2-2 寂しい時くらい、私が手を握りますよ
「今日、逢わない?」
「僕もそう思ってた」
変わらないいつものやり取り。
どちらがはじめたのか分からないけど、いつしか習慣となった君とのやり取り。
「実は、今日ね…」
たわいもない話は決まっていつも君から。
僕は、そんな君との日常が好きだった。
その日は、ほんとに偶然。ただの気心。ふと思ったことを呟いた。
「あのさ、ほんとに逢わない?」
僕はまだ君に一度も逢ったことがない。
けれど君は、僕のことをどうも知っているらしい。
そいいえば、初めての電話は君からだっけ…
「……良いよ。逢お!!」
それが君と話した最後の言葉だった。
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チュンチュンと、小鳥が鳴いている。
8時22分。さぁ、目覚めの時間だ。
僕は、身体の骨を鳴らしながら、洗面台へ向かう。
ここは宿屋。僕が運び込まれた部屋だ。
ちなみに、この宿の主人の娘であるシーナとベテラン冒険者エリザさんは、隣の部屋だ。
文明レベルは中性だろうか。アイランドキッチンみたいな場所に水の入った桶が置いてある。パシャパシャと顔を洗いながら今日のスケジュールを思い起こす。確かそう、ここエル村で装備を整えてから、二日という長い道のりを経て、インカ街へ向かい、ギルド登録するんだ。
そうそう、
どうして、勇者と闘ったあの、トレントの島から遠くはなれたこの村にいるのかと聞いたところ、エリザさんのスキルホルダ、テレポートを使ったらしい。
なんでも、セーブポイント?までワープできるらしい。ランクは金だ。
ということは、エリザさんも名の知れた実力者になるというわけだが…
僕はふと、両手のマメを見つめる。
「…力が必要か…」
この世界にずっといるにしても、元の世界に帰るにしても、時間がある程度かかると推測される。
よって、強さや情報、金を稼ぐといったことが必須となる。
つまり、まずはギルドだ。
「よし、行くか!!」
法界定印によって徳を高めた僕は、部屋を飛び出した。
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このエル村の気候は、春先くらいだろうか。微暖の候というやつだ。
「あ、ティーさん!おはようございます!」
一階に降りるとミニスカローブ姿のシーナが声をかけてきた。
「少し、寝過ぎじゃない?」
そう言うのは、我らがエリザ様。姉様というイメージが強い。
「おはようございます!!」
そう言って僕は、二人と同じ席に着く。
「遅いんで、いくらか頼んじゃいました!!」
この宿の一階は、主に食堂となっている。
だが、今は早朝?のせいか、僕ら以外の客は見当たらない。
いつもは、大繁盛の店と言っていたが……
「へい、お待ち!!」
うわ、こわ!この人!!なんだろう、エルンスト・グレフェンベルグみたいな髭が生えてる。
「美味っ!!」
てか、美味しい。このGABA米もたいなのもおいしいし、ん?これも美味だぞ!菊花酒に似ている。
燗をしたら、もっと美味になると思う。
「ふふふ、ティーさんってほんとにおいしそうに食べますね」
シーナはそう言いながら、微笑みかけてくる。
あ、これが一目惚れってやつか。シーナってほんとに癒し系だな。
正しくヒーラー…というか、こういて二人を並べてみると、シーナ、エリザさん、どちらも目を引くような魅力がある。シーナが可愛い系、エリザさんが美人系といった具合だ。ただ、エリザさんは、時々こちらを観察するような目を向けてくる。それさえなければな……
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朝食を終えた僕たちは、店の外へ出た。
代金は、エリザさんが払ってくれた。金を持っていないことを伝えると、眉を顰められたが……
春先だからだろうか、クールビズなのか、ウォームビズなのか分からない服装があちこちでみられる。
中世のヨーロッパ的な村だけあって、ボリウッド映画の一コマのようだ。
「じゃあ、一時間後、村の門に集合ですね」
シーナの言葉により、僕たちはいったん解散となった。
僕はとりあえず、武器を扱ってる店に行くことにする。
「それにしても、賑わってるな」
村の統計を知っているわけではないが、村のイメージよりも、人がずっと多い気もする。
あ、屋台で京巻きみたいなやつが売ってる。
「とりあえず、一銭も持ってないのはおかしいか…」
僕はすれ違う重量級戦士から、財布を抜き取る。
「なるほど…5000ワイか…」
そして、すかさず、持ち主の懐に戻す。それを繰り返す。
「お……」
だいたい、タワイフ?ヘタイライ?みたいな高そうな服装の人たちは10000越えが多く
、それ以外は5000前後ってところか…
そんなことを繰り返しているうちに、武器屋っぽい建物が見えてきた。
パプアニューギニアの旗のようなものがかけられている。
というか、今のところ、文字も言葉も日本語で大丈夫そうだ。
「へい、らっしゃい!」
入ってみると、すし屋の大将みたいな人が受付をしていた。
「うわ、派手!!」
内装がカラフル。そして武器のデザインもカラフル。
神楽鈴みたいなものに、これは破魔矢?、タワーシールドやパルチザンと、バリエーションは充実している。
「これは?」
僕は、木刀を手に取る。これは…イスノキか…?
