1-10 紅の魔王
「……………」
もう声も出ない。体の感覚がない。僕はどうしたんだ。
勇者め…強すぎるだろ……
眼も前には、罅の入った白い勾玉。なんとか手を延ばそうとするも届かない。
動かない。くそ、動けよ僕の体。動け、動け。
「…勇者の切り札を使わせるとはな……」
動け…動かない。それでも僕は勾玉に手を延ばす。
体中のシナプスが爆ぜるも、無視して手を延ばそうとする。
「が……」
コーチングにより、自身を鼓舞させる。
コンプリメントにより、腹内側前頭前野を活性化させ、闘争心をむき出しにする。
拡張子に、怒りと名の付く記録を検索し、片っ端から開けまくる。
「あ……」
だめだ、もう心のバッテリーが上がってしまった。いや、まだだ。
僕は、殺意のハンドルに手をかけ、そんな弱気を振り切る。
「……………」
…やっぱりだめだ……体が動かない…疫学的にも、ここは精神論しかないはずなのに……
「…今度こそ終わりだ……」
勇者の持つ対6対の翼が鮮やかな雷を纏う。
動け、動かないと死ぬぞ……
逃走本能に働きかけるも、全く動かない……
レイサ…力を貸してくれ……
「僕は…僕は諦めない!!!」
「火炎スキル:ガードブレイキストームプロミネンス」
「……何!?」
勇者が突如、炎の渦に飲み込まれる。
「もう大丈夫。よく持ちこたえたね」
「…紅の魔王……」
なんだか温かい人だな…
これが、顔に刃創が目立つ、その女性に対する最初の印象だった…
雨はもう止んだみたいだ……