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14-2 踏み躙って絞り出す、ワインのように



私は地獄から来た。





屍山血河な岩が帆立し、屹立した死臭が川のように広がっている。葡萄色の乾いた沼地では、デッドパピヨン達が己の蝶道を誇示しようと欣喜雀躍している。限界分譲地問題に発展しそうな勢いである。






地獄とは人を罰する場所ではなく鍛える場所であると遠い昔に誰かが言っていた気がする。



ある日、私はこの街に流れ着いた。


私はこの街で生まれ育った訳ではないが、

この街が大好きだ。好き好き大好き超愛してる。故郷とさえ思っている。





偉容を誇る時計塔。

小鳥達から届く、甘い朝のメッセージ。

大公園にある、水圧の強いトイレ。

リーンな食事が売りの行きつけのレストラン。



根絶やしにされた者、飾る為に殺された者、

屍畜を言祝ぐ者、弑虐を好む者、屠体給餌なんて概念すらもない街。




「ノゾータ〜人に愛が芽生える時は、その人のことを楽しそうに語った時らしいね!だから私、今芽生えたよ〜好きなとこ?色々だよ!」



人族の友達だってできた。

ギルドに入っていっぱい冒険した。




「この前行った、膏粱子弟が集うBAR覚えてる!?ほら、繻子が綺麗だねって話とこ!!今、ぬい撮りが流行ってるんだってさ!」




変化が少ない故、去年のことを言ってるのだと思ったら、実は10年前のことだったりする。10年前と一年前をごちゃ混ぜにしても違和感がない。


賑々しい日々ではなくとも、

それは素敵なことだと思う。




私は、一度身につけたものは手放すことにしていた。欲望に悖ったりしないようにと。


でも、もう良いの。


臆することはない。

幸せになるんだ。


思い出せない思い出は全て無かったことになるのか?


そんなことは誰にも分からない。


けれども些末なことだ。





後悔はいつだって後に立つんだ。

そういつだって。



だから私はやるべきことをする。



多くの〝みんな〟が平和を望んでいる。

でも、平和を望む人以上に、平和よりも利益に魅入られる人達がいる。



だからそういう輩を駆除し、

私は今日もこの街の平和を守る。




「君!綺麗だね!!!ただのレイプじゃ勿体無い玉体だ!!心臓を直に犯してやろうか?」


「女に振り回される人生は楽しいか?変身スキル:ドレスアップ、葬導士•ギフテッドマジシャン!」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





元始、女性は実に太陽であった。真心の人であった。今、女性は月である。他によって生き、他の光によって輝き、病人のような蒼白い顔の月である。


平塚らいてう









俺か?不殺者だ!



死なんて不要だ!



小さいことは気にするなだと?

小差が大差を生む?



いや、小さいことも何も、

不要なものは不要なんだ!




人を辞めたか、人外だと!?

そう?俺は誰よりも人間だが?



何?死があるから生がある?

困難を乗り越えて人は強くなる?


生と死は反対のものではなくて、

生の中に死がある?

死の中に生がある?



何言ってんだ?


ああ…神も、幸せを一人に一つずつ配ってくれたら良いにな…


そんな、苦難を超えた先にとか、物騒なこと言わずにな!





大体の人は斬れば死ぬ…巨大化させたり、火を纏わせる必要などあるのか?




剣呑なのは結構だが、

水で薄めたような剣技、ぬる過ぎる!


あと、女!

抜き身の剣のようだな!


業物のようだが、手入れがダメだ!

どんな鈍にだって、刀工の念や願が入っているものだ…魔剣や聖剣など存在せぬ!

剣は、買ったその日から古くなる物だ!!!

いくら、メンテしようともな!


剣とはなんとも、腹落ちする言葉だ…




男!!惚れた女のために死ぬのは漢の花道だ!分かる!だが、俺の前では死は不要!誰も殺させぬ!


周囲の批判を受けても挑戦できる人のようだな!泣いてる女の子も涙を拭える男になれ!

泣き顔の似合う女なんていないのだからな!

お前は弱すぎるのだ!



思うところは色々あるけど、愛してしまったものは仕方がない!それも分かる!








「さっきからうるせぇよ!!魔法はその日の心次第なんだよ!!火炎魔法:ブレイズアロー・アングルショット!火炎魔法:ブレイズアロー・ドライブショット!」


「合う人を見つけるんじゃない!合わせたい人を見つけるんです!!!剣スキル:フォワードカーブ!」


「それは…中途半端な愛…上級風魔法:サイクロンモビール!」


「心を砕いて心を尽くす!依存?執着?違うよ?恋愛だよ!恋愛!鉈スキル:喫食!」


「人は探してるものしか見つけない!だからそうやって不死に囚われるんだ!ヒーロースキル:変身!モード・サーベイ!」


「不死か…それは強さでもあるが、同時に限界でもある!!鬼スキル:傲岸不遜!」


「服はまず着て慣れよってか?拳スキル:ペナントナックル!」







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「復讐しなくていいの?その未練、燃えなければ灰にすらなれないよ?」




