2-6 ゴブリンゴブリンゴブリン
Gyaaaa、Gyaaaa、
「よし、だいぶ数が減ってきた」
僕は、かかと落としでゴブリンの頭を砕き、縮地の要領で、斬撃を躱す。
Gyaaaa、Gyaaaa、
顔面にエルボーを打ち込み、迫るゴブリンをアッパーで退ける。
Gyaaaa、Gyaaaa、Gyaaaa、Gyaaaa
木の枝を利用したターザンキックからの、唐竹割りで大型ゴブリンを完封する。
Gyaaaa、Gyaaa
示現流トンボの構えから上段袈娑を放つ!!
「はあ、はあ……?」
ん?周りのゴブリンたちが一斉に引いていく。
そして、手前のゴブリンが距離を空けだした。
「…あれがボス……」
向こうから何やら全身鎧のゴブリンがゆっくりと歩いてくる。
剣を 持ってるからゴブリンソード?いや、剣士というより、騎士だ。
なんとも中ボスっぽい雰囲気を醸し出している。
「はあ、はあ、はあ…」
僕はゴブリンナイトと対峙する。
どうやら、周りのゴブリンたちは完全にオーディエンスに回るようだ。
…多分、この勝負の間だけ。
一騎打ちか…なんとも騎士らしいことだな。
僕は、剣を持つ方の足で大きく踏み込もうとして…
ラベンダーの香りが広がる。
「っつ!?」
剣先が迫る!!
僕は地面を転がって回避する。
速いってもんじゃない。あの距離を一瞬で!?いや、そんなことより!!
「うりゃあああああ」
僕は迫るゴブリンナイトを背中に感じながら、勘だけで飛び後ろ回し蹴りを放つも、左肩に突きを入れられてしまう。
「うがあらあああ」
痛みをこらえながらも右の袈娑を繰り出すが、当たらない。やつは既に距離を取っている。ヒット&ウェイというやつだろうか…
僕は左足を前に出し、柄を自分の顔面のやや右に位置させ、切っ先をやや後方に構える。
感情のレバーを下げ、心を無にする。
そして、僕の構えと張り合うようにゴブリンナイトの剣が黒緋色に輝く。
あれは、ゴブリンストライク!?ならば…
「剣スキル:月光」
このスキルは、一定時間、どんなボロボロの剣でも、夜空に輝く月の光をその一身に受けたような眩い刃に変えるスキルらしい。形質転換というよりかは、切れ味を増したような感覚だ。
ここで、あのお姉さんに頂いたスキルホルダが役に立つとは…
「うああああ!」
ガキン、ガキン、ガキン、ガキン
派手なライトエフェクトとともに剣と剣が幾度となく火花を散らす。
口の中のアンキローシスが砕ける。
「く、くそ!!」
さっきから、防戦一方だ。
やはり、騎士というだけあって剣の扱いが上手い。
それに動きも良い。目線でのフェイントやつま先を踏もうとしても、すべて見破られる。どうすればいい…
僕は、チアダンスの要領で左からの水平を回避し、再び足を踏みにかかるも、躱されてしまう。
「まだ、まだだ」
僕は長期戦を想定し、後にプライミング効果を発揮すべく、“右手で剣を振る際に左手を先に下げる”という癖を相手の脳に刷り込ませようとするも、
「!?あれはなんだ?」
ゴブリンナイトが剣を振り上げた状態で止まっている。
さらに、剣に闇の力?的なものがゴブリンの死骸たちから集まっていく。
距離が空いてることから、長距離攻撃だと推測できる。
ラベンダーの香りが広がる。
「………レイサ…」
僕の手に光の刃はもうない。あるのは、刃こぼれした剣のみ。
でも、ここで終わるわけにはいかない。死ねない。
脳裏に浮かぶのは、僕の世界で一世を風靡したあのヒーロー、マダグラ・ダイヤモンド。
大した動機もなく、独学で磨き続けた彼女の剣技は、一言で表すなら、“カウンター”。
あらゆる斬撃を跳ね返すというその設定はその当時最強とされていた。
そんな侍ヒーローの代名詞とされる技が、“六ノ兜”。
「レイサ…力を貸して……」
僕にできるのか?いや、やるしかない。とりあえず落ち着け。
この技は、打つ直前まで脱力しておき、打つ瞬間にグリップを握ることが第一段階。
力づくで振り下げるのではなく、瞬間的な点に強い力を与えることがコツ。
つまり、感情を一定の起伏から爆発させる技術が求められる。
「すー……」
僕は心のジャンクションを切り替える。
気持ちを乗り換えるんだ。この際、キセル乗車でも構わない。
「すー……」
ゴブリンナイトの剣が闇の力で膨張している。
僕は、感情にサイドブレーキをかける。自然とエンブレがかかる。
「すー……」
構えは、八双構え。懐の勾玉が光り輝く。
そして音が消える……
「来る!!」
ゴブリンの秘技とヒーローの秘技。
その衝突は、ヒーローの力を以って幕を閉じた。