好きな人って…
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8時22分。目覚めの時間だ。
日経平均株価を確認しようとテレビのリモコンを探そうとして、気づく。
そっか…ここは僕の家じゃないんだ……
無知と言えば、ドストエフスキーの白痴だが、
どうもこの世界は無知で生きていけそうにない。
僕は、道化師のギャロップを口ずさみながら、支度を進める。
「なんか、実感がわかない…」
あれから約一週間。何もわからずこの世界に居た。
実はあれから何度も記憶を探っているのだが、あまり成果が得られない。
まず、
自分が着ていた服と家を出た時と、最後の記憶との服装が一致していない。
このことから、自身の記憶の信憑性が疑える。
僕の〝記憶〟なんて
まぁ、良い。とりあえず、今はギルドだ。
「さて、行きますか!!」
僕は、ニコ・ティンバーゲンの問いについて考えながら、
部屋のカギをそっと閉めた。
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「あれ?まだかな…」
一階の食堂を見渡すも、エルザさんらしき人が見当たらない。
というか、他の客も見当たらない。
僕は、いつかのアニマルビデオで知った、閑古鳥の鳴き声を思い出しながら、
適当な席に着く。
それからしばらく、蛍の光を口ずさんでいた僕は気づく。
さすがに、静かすぎると………
「す、すいません!!」
受付にも人はなし。
食堂に突撃するも、お茶を引いているわけではなかった。
「エルザさん!!」
僕はすぐさま二階に上がり、エルザさんの部屋をノックするも……
「音がしない?」
というか、人の気配が感じられない。
「エルザさん、入りますよ!!」
カギは………かかってる?
僕は、二回のショルダータックルと蹴りでドアを破壊する。
「っ!!エルザさん?」
いない、エルザさんがいない。
部屋には荒らされた形跡がなく、
エルザさんがいつも持つあの大荷物も見当たらない。
ベットは…冷たい。
「一体どうなっているんだ?」
窓から外を伺うも、だめだ。
千鳥打ちもどきの庭があるだけで、人が見つからない。
「…ゾンビパニックか…催眠系か……世界消滅系か…」
だめだ、似たような事例を探すが、ヒットしない。
荷物がないのと、生活感を感じられない二点が謎だ。
僕は、腹式呼吸で、心のコンディションを整える。
「とりあえず、村の捜索だ」
一応、受付にカギを置いてから、宿を出る。
向かうは、次の目的地であるインカ街の方角の門だ。
もちろん、あらゆる場所を目視しながら向かう。
「どこも片付いている…」
昨日はあんなに賑わっていた村も、今では静寂に包まれ、
屋台や出店なんかも綺麗になくなっている。
「まだ、早朝だろ?昨晩に何があったんだ?」
もうすぐ、門だ。
ここまでで誰も見かけてない。
「くそ、一体どうなって…」
門が……空いている?
まさか、みんな門から出ていったのか?
「精神干渉スキル:マインドハック」
「だれだ?!」
身体に白い魔法陣が出現する。
これは……魔法?
「だれだ、どこにいる?」
「…これは……驚いた!」
どこだ…どこから声がする?
先代の経験則といえば、マーフィーの法則だろう。
「てりゃ!」
僕は、腰のベルトを引き抜き、闇雲に投げる。
そして、靴を、鉄の棒を、石を追儺みたいに投げる!投げる!ばらまきまくる。
「ちょっと、危ないじゃない!」
「そこか!」
僕は、声の主の場所にあたりを付け、
逆方向にある民家に避難する。
「武器は…何かないか……」
僕は物色する。
包丁はなし、奥の方はどうだ?
お、これだ!!
ワードローブから、長剣とチェーンアレイを拝借しようとして……
「ちょとちょと、まさかそれで私を攻撃するんじゃないわよね?」
後ろか!
僕はクラッチ操作で感情を引き出そうとして…
「ちょっと、もう!精神干渉スキル:malfunction」
「う、動け…」
「ちょっと落ち着いてよね!私は敵じゃないから…」
敵じゃない…?
「いや、落ち着いてっのもおかしいか…」
こいつは誰なんだ?
「さっきから君の精神に干渉してるからわかるけどさ……」
「え?」
「焦ってる感じ出してたけどさ、君って全く動揺してないよね?最初から。」