「それはな、トレントの木で作られた木刀だ。」
トレントの木だって?ほしい、ほしいと思った。
でも高い、18000ワイもする。さっき拾った10ワイしか持ってないよ…
「10ワイで買えるものって置いてませんか?」
「…なめとんのか?」
わ、ちょっと怒ってる。ここは実力行使しかない。
「てりゃ!!」
僕は、手にした木刀を、シャンパンサーベルの要領で振って見せた。
どうだ?ん?顔色が変わった?
「……ちょっと待ってろ…」
店主はそう言うと、店の奥から錆びたショートソードを持ってきた。
「…ったく、ずぶの素人じゃねぇか。それは処分寸前だったものだ。ただでいいからもってけ。ないよりかはましだろ。」
なんか、すごく錆びた剣をもらった。手でも砕けるレベルの脆さだ。
「ありがとうございます」
僕は、布を鞘の代わりにして、店を去った。
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「まぁ、そりゃ素人だし、しょうがないか…」
そろそろ時間だ。僕は、村の門へと向かう。
「ん?」
シューベルトの俺の尻を舐めろという曲を口ずさみながら歩いていると、
なにか気になるものを見かけた。
「ほら、早くしろよ!」
二人の男が、プロスティテュート?みたいな女性を囲ってる。
月下氷人とのトラブルだろうか…声をかけるべきか否か…
僕は、己のリベラルアーツを信じて声をかける。
「あの~、結婚式の手紙を出したいんですけど、この辺にポストはありますかー?」
「ヴあ?なんだてめえは?」
どうやら声掛けをミスったらしい。
「や、だからハガキを…」
「うるせーぞ、よってくるんじゃねぇ!!」
あ、女性がとても冷たい目でみてくる。いやいや、助けようとしてるんだけど?これでも一応。
「やっちまうか!!」
「打撃スキル:パワースマッシュ」
男の左手が目の前に迫る。
「っく、早い!」
僕はイナバウアーで回避し、続く蹴りのラッシュをバク転で避ける。
「毒スキル:ホーミングポイズン」
もう一人の男から、毒々しい光が飛んでくる。
「っく、」
僕はたまらず、後転して避けようとするが、毒の光は追尾してくる。
「ぐっは…」
食らってしまった。眩暈がする…が、思い込みでなんとか耐える。
「打撃スキル:パワースマッシュ打撃スキル:パワースマッシュ打撃スキル:パワースマッシュ打撃スキル:パワースマッシュ打撃スキル:パワースマッシュ」
そこに、スキルの雨が降り注ぐ。
一発目こそ、ジャストガードしたものの、二発目、三発目と、拳が続々と突き刺さる。
「ぐっは…く…」
「恋愛スキル:ラブシャイン」
そこに現れた彼女はまるで救世主のようだった。
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「えっ…スキル一つもないんですの?魔法もなし!?」
どうやら、スキルも魔法もなしというのは、かなり希少になるようだ。
僕は今、助けてくれた女性と一緒に歩いて門へと向かっている。
「よくそれでけんか売りましたわね」
「いや~ほっとけなくて…」
あのチンピラの二人組、実はめちゃくちゃ弱い部類らしい。
この世界の人は、生まれたてでもだいたいスキルを5つは持っているという。
どんだけだよ、この世界。水準が高すぎやしないか?
「では、私はこの辺で……あ、これを!」
そう言うと彼女は、なんかサニタリーボックスのようなものを渡して去っていった。
あ、名前聞くの忘れた。
「っく、痛い…」
痛い、情報が流れ混んでくる。どうやら銅級のスキルホルダのようだ。
勇者との一戦から、どうもスキルホルダから流れてくる情報量が増えた気がする。
ちなみに、この現象だが、どうも僕だけらしい。普通は、痛みや情報など流れてくるはずのないという…
一体この痛みは何なんだ?ASMRに近い気もするが…
それはそうと、銅級とはいえ、スキルホルダをポンと差し出す、
あの、サマードレスを着た女性は一体何者なのだろうか…
とにかく僕は、門へと急いだ。