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2-1 ティー・ボール




僕は君に会える水曜日が楽しみだった。



君は、米が苦手で、2月2日も、明太子フランスパンで代用するという。



そんな君との思い出深いエピソードといえば、



確か、ザルツブルクの大学で一緒にお昼ご飯を食べていた時のこと。





「デカルトの人間機械論ってあるでしょ?」





「あの、人間は機械的に証明できるってやつでしょ!」





「そうあれね、ちょっと違うと思うんだ…」





「違うとは?」









「機械的に証明じゃなく、ほんとの機械なんだ。君はほんとは機械なんだよ。ほら、やろうと思えば、脳や心臓、心という概念にさえ、働きかけることができるかもしれない。ほら、練習。練習。」















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知らない天井だ。


僕に、ソーシャルジェットラグは存在しない。ということは、8時22分だ。


それはそうとここはどこだろう。どこかの家のようだ。


少なくとも、日本家屋ではないので、今までの出来事が夢である可能性は低いが…




ん?あの天井のしみが地味に気になる。バロキサビルマルボキシルの構造式みたいだ。





「っ、痛!!?」


無意識に頬に残るタトゥーシール痕に触ろうとして、身体の痛みに気づく。





「あ、勇者があああああ」


記憶が矢継ぎ早に蘇る。雷、勇者、レイサ……






「お!、やっと起きたみたいだね」


意識が回想の底から浮上する。








そこには、小柄で元気ハツラツを感じさせる、少女がいた。












「…君は?」




「私?私はシーナ。この村のヒーラーなの。君は?」




「僕は、ティー・ボール。シーナさんが助けてくれたの?」




「違うよ。ティーくんを助けてくれたのは…」




「私よ」




そう言って入ってきたのは、刃創が特徴的なスレンダーウーマン。


鈍色の御衣がとてもよく似合っている。あの髪飾りはシロイヌナズナだろうか。




「あ、エリザさん!!」



「どうやら起きたみたいね。調子はどう?」



「おかげさまで!僕はティーです」



僕は、キメ顔で左手を差し出す。



「ティーね。了解。色々聞きたい事があるの。着替えたら下に着て頂戴。」






そう言って、エリザさんは下の階へと降りていった。















「……………」


「……………」








え、なんでこの人は残ってるの?先にいっててよ。








何この空気。


果ていなく気まずい……

















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僕は、なかなか下に行かないシーナさんを追い出し、

用意されたパンツと長T?を着ながら、設定について考えを巡らせる。


ちなみに、もともと着てた服は、勇者のラストアタックで跡形もなく消し飛んでしまった。






「さすがに、レイサのようにはいかないよな…」




正直、インプロには自信がない。MENSA会員になれるほど、知能指数が高いわけでもない。


とりあえず、結跏趺坐のポーズで考えをまとめることにする。






一番は、マクラに記憶喪失をもってきて、ツナギに情報収集。チラシで紐になる。という流れだ。




………よし、これでいこう。あとは、持ち前の度胸とレトリックで勝負をかけるしかない。

大丈夫、これでも職業適性ランキング第16位が俳優なんだ。




「レイサ…力を借りるぞ…」





僕は、あの雨が期末の水となった、レイサを想いながら、ひび割れた勾玉を強く握った。














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24の人格があるといわれる男。ビリー・ミリガン。


彼は解離性同一性障害であるが、同じ人間の脳の構造を持つ僕だって、猿真似程度なら、なんとかなる。







「……そうなんです。記憶が抜けけて…」




僕は泣きながらパニックを装う。使うのは、ネオフォビアだ。





「わわ、とりあえずこれで拭いてください。」




「そう……」




わ、すごいこの布。今治タオルに似た感触がするぞ。




「つまり、何も覚えていないということよね?」




「…はい、そうなんです…」




今度は、サバイバーズ・ギルト。





「そう……」





僕の、ロングスカーレット芝居は、夜まで続いた。










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「ふう…」



僕は今、個室に一人だ。


僕は、決死の芝居で得た情報を整理する。




まず、身元だが、記憶がないという事でどうにかなった。



ただ、勇者を一般人を相手するなど、普通ではあり得ないことらしく、かなり怪しまれた。

一応、レイサの名前を出してはみたものの、知らないと言われた。あんだけ強く、戦えるのなら、有名でも不思議ではないはずなのに…



ちなみにスキルホルダは、形は様々だが、銅、銀、金と段階があるらしく、

レイサからもらったスキルホルダのほとんどが金(一部は銅)だったと伝えると、正気を疑われた。

なんと、金一つで家が建つらしく、よっぽどの金持ちか、伝説級でもあり得ないらしい。

…野性の勘なんて、ブラックパールみたいなのでできていたが、そのことについては一応黙っておいた。

てか、サンクコストえぐいな、これ。



ちなみに、通貨の単位は“ワイ”多分、日本円とそう変わらない。

通貨も硬貨と札で、紙質はどこかボリバル札を思わせる。

ほんと、ジンバブエドルじゃなくてよかったよ、ほんと。



次に僕の体の話。ほとんど全回復だ。傷は残るものの、異常は見つからなかったらしい。異常ってなんだよ。陽電子放射断層撮影みたいな魔法でもあるのだろうか。

気になるのは、ボディマス指数が増えたことくらいか…



最後に彼女たち、二人のことだ。

シーナは、この村、エル村唯一のヒーラー。癒し系って感じで思わず、スジャータって呼んでしまった。もうスジャータ村で良いでしょ、ここ。

エリザさんは、僕をここまで連れてきてくれた恩人、なんでも名のある冒険者らしい。



ちなみに、僕の因縁の敵、勇者は、なんと17人もいるらしく、17の勇者、そのうちの一人、崩雷の勇者は、かなり有名な輩らしい。当たれば必ず崩すというあの雷を自在に操り、数々のダンジョンごと敵を消していった話がたくさんあるという。僕は、抵抗値の塊であるマーベラスで受けたから無事?でいるが、その話はレイサの凄さを一層引き立たせる。ほんと、何者だったんだ?



さらに、やつのモダリティ?バイアス?その妙諦的なあれに共感し、崇めている集団があるらしい。なんでも、オフショアバランシングを行っているとかいないとか……



元の世界にも、バラモン教、ブードゥー教、ゾロアスター教、モルモン教など、様々な宗教文化があるが、この世界にも何かしらの宗教があるということか…



最後に飯だ。“美味の館”という建ぺい率が低く、高さのあるレストラン?リストランテ?に連れていかれた僕は、それはもう、快哉、悦に入った。ウランバートルで食べた、プルコギ丼を思い出す味だった。



そして、これからの方針。

明日、この村を出て、大きな街に行き、冒険者専用組合:ギルドに登録する予定だ。

なんと、エリザさんとシーナも途中までだが、同行してくれるという。











今日は筋トレして、素振りとイメトレしてから寝るとする。













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