都会のネズミと田舎のネズミという童話に影響された私は、王都に進出し、啀み合い疲れ、実家へと帰ってきた。



得意な絵画魔法で一山当てようと、

有名な魔女アーティストの元を訪ねたが、身だしなみを整えてないとテーブルに着いてさえもらえない。


筆を折った画家である私は結局、

馬の競りや艇の競りで金を溶かし、帰港した。




鉄条網だらけの畑。

いつもの帰り道。


ゲレンデマジックすらも打ち消してしまう程、酷く荒れた奇特な地。

そこから喫水制限で一躍有名になった、シェルベットのある運河を渡ってすぐに私の実家がある。




まず目に入ったのは、

神託結婚した際に採択した、葡萄茶色のソファベッド。

幼い私が、雪見障子に貼り付けた、聊か利発そうな家族写真。


桜守をしていた頃の父と神経症的傾向が低い母。そして人の温もりに安息感を覚える赤ちゃんの私。


何故、ラブなホテルの前で撮ったのかは何となく未だに聞けずにいる。



なんだろう、この空気。

青息吐息な気分を抑え、

家具が散乱した部屋をドギースタイルで進んでいく。アンテナショップでディスカウントしていた、人が入れるくらいの大型のゴミ箱と、邪魔なヨガホイールを退かしたらもうすぐベランダだ。


縢る安心感を手放す前になんとか、

風に靡くミニトマト畑にたどり着く。





そこには

精神が変容し、快楽と幸福の違いが分からなくなってしまった両親が互いを弄りあっていた。馬の親愛行動で、仲間の立髪を噛んだりするとは聞いたことあるけど、人間もなんて、知らなかった。



楽しんでるようにも、助けを求めているようにも見えて、とても綺麗だったのをおぼえている。





破滅願望が芽吹いた気がした。





犯人は未だに判明していないが、

過去の事件例で、〝死に至る光〟というスキルを知った。勇者のスキルらしい。






晩秋の候、

私の師匠、先代の紅の魔王と出会った。


私刑者な彼女は、地獄の沙汰も金次第が口癖で、金の話をよくしていた。



「金は万能だ!あらゆる問題を遠ざけ、解決する!最期には金さえ無意味だと!?知らないのか?彼岸でも使えるんだよ!?」



生前、他者に使った額が、三途の川の渡し賃となるらしい。


なら、豪華客船で渡りたいと思ったが、

泳いで渡ったとて、変わらぬと彼女は言った。




金自体に価値はないんだと彼女は言う。

経済力が家族を守る力だから、女は年収や仕事のキャリアを重視するのだと。





「そう?金なんかよりも人族を信じるわ!どう稼ぐかも大事だけど、どう使うかも大事よ!」


だからといって、目の前の金に眩むことのない彼女。




「金を払っているからって、自分の思い通りになることはないぞ?そんなことを考えているから店員さんへの態度が悪く、女にモテないんだ!気遣いはタダよ?」


綺麗に金を使う彼女。









「モテたい、有名になりたい!その欲望を金に換えて何が悪い?」



ある時、〝あいどるぷろでゅーさー〟と名乗る異常の男に金で殺された。






「君、如才ないね!完成したパズルを飾らないタイプだろ?ん?何をしたかって?そりゃ、プライドは金にならないだろ?ん?おいおい、殺すだなんて、そんなに口説いて、好きになったらどうしてくれるんだ?ん?それはお守りかい?得難い答えをそういうのに求めてしまう気持ちは分からんでもないが…ん?スパゲティコード?いや、もしや……命は助けてやる!その代わりにこのお守りを貰っていくよ?なに、お守りがないなら自分で作ればいい!そうだろ?」





ころせころせという輻輳に

胸奥が共鳴する。



ずっと思っていた。

人を殺してはいけない、けど許せない殺してやりたい。自分の中の矛盾。誰もが持ってる自分の中の矛盾。その矛盾が大きくなって耐えられなくなると、悩みになる。

自己矛盾を誰かに解いてもらいたい。

だから相談する。

話を聞いて欲しい。

ただ、頷いて欲しい。

人間の本音なんていくつもある。一つじゃない。複雑なんだ。同居してるんだ。それも分かる。


でも、二重写しなんて映画だけで良い。心にそんな技法は要らない。


感情って後追いしてきたりする。

だから形から入ってもいい。

なら、悩んだら動こう。とりあえず行動しよう。


今することは、そうやってうじうじ部屋の隅で悩んでいることか?違うだろ?


デメリットがメリットを上回った時には、関係に終止符を打つのがベスト。

だから、綺麗な私とはもうさよなら。

正しさより優しさ、そんな考えはもう要らない。





「お前は人間ですらない!精子だ!!!精を放てぬ身体にするぞ?なぁ?脱ぐのと脱がされるの、どっちが良い?」




「熱くなるな!沸騰した水は消えるだけだぞ?それよりも金だ!!稼ぐことが愛だ!それこそが責務だ!利益のない会社なんて、社会にとっても迷惑だ!!税金も払えないお前みたいな奴なんて論外だ!この世は金なんだよ?精子を売って儲けて何が悪い?偶像を売って儲けて何が悪い?売れる商材はなんでも売るんだよ!!お前の師匠の資金のなさを恨むんだな?商売に不況も好況もない!!いずれにしろ、儲けなければならないのだよ!」




「資金の少なさを恨む?違う!恨むなら信用の無さだ!紙一枚だって、景品を付ければ客は喜ぶ!!付けるものがなければ、笑顔を景品としな!!ってのがあの人の教えだった……売る前のお世辞より、売った後の奉仕だろ?ってお前も怒られるぜ?きっと!」






〝露出が多くて楽しめないなら、無理して着なくていい〟



私は、マントと上着を引きちぎって、水着姿になる。


体が熱い。魔力が熱を帯びている。

縄梯子のような魔法陣が至る所に出現する。


「ん?私の身体に見苦しいところなんて一つもない!それに…粋じゃねぇ!」





「その力……魔王を継いだか?…俺は、生も死すらも金で買えるんだ!ここでお前に殺されようと、また蘇る!冥府から呪うぞ?」


「呪われるかも?生きてるよりましさ!それに、良い死に向かうための生だろ?」



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