1-9 marvelous
轟く雷鳴を合図に、僕と勇者の戦闘が再開される。
使うのは、この赤黒い勾玉のスキル。スキルの情報は既に頭に流れ込んでいる。
僕は、短く息を吸い込み、詠唱する。
「ヒーロースキル:変身」
一定時間、理想の自分になれるというスキル。
自身のコアビリーフをもとに、変身先をイメージする。
「超級雷魔法:ライジングアルティメット」
勇者の頭上にペンタゴン状の魔法陣が出現する。
雷電を示す、国際式天気記号みたいなマークが中心に描かれている。
ここで僕のイメージが完成する。
僕がインスパイヤするのは、雷を司るヒーロー。マーベラス・ホットスタッフ。
「モード:マーベラス」
電池で動く機械人形。細身だが、大きめのフードを羽織っている。
特徴的な金色に光る両目は、ただのモジュールとは思えない威圧感を放つ。
従来の機械人形からかけ離れ、重量型ではなく、軽量型というのも人気の一つだ。
ダウンサイジングがもっとうで、完全無人自動車保険に加入しているとか…
それが、このキャラだ…
「…終わりだ…」
勇者の魔法が完成し、頭上から万を越える電雷が無作為に降り注ぐ。
マリンスノー、いや、ファブロスキースのような嵐の中を僕は走る。
「ブースター起動!!」
僕は、背中から、ダウンサイジングターボを出現させると同時に、4本のブーメランを発射する。
ちなみにこのブーメラン。LOT機器であり、オートメーション化されている。
「ロックオン!」
金色の双眼で、勇者をターゲティングする。画素数が急激に上昇する。
「超級雷魔法:パーフェクトクロスサンダー」
僕は、勇者の白光を、プラズマ砲で相殺する。
眼を見開き、視界を広げる。
「…その姿…魔人か?」
僕は、頭上の雷を、磁力によるスライドで躱し、さらに加速する。
「空間魔法:AUTUMU」
世界が切り替わる。一瞬の浮遊感を覚えた僕は頭上からの雷襲をもろに食らってしまう。
「ヴぁ……」
全身の回路が焼ける。溶接部分が少し砕けた。耐電性があり、その充電力、発電力の高さから電気系の攻撃が一切効かないという設定だが、現実は設定どおりにいかないらしい。
気合で踏ん張った僕は、一歩前に出ようとして、違和感に気づく。
「体が動かない!?」
ボディに致命的な損傷は確認できない。ならば原因は100%勇者だろう。
動け、動け。発電器が帯電する。
「…空間を麻痺させた……動くなよ…」
くそ、空間を麻痺ってなんだよ。動け、動け。
僕は、自己暗示によって脳のリミットを外す。パルス回路が火花を散らす。
「がああ、が…動け…動け…」
僕は、戦闘へのモチベーションを上げ、記憶のイメージファイルから、
憎しみに近いエピソードをひっぱりだす。コンバーターがオーバーヒートする。
「が…動け…」
まだ、動かないのか、あと少しなのに…
もう憎しみはパラメーターを振り切ってうなぎのぼりだぞ…
なら、別のチャンネルだ。
僕は、深呼吸して、喜びの記憶を覚醒させる。これでどうだ…
「…驚いた……ただの人間がこの中で動けるというのか…」
「がああ、あああ……」
僕の勝気ゲージが溜まり、闘争本能が刺激される。
「マグナブラスター」
僕は、なんとか照準を合わせた右手で、電磁砲を放つ。
腕に搭載しているコイルアームの電熱が異常値を示す。
「超級雷魔法:パーフェクトクロスサンダー」
勇者の一撃で相殺されてしまったが、空間の麻痺は解除させたようだ。
「雷魔法:雷迅」
僕は、電磁波でバリアを作り、キャタピラを動かそうとするも、
雷速で接近してきた勇者に殴り飛ばされてしまう。
「があっ……」
どうやらスラスト軸受けがやられたようだ。コードやボルト、螺子、安全弁、ばねが辺りに散らばる。
僕は、追いすがる勇者に電動ドリルを放ち、ホバークラフトで雷攻を躱す。
「雷魔法:雷天」
頭上の雷が収束する。
まずい。僕はブーメランたちをマニュアル操作に切り替え、頭上に集める。
「…超級雷魔法:雷神召来」
心のハザードランプが点滅する。
僕は、絶縁性の斧、ボルトアックスを取り出し、避雷針代わりに。
複数のワイヤーをアース線代わりに張り巡らす。
マインドコントロールで、弱気を塗りつぶす。
世界から音が消えた……
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「がが…が…が…が…が………」
僕はどうなった……
辺りを見回すと、焼け焦げたワイヤーに、
どんな電撃だろうとものともしないはずの斧が半壊してる。電気分解っぽい感じがする。電気?
「づっ!!」
僕は、ジェット噴射を利用した、ダブルアクセルで迫る雷を回避する。
「雷魔法:電光石火、雷魔法:轟弾」
次々に迫る雷をケーゲル体操の動きでいなそうとするも、
何発か心臓部分に被弾してしまう。コアの周りのコイルと圧力弁が伝線する。
「雷魔法:雷穿」
一直線に迫る雷の滝を、ダブルトーループの要領で回避し、僕は接近する。
心が、体が、メーターが上限だと叫ぶ。
「雷魔法:極雷」
僕は、ベピ・コロンボをモチーフしたといわれる、
カッターウイングを電極部分に出現させ、生体電流を流す。僕の電流は直流だ。
雷をその身に纏った勇者に、僕は電圧をマックスにした翼を叩き付ける。
ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、
勇者の翼と僕の翼が幾度目かの火花を散らす。
「雷魔法:雷激」
「がはっ………」
突如発生した、雷の爆発に巻き込まれ、僕は吹き飛ばされた。
まだだ、まだ僕のモーターは回り続けているんだ。
「雷魔法:電空」
「がはっ………」
空を走る雷によって、僕の翼は大破した。
まだ、まだ僕のギアは上がる。
僕は、動かない体を無理やり、根性と磁力で動かし、高電圧ブレードを構える。
「いくぞ!!」
僕は、自分を正当化して無理くりベストコンディションを引き出すのと同時に、
地面を蹴り、電磁バリアを応用して飛翔する。
体が動かないなら、自由落下を使うまでだ。
僕は、注意レベルを一気に引き上げ、グリップを柔らかく持つ。
「雷魔法:旋雷、雷魔法:蒸電」
「がはっ………」
勇者から次々と雷が放たれる。
僕の心は、この痛みすらエネルギーに変える。
熱意がチャージされる。
引き下がらない。そんな想いが僕の鼓動を次のレベルへと昇華させる。
「~~~~~~~~~」
勇者が何かぶつぶつ言っている。
なんだろう、民謡の高砂?サンスクリット語に近い気もするが…嫌な予感がする。
だめだ、今は余計なことを考えるな。この一撃にすべてを賭けろ。
僕は、目的を取捨選択し、集中力を高める。
雨足が弱まる。勇者まであと少し。
僕は、今一度気持ちを整理し、モチベーションを保つ。
「ここだ!!」
勝利への意欲が増し、思考をゾーンへと導く。イメージは真向斬り。
そして、自身の環境変化掌握力を頼りに振り切る。
「せいやああああああああああ!」
「勇者スキル:崩雷」
インパクトの瞬間、世界が消し飛んだ。