11-6 アンインストール
本物の人は、自分が何者であるかの責任を持ち、自分自身が自由であることを認識している
ジャン・ポール・サルトル
北風の強い夕方。
「Exスキル:ディアマリア!」
私は、神聖な力で、粗品乱造された刃たちを砕く。
「音スキル:セイクリッドアーギュメント!」
状況は劣勢。破壊の筝曲が舞う戦場には、私と〝あいつ〟が佇むのみ。
「ほう…人間にしてはやるな………それに貴様…王家の血を引いてるな?王家の名の下にワレヲ降すか…」
「いえ、王家ではなく、崩雷の名の下にあなたを葬るのです!身体強化スキル:セントラルバルク!」
「貴様ぁぁぁ!!空間魔法:死屍累々」
メタ的に広がる、バーガンディ。
降り注ぐ悪意と対称的な、マスクの下の笑顔。そのドス黒い恍惚には、吐き気がする。
「拳スキル:リベラルフィスト」
「拳スキル:ベリアルフィスト」
〝執愛の詩人〟と呼ばれる悪魔の拳と私の拳が拮抗する。
「へへ、そんなもんか?」
「くっ!?…」
まずい!逼迫したこの状況をなんとかしないと…
「さらにぃぃぃぃ!空間魔法:跳梁跋扈!」
「させません!!!空間スキル:クリーンナッププルーフ!」
私の空間とあいつの空間が癒着し、征される度、軋轢音が鳴り響く。
「死ね!」
「ぐっ…」
私はそのまま、髪を引っ張っぱられ、膝蹴りをくらう。
「舐めるな!!王スキル:クイーンズオーソリティ!」
「なっ!?……やるじゃねぇかよ!だったらこっちも………!?」
「遊びは終わりだ!帰るぞ!!!」
「っ!?」
「おい、女……お前、いつからそこに……」
「波スキル:プリーザントウェーブ!」
「おい、くっ………」
「波スキル:エターナルプリデスティネーション」
「ちょ、やめ:…」
「火スキル:サンバーン」
「あ……」
「波スキル:離岸流」
これが…B級の力……………
「行くぞ!!!!!依頼は中止だ!、時間がかかり過ぎてる……早く二人を起こせ!」
私は、同じパーティーの二人を起こしながら、花馬車へと向かう黒髪の女性に目をやる。
彼女は、セフゾン・アドナ。
顔には、引っ掻き傷や汚れが目立ち、
彼女の好みかもしれないが、かなり男の目を意識したファッションだ。その実力はギルドの一翼を担う。
私達のお目付役。そして…
崩雷様と同じ、勇者…
まず、私の超えるべき壁だ。
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以前に比べてスマホの使い方が変わった。
キッカケは、8年付き合ってる彼。
特技はチェーンスモーク。趣味は三次喫煙。
周りからは、ストピットと馬鹿にされるが、私は彼のスモーカーズフェイスという言葉ではとてもじゃないけど、チープすぎて表現できない、そんなグレーブラウン色の顔が好きで好きでたまらない。
それに問題なのは魂だ、見た目なんて関係ない。実体二元論がもっともっと広がればいいと思っている。
そんな愛してやまない彼はある日、
デジタル・デトックスに良いと、高速道路へ通うようになった。
しかし、ある時から、課金アプリをダウンロードしては消し、消してはダウンロード始めた。
まさに、朝令暮改。
でも、彼は霞を食べてるような人。
シニフィエとシニフィアンは人によって異なると言うし、何か理由があるのかも?
君子危うきに近寄らず。
彼ほど、素晴らしい人間ならきっと大丈夫、
彼は倍率が高過ぎて、常にレッドオーシャン状態。
でも、第一印象は、
「ああ、この人、モテないんだろうな…」
出会いは、サドベリー・スクール。
初デートは、居酒屋チェーン店。
そこは揚げ物が多いお店で、彼が揚げ物祭りを注文してしまい、ちょっとだけ胃と心と雰囲気がモヤモヤ。唐揚げ、美味しいんだけど…
「もう少し経ってからならこういうのもいいけど、せめて最初のうちは…」
周りの友達は、諦めることで平安を得てもいいと言うが……四色定理のように不可解な話だ。
確かに男(道)は幾千といるが、山頂はひとつ。
彼氏なんてただの道に過ぎない。
彼は最高の男(道)。
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青天井
① 青空。空。空を天井に見立てていう。野天。
② 物の値段や取引相場が天井知らずに長期間上がり続ける状態。
「まず、その自慢癖を治した方がいいわ!言わぬが花と言って、女性をいたずらに不安にさせるだけ……。正直に話してくれてありがとう!なんて誰も思ってくれません」
ミサキは、傍白のようにそう語った。
あれから2時間。
この、イーハトーブ?いや、雑居房のような空間に僕たちは囚われていた。
「な、な、なるほど…」
「あ、あの、そろそろ僕たちは出づ…あ、はい……すいません」
「浮気を疑ったりすることも、全てはコミュニケーション不足が引き起こします…古代ローマの喜劇家、プブリウス・シルスは名言で、興味を抱く人間に対して興味を抱く!というを遺しています。」
言葉の数々が宙を舞い、街宣車の音のように、偏に、耳を通り抜ける。
「結婚前には両眼を大きく開いて見よ。結婚してからは片目を閉じよ!という名言は、聖職者で歴史家のトーマス・フラーによるもので………」
酸化し、弾力を失ったゴム糸のように会話が弾まなく、二人の距離がだんだんと伸びていくような気がした。
いや、僕たちがいる意味ある?笑